法人を作らずに済む、居住実績が要らない、なおかつ高年収を証明する納税証明も提出しなくてもすぐビザをゲットできる?!台湾の「起業家ビザ」について
台湾で働くときは、本社は税金の面倒をみてはくれるが、日本に戻ったら社会保険料と税金だけで給料の半分ぐらいがとられるから、それを考えるとやる気が一瞬なくなったね。
お気持ちをお察しします。
そこでちょっとご相談だけど、税金と社会保険料がリーズナブルな台湾に移住しようと思っているわけだが、手持ち金ゼロ元で、かつ会社も作らなくてもゲットできるという、敷居が非常に低い「起業家ビザ」を早速申請したいなと。どうかな?
台湾に移住して、ゼロから事業をスタートすることを考えるなら、通常のやり方だと、サラリーマン時代の所得が一定額を超えれば就業ゴールドカードを申請し、比較的作業時間がかかるが、NT$数十万元の手持ち金を銀行に預け入れて台湾法人を作り就労ビザを入手する方法が取られています。
実は、台湾の制度上、起業しようとする外国人に用意しているのは、一般的に知られている就業ゴールドカードや就労ビザだけではなく、知る人ぞ知るの「起業家ビザ」という過去の所得とは関係がなく、会社を作るための手持ち金も一切調達しなくても申請できる「優れモノ」もあります。
所得証明も法人も要らなくて、ハードルが限りなくゼロに近いと思われる「起業家ビザ」は、今までずっと無名な理由は何なのか、のような疑問が自然に浮かんでくるかもしれません。以下紹介する「起業家ビザ」の申請要件をご覧いただければ、その理由がおのずと分かってきましょう。
目次
「起業家ビザ」とは?
手持ち資金がそれほど潤沢ではなく、いきなりNT$600万を拠出して投資移民をしたり、事業展開の計画が既に練りあがっており、すぐ会社を作って就労許可を入手できるわけでもないが、特別な才能を持ち合わせるか、驚異的な潜在成長力を秘めている外国人を台湾に来てほしいと考える台湾政府は、2015年に「起業家ビザ(アントレプレナービザ)」という制度を押し出しました。
冒頭にも述べたとおり、起業家ビザを申請するのに所得要件も必要なければ、台湾での居住実績も求められず、投資金を用意しなくて済むし、法人を作っておく手間もかかりません。そして、初回の申請で最長2年間の在留資格が得られるほか、在留期間が切れそうになったときも更新可能です。一番嬉しいことに、「起業家」は1名のみに限定されておらず、「起業チーム」として申請すれば、複数名分の起業ビザを一度にゲットできるともされます。起業の壁としての初期投資が要らない点は、まさに起業家ビザの最大のメリットと言えましょう。
「起業家ビザ」の申請要件―個人で申請する場合
メリット的に見れば、起業家ビザはその他事業展開系のビザより敷居が低く感じられます。次は具体的な申請要件を見てみましょう。
- 台湾国内外のベンチャーキャピタルの投資を獲得したり、台湾の行政院国家発展基金の「起業家エンジェル投資プログラム」による投資を受けたり、台湾政府認定の国内外または国際的なスタートアップ資金調達プラットフォームでNT$200万以上の資金調達を行うことができた者
- 過去1年以内に以下の園区またはインキュベーション機関に実際に入居していた、または現在入居中で、かつその園区または機関から推薦を受けている者
- 台湾の中央政府または地方自治体が認定した国際的なイノベーション・スタートアップ園区
- 台湾の中央政府または地方自治体が運営するインキュベーション機関、または台湾経済部による国際的インキュベーション機関として認定を受けた機関
- 台湾の中央政府または地方自治体が認定した国外のインキュベーション機関
- 海外の発明特許権、台湾国内の発明または意匠特許権を取得している、または専門的なスキルを有していると認められる者
- 台湾国内の植物品種権または動物の命名を行った者。ただし、譲渡またはライセンス供与されたものは含まない
- 台湾国内外で代表的なスタートアップやデザイン競技会で受賞した者、または台湾政府が奨励する外国人起業家台湾誘致プロジェクトに申請して承認された者
- 台湾国内外で指標となる国際ファッションショー、映画祭、国際ファッション賞にノミネートまたは受賞した者
- その他、台湾中央政府の所管官庁が認定または推薦するイノベーション能力を有する者
- 台湾において、イノベーション能力を有すると認定されるスタートアップ事業を設立し、その事業の責任者、支配人、または管理職を務め、NT$100万以上を投資した者
第8号を別とすれば、ほぼ全ての条件において自らのポケットから初期投資の資金を出したり、法人を予め作ることは求められていません。しかしよく考えれば、「インキュベーション機関に入居していること」や「発明または意匠特許権を取得したこと」、「代表的なスタートアップやデザイン競技会で受賞したこと」といった条件は、法人を作ることより難しいのでは、のような感想を思わず抱いてしまうかもしれません。
そもそも「台湾の中央政府または地方自治体が認定した国際的なイノベーション・スタートアップ園区」または「台湾の中央政府または地方自治体が認定した国外のインキュベーション機関」とはどんな感じの場所なのか?
上記の申請条件に登場する〇〇機関や〇〇園区は、名前だけ見ては具体的にどこを指しているか分からない人がほとんどかと思います。実は、台湾当局にはそれぞれのリストを用意しています。リストをチェックするためのリンクを以下張りますので、必要に応じてご参照ください。
「起業家ビザ」の申請要件―団体で申請する場合
「起業家ビザ」の申請は、個人で行うか、団体で行うか、申請条件はほぼ一緒です。ただし、申請可能な人数は青天井ではなく、最大3名という制限がかかっています。手軽に作れる台湾のマイクロ法人は、設立時に一度に取れるビザは1名分のみであることを考えると、資本金NT$100万の会社を興すぐらいで、一度に3名分の起業家ビザが取れることはちょっと魅力的ですね。しかし、外国人2~3名で同時に出資して会社を作れば、無条件に起業家ビザがもえらるわけではありません。台湾で展開しようとする事業は、「イノベーション能力を有すると認定されるスタートアップ事業」に該当するかどうかがポイントです。
「イノベーション能力を有すると認定されるスタートアップ事業」とは?
「これからは台湾でいろいろ研究開発をやるので、うちの会社には強大なイノベーション能力を持っているよ」と誓約書に書いて当局に提出するだけでは、イノベーション能力を有する事業とは認定されません。
いわゆる「イノベーション能力を有すると認定されるスタートアップ事業」というのは、設立して5年未満の会社、つまりスタートアップであることと、以下いずれかