台湾進出を検討する際に、台湾現地法人、支店、又は代表者事務所のどちらを設立したらよいかを、悩んでいらっしゃいますか。
台湾現地法人の設立は、3択の中で一番時間がかかるため、手続きを行う前にしっかりとスケジュールを組んでから臨む必要があります。
一方、支店の場合、台湾現地法人より設立の時間は若干短いですが、台湾で展開可能な事業範囲は日本本店を超えてはいけないという生まれつきの制限があって、台湾で何か新規事業をやろうとするときは要留意です。
最後、代表者事務所の設立をご検討なさっている方は、一点要覚悟な事項がございまして、それは「台湾国内での営業行為ができない」とのことです!
以下、台湾現地法人/支店/代表者事務所の設立の大まかな流れを見てみましょう。
目次
台湾現地法人の設立
社名と事業内容の予備調査
子供が生まれたとき、最初に必要とされるのは名前を付けることです。(というか、お母さんのおなかに居たときに既につけられたことも全然考えられますが)ですから、台湾現地法人の設立の第一歩は、「社名と事業内容の予備調査」となります。
難易度D(マサヒロ基準、以下同。)の「社名と事業内容の予備調査」をオンライン登録でサックと終わらせ、2~3日待てば終了のようなイメージです。
外国人投資許可の取得申請
次は、難易度Bの「外国人投資許可」の取得申請です。
こちらの手続きは、台湾人が行う法人設立にはなく、外国人のみの手続きとなるため、主にローカルの案件を対応する事務所さんはたまに失念したりするようです。
難易度にBをつけた理由は、台湾国籍保有者、又は台湾の居留証(在留カードに相当)を保有する外国人でなければ、申請できないので、初めて台湾で起業する方は、まず申請代理人を見つけなくてはとのハードルにぶつかります。
また、所定の申請書はこの間フォーマットの更新がなされ、記載必要な内容が相当増えており、投資計画を含めいろいろストーリーの作成に想像力を働かせなければだめなので、ひと手間がかかります。
一番文句を言いたいのは、この間はコロナの影響で、ただでさえスタッフが不足気味な投資審議委員会(本手続の審査当局)にリモートワークが導入された原因もあって、前までは2週間強ぐらい許可が下りる手続から、たとえ申請書類に一切の不備がなかったとしても、おおよそ1ヵ月前後ぐらいの審査時間を要されるモンスター級の手続へとパワーアップしてしまいました。気長に対応必要です。
資本金送金用準備口座の開設作業
上記、外国人投資許可の取得申請と同時進行可能な手続きとして、「資本金送金用準備口座の開設作業」があります。
通常は、会社の登記住所に一番近い地場銀行にて、準備口座を開設したりしています。主な理由は、お金のやり取りで、急を要する場合が多く、午後の3時半までしか営業しない銀行でいろいろ手続きを行うこととなると、やはり手の届く距離にあった銀行を選択したほうが安心だ、ということでしょうね。
比較的に厄介なのは、口座開設は通常、一部の手続きに会社の責任者で自ら行うことか要求されていますが、新型コロナウイルスの関係で、日本人の方が今までのようにノービザで台湾と日本を自由に行き来できない状態下においては、それが物理的に難しいので、依頼しようとする銀行に、この時期においての経過措置ないかについて、専門家経由で、銀行と交渉しながらすすめていくことになりそうです。
資本金の入金審査
車を動かすには、ガソリン又は電力が必要となります。会社を機能させるためにはお金が必要不可欠です。
これから作ろうとする会社にいくらでスタートさせるかは、上記、「外国人投資許可」の申請書に明記する必要があり、当局も申請書の記載をもとに審査を行っていきます。
審査が終了し、晴れて投資許可を取得できたら、次は資本金を海外から準備口座に投げる番です。
こちらの手続きはぶっちゃけ分かりやすいです。海外にあった代表者名義の口座、出資者が法人の場合当該法人の口座から、審査当局が許可した額に相当する日本円をもって準備口座に入金させ、銀行から取得した着金額を確認できるエビデンスとともに、別途作成必要の入金審査申請書を外国人投資許可と同じところへ郵送終了後、審査結果を待ちます。
以上同様、審査当局がリモートワークを実施する関係で、もともと1週間ぐらい待てば許可が下りるイメージから、担当者に電話催促しなければ、のびのびと審査がされていく感じです。ただ、外国人投資許可の審査時間と比べたらだいぶ短いというのはせめてもの救いですね。
法人設立登記
資本金の送金が終わったら、いよいよ会社設立の本番、「法人設立登記」となります。
こちらの手続きについて、審査時間は以上のいずれかよりも短いわりに、提出必要な書類は一番ややこしくて、作成はとにかく時間がかかります。
そのうち、予め設定した資本金がきちんと払い込まれたかを台湾の公認会計士が調査を行い、その調査結果を示した「資本金監査報告書」という書類は、日本人の起業者、又は今までの手続きを協力してくれていた台湾の知人ではどうしても対応することができず、台湾の会計士資格を保有する公認会計士でないと発行できない類のドキュメントとなっています。
そのため、ほとんどコストをかけておらず、いろんな試行錯誤で頑張ってきた起業者は、この段階に来て、少し小銭を落とさなくてはならない覚悟を決めていただきましょう。
その他気を付けておいたほうがよい書類に、例えば会社定款がそうです。
英語社名を付けるか?
