従業員との雇用関係は、話し合いで成立するものであって、必ずしも雇用契約書を交わす必要がないよね。だったら雇用条件をいちいち書き記さず、互いの気持ち次第でその場その場における最適な対応をすればよいものなのでは、という風なコメントを、たまに台湾の事業主から聞いたりしています。
互いの気心が知れて、従業員の入社から定年退職までずっと良好かつ健全な労使関係を築けたら、わざわざ契約書を作って互いの関係をガチガチにする必要がないかもしれません。ただし、現実は往々としてそううまくはいかないものです。ファミリー企業でさえ同族争いが絶たないぐらいですから、全く赤の他人を雇い入れ、かつ何もかも互いの信頼関係に任せると、近い将来においては、何らかの形で労使紛争が起きてしまう恐れがございます。前述したリスクを最小限に抑えるためには、きちんとした契約書を作成し、丁寧に新入社員の方に確認してもらううえ締約することが有効です。
雇用契約書にどういった内容が必要?
台湾の労働基準法施行細則第7条によると、
雇用契約書の記載内容
- 勤務地と業務内容
- 出退勤時間・休憩時間・休日・祝日・休暇、交代勤務の有無
- 賃金とその支払い方法、日時
- 労働契約の締結、終止、定年退職
- 解雇手当、退職金、その他手当及び賞与
- 従業員が負担すべき食事代、宿泊代、器具備品費
- 安全衛生についての規定
- 社内教育と訓練
- 福利厚生
- 労災補償及び傷病手当
- 遵守すべき規律
- 奨励と懲戒
- その他
というように、少なくとも13項目にも及ぶ内容を契約書に盛り込む必要があります。話し合いで、これぐらいの要決定事項を決めるには、やはり相当な労力と記憶力が要求されますね。しかもいざ労使紛争が起きますと、大体において、立証責任は雇主が負担しなければならない点を考え、雇用契約書の使用はやはり必要不可欠のように思います。
ネットから適当に無料な雛形を探して...
ネットに上がったやつは必ずしも労働法に則って作成されたものとは限らず、ましてや全ての会社さんに100%問題なく使用していただけるような作りになるはずもございません。たとえそのような雛形から、自社の雇用条件に合致させるよう一部の条項に加工を施してから使用しようとしても、当該加工は果たして労働法上で問題ないか定かではありません。未知なるリスクを抱えたまま、後先考えず締約することはあまりお勧めしないと思います。例えば次のようなものは典型的な例です。
試用期間の設定
「雛形にあった3か月間の試用期間がちょっと短いから、8カ月にしましょう!」のような変更はたまにあります。労働法では確かに試用期間については具体的な指導がなされていないものの、裁判実務では、合理性を欠ける長めの試用期間については、きちんとした理由のないものとして無効と判断されるケースが多く存在しているため、この辺の設定は直感に任せないようにご留意いただきましょう。
勤続年数の計算
「試用期間での働きは、修行みたいなもんで、一人前(正社員)になるまでは、勤続年数の計算をしない!」との考え方は、数年前なら通用するかもしれませんが、労働法の整備が相当なされている今ではNGとなります。パートタイマー社員でさえ勤続年数の計算対象とされるぐらいですから、試用期間にあった無期契約の社員に対しては、「入社日(雇用開始日)」から勤続年数の計算を開始必要とのルール(労働基準法施行細則第5条)を念頭に置いといて、雇用契約書の作成に臨んだほうがよいです。
出退勤時間と休憩時間
正午ぐらいに、1~1.5時間の昼休みを入れたりする出退勤時間の設定は普通のように思われます。かといって、午前と午後の始業時間にきちんとしたバランスを取らないと、違法するリスクが濃厚になってまいります。
例えばとあるメーカーさんは8時出勤で、12時になったら1時間の昼休みを入れて、17時で退勤、との出退勤時間を設定しており、これが一番オーソドックスで、パーフェクトな例ですね。
とある商社は9時出勤で、12時に1時間の休みを入れて、18時退勤、との体制を取っています。こちらはかなり微妙で、行政の判断で労基法違反と認定されるケースも稀にあります。
さらに、とあるサービス業の会社さんは業務形態の関係で、10時出勤で、やはり12時に1時間の休みを入れて、8時間フルでの出勤時間がほしいので19時を退勤時間にしました。こちらは既に微妙の域を超え、労基法での、”従業員に継続して4時間を働かせてから、最低30分間の休憩を入れなくてはならい(労働基準法第35条)”に違反したことが明らかとなってしまいました。
労働法を知らない状態で出退勤時間を設定し、社員に遵守させてしばらくしてから、労働局が会社に舞い込んで、”旦那、会社作って早々申し訳ないが、労基法違反したのをご存じ?”と言われたらおしまいです。行政からのペナルティは払ったら終了ですが、これからの出退勤時間の調整作業は結構大変で、かかる労力が半端ないと思われます。「最初から専門家と相談したらよかったのに...」と思い始めたら、下記のホットラインですぐマサヒロへ連絡してみましょう!