法改正後で設定可能な無額面株式を早速チャレンジしてみますか?
”取締役と監査役がそれぞれ何名にするか?
配当金の支払いを年間何回にするか?
役員報酬を利益の何%にするか?
...などなど、これからの事業展開や税金対策に深く関わる設定は予め定款に定める必要があるため、「当初〇〇したらよいのに...」のような無念を感じないように、この辺の手続きは専門家に相談しながら慎重にすすめましょう。(ご参考に、台湾の経済部が公開した株式会社向けの定款のテンプレを共有します。〈会社定款(中国語版)テンプレのダウンロードはこちら〉)
営業人(事業者)設立登記
法人設立が終了し、会社名義で自由に事業展開ができるようになったから、ほかにまた何か手続きあるの?
書類作成で大変気苦労をしていた法人設立登記が無事終了し、当局から許可通知書を手に入れた瞬間、これから天下取るぞ!との気持ちにしばらく浸っていたら、税務署から急に通知が来て、”速やかに営業人登記をしてください”旨の催促文書が届きます。それはまさに、法人設立登記後にて対応必須の「営業人(事業者)設立登記」の手続きとなります。
法人設立登記が”会社法”にて定めのあった法定義務と位置づけすれば、営業人設立登記は”税法”における法定義務となるでしょう。台湾で会社として営業活動を行い、それに関する仕入や販売取引が発生しましたら、一部例外な状況を除き、統一発票(日本の適格請求書と類似)という公的インボイスを仕入先から取得したり、販売先へ提供したりする義務があります。統一発票は自ら作成できるものではなく、台湾の国税から委託を受け、合法的に販売できる場所、例えば各地の農協、カルフール(スーパー)、信用組合等で予め購入必要となります。統一発票を購入するためには、まず”営業人”として国税に登録しなければなりません。
統一発票を入手するためには、営業人設立登記はとにかく避けては通れない手続きなんですが、もっと重要な意味合いとして、”税に関する全ての手続きができるようになるから”との点があげられます。「台湾税務についての各種ご相談」に書いてあった法人に関する税金の申告納税は、原則として営業人それぞれで行う必要があり、営業人になるための設立登記をしておかないと、税に関する手続きが一切できず営業活動に大変な支障が生じてきますので、今までの手続きでほとんど入手済みの資料を税務署に提出し、登記手続きを速やかに終えましょう。
法人IDカードの発行申請
14才以上の台湾の個人は、必ずIDカードを申請し(戸籍法第57条)持参しなければならない(戸籍法第56条)との法定義務が定められたのに対して、法人の場合は、法人IDカードを保有していなくても一切ペナルティは発生しません。
かといって、こちらの発行手続きをそのままスルーしてしまうと、会社の運営ではいろいろ不便が生じてまいります。法人IDカードを持っていたら、即日完成可能で書類の郵送も必要とされない手続きであっても、カードがない場合には、申請書類一式を手間ひまかけて作成し、全て印刷して審査当局へ郵送しなければならないなど、エコでないのみならず、コストもかかり時間も費やされます。
一番典型的な例は、日本人の責任者又はスタッフが台湾に居住するための起点である就労許可の申請、社会保険の加入・調整・脱退手続等がそうです。コロナ感染を抑制するために、いろんな手続きのオンライン化が進んでいる今、それらをアクセスするエントリーチケットとしての機能を有する法人IDカードを申請しない手はないと思います。
政府系の電子プラットフォームである会社設立ワンストップサービスウェブサイトを活用したら、別途申請書を郵送せずとも楽々申請できますので、法人設立登記の手続きを行う際に、420台湾ドルを払い早速カードを入手しましょう!
輸出入事業者の登録
国際貿易事業を定期的に行おうとする事業者は、法人設立登記ができて、法人格を取得した後、経済部国際貿易局に対して「輸出入事業者」の登録を行う必要があります。
過去においては、所定のフォーマットで申請書を作成し、その他審査必要な資料とともに当局に提出し許可を取得する、という地味かつ時間のかかる手続きが義務付けられていましたが、ぺーバーレスやオンライン作業の風潮に乗っかる形で、輸出入事業者の新規登録又は情報の更新を問わず、「輸出入事業者登録システム」という当局が設けたウェブサイトにて、無料で手続きができるようになりました。
当該サイトを利用しての手続きが終了しましたら、当局の電子印鑑が押された各種の証明書類をダウンロード可能であり、非常にエコで郵送時間も必要とされていません。ただし、こちらの段階で要留意なのは、予め会社定款に自社の英語社名を定め法人登記も完成させたからといって、当該定款にあった英語社名は必ずしも輸出入事業者の登録時に使用できるとも限らず、法人設立最初に行ったと同じい要領で、英語社名に対しても予備調査を行う必要があります。
ですから、もし法人設立を検討する段階から、既に国際貿易事業の実施を視野に入れるのであれば、定款に英語社名を定める前に先立って、いくつかの英語社名を考えて他社と重複しているかの検証を行ってから定款を作成することがお勧めです。
取締役・監査役・経理人(支配人)・持株比率10%超株主の開示義務
2018年10月以前の法人設立であれば、上記、輸出入事業者の登録手続きを終了させたら、登記手続はひとまず終了となります。
一方、2018年11月1日に発効した改正会社法に定めるところによると、新規に設立した会社は、設立後の15日内に、主務機関が指定した情報プラットフォームにて、取締役・監査役・経理人(支配人)・持株比率10%超株主の氏名又は社名、国籍、生年月日又は設立日、身分証番号、持株数又は出資額その他主務機関に指定のあった事項を電子方式で申告を行う必要があり、主務機関からの催促通知を受けてなお是正しない場合は、ペナルティとして会社の代表取締役が5万~50万台湾ドルの過料に処されてしまい、是正するまでの間は連続的に処罰できるという、非常に重たい罰則が設けられる、新しい手続ができてしまったわけです。
しかも従来的なペーパー申告は受付できず、一旦会社の法人IDカード又は会社責任者の「デジタルIDカード(中国語:自然人憑證)」をもって申告用のアカウントを作っておかないと、申告したくてもできないという、デジタル化の徹底ぶりがうかがえます。ここで一つ疑問が出てまいります。
法人IDカードの申請は強制ではないと思い、申請を行わなかったは、台湾国籍を保有していないのでデジタルIDカードも入手できません。”それじゃ何もできないのでは?!
その通りです!この難点は、もはや不便の領域を超え、法人IDカードを持たなければ物理的に克服不可能という風になっています。420台湾ドル VS 5万↑台湾ドル、どう対応するかは自明の理となりましょう。
その他には、特許事業におけるライセンス申請、メーカーに必要とされる工場登記、飲食業に義務付けられる食品薬物取扱事業者登録作業、社会保険加入事業者の設立など、時と場合によって、ほかに対応必要な手続きがいくつかありまして、内容のボリュームを考慮し、別稿にて取り扱わせていただくことといたします。
支店の設立
日本での既存会社をもって、台湾でその支店を作ろうとする場合には、最初に要対応な手続きは現地法人と一緒で、「社名と事業内容の予備調査」と「準備口座の開設」となります。(詳しくは上述の内容を参照。)両手続きの次は、本丸の支店設立登記がいきなり登場してまいります。
日本での既存会社に、持株比率又は出資額で30%超が中国の個人、法人、団体その他機構に直接又は間接的に保有され、若しくは30%超を有していなくても実質的な支配力が同中国の個人、法人、団体その他機構にあった場合は、支店設立登記を行う前に現地法人同様な投資許可を予め取得必要であるとのルールも合わせて留意してください
外国会社と台湾支店の設立登記
2018年11月1日に、改正会社法の発効によって、外国会社は一旦台湾で許認可をとってから、本支店の設立登記を行う、という今までの法定手続が撤廃され、許認可無しで本支店の設立登記が直接できるようになりました。
現地法人と比べたら、役員構成や会社定款を検討する手間が省き、その辺は日本本店の設定をそのまま台湾に引っ張ってきて使用できる形となります。
別途検討必要なのは、台湾の現地責任者及び経理人(支配人)の指定と、支店の運転資金としてどれぐらい入れるかといったものです。現地責任者と経理人は台湾国籍の保有者でなくても問題ないので、業務視察等でちょくちょく訪台し、場合によって台湾の居留ビザを取る可能性がある日本人籍の社員を指定したら無難でしょう。
運転資金の送金は、現地法人の資本金同様、台湾の公認会計士に依頼し、着金した運転資金の審査を行い、審査結果を証明する監査報告書を発行してもらう必要があります。
運転資金への監査報告書を入手してから、その他設立用の書類とともに当局へ送付し、登記結果通知が届くのを待つ、というのが最速パターンとなりまして、ただ実務上では、当局から何等かの通知書類無しでは、”海外からの送金使途が不明のため、運転資金の着金を承認できない”と銀行側から言われる可能性が非常に大きいので、今のところ、実現可能性が低い最速パターンではなく、あえて2段階に分けて、当局へ本件申請を行う対応方法が最も一般的です。
その他手続
上述した、支店の設立に関する本丸の手続きができてから、その後の要対応事項は現地法人と大体同じ要領で、営業人設立登記、輸出入事業者の登録をこなしていけたら問題ないでしょう。
一つ現地法人にない、支店にあるメリットは、「取締役・監査役・経理人(支配人)・持株比率10%超株主の開示義務」がない点です。
経済部が公表した、取締役・監査役・経理人(支配人)・持株比率10%超株主の開示義務に関するよくある質問のなかで、”外国会社は、台湾の会社法に基づき設立した会社ではなく、会社法第377条に定めのあった外国会社が要準用対象条項のなかに、第22条の1も含まれていなかったため、外国会社に本件の申告義務はない”との説明があります。
従って、当該申告を行おうがために、わざわざ法人IDカードの発行申請を行ったりする必要もなくなります。
代表者事務所の設立
日本の既存会社の名義で台湾で設立する代表者事務所は、現地法人のような独立した法人格も有してなければ、支店のように営業活動を自由に行ったりすることもできません。
従って、設立の手続きは三者の中で一番シンプルで、時間もほとんどかかりません。手続が簡単とは言え、それなりの税務コンプライアンスが求められていますので、潜在顧客を開拓するかたわら、必要な税務申告義務を留意しておきましょう。
要チェック!
※日本の既存会社に、持株比率又は出資額で30%超が中国の個人、法人、団体その他機構に直接又は間接的に保有され、若しくは30%超を有していなくても実質的な支配力が同中国の個人、法人、団体その他機構にあった場合は、代表者事務所で行おうとする活動の範囲がポジティブリストを超えていないかを事前に要チェックとの事項も合わせて留意してください)
外国会社台湾代表者事務所の設立登記
設立登記の申請は、原則として日本での既存会社から指定を受けた台湾代表者から提出しなければなりませんが、台湾の弁護士又は公認会計士を代理人に立てて本件申請に関する一連の流れを協力してもらうことが可能となります。
留意していただきたいのは、台湾代表者を指定する委任状のなかで、予め当該代表者が既存会社に代わって台湾国内で行える活動、例えば締約、見積、価格交渉、入札参加、物品の調達などを明記する必要があるほか、直接収入がもらえる活動の実施はNGであることをしっかりと覚えておきましょう。
源泉徴収事業者の設立登記
代表者事務所は、台湾において収入をもうえる営業活動を行ってはいけないから、営業人設立登記手続は不要となります。
これで、税に関する申告手続は一切行う必要がなく、納税義務も発生しないはず、という風に考えるのは危険です。
事務所を借りるので、レンタル料に関する源泉申告の義務があるほか、事務所のアシスタントを雇ったりすることで発生する賃金支払い、台湾代表者個人への賃金支払いについても、それぞれ源泉申告の義務が伴います。こういった源泉申告を行うためには、事務所ができてから、税務署に対して「源泉徴収事業者の設立登記」を申請しなければなりません。
もう一つ、存在自体さえよく気付かれない申告義務として、法人税の確定申告があります。
収入がないから、課税所得ゼロの状態で確定申告を行うには意味ある?
のような質問はまず湧いてくると思いますが、台湾財政部が発行した解釈通達によると、外国会社の台湾代表者事務所に営業外収益があった場合には、法律に基づき営利事業所得税(法人税に相当)の確定申告を行い納税しなければならない、との定めがあります(財政部760502台財税第7586964号通達)。
営業外収益というのは本業以外の活動で得られる収益であり、一番典型的なのは代表者個人名義で開設した銀行口座に、銀行から振り込まれた預金利息です。台湾事務所の月次レンタル料の費用計上で、微々たる銀行利息を瞬殺しますから、営業外収益があったとしても実質課税所得が発生しませんが、申告義務をきちんと対応し、国税に付け入る隙を与えないよう注意しておきましょう。
終わりに
盛りだくさんの内容をご覧いただいていたら、内容の整理が追い付かず、三択のうち、果たしてどちらが自分にとって一番相応しい進出形態なのかを悩んでいるようでしたら、マサヒロ手作りレポート、"【マサヒロ起業支援コラム】台湾での起業形態を教えてください!"を読んでいただきますようお勧めいたします。
それでもうやむやが完全に解消できなかったら、以下連絡情報で、電子メールなり、電話なりマサヒロへコンタクトを取ってください。ご連絡を楽しみに待っております!
Check!
マサヒロでは、台湾現地法人/支店/代表者事務所の設立手続に関する一連の流れをワンストップ的に協力させていただけるほか、銀行口座の開設に必要とされる一切の代行業務、税についてのご相談などを承っております。必要に応じて、何時でも気軽にマサヒロへご相談くださいませ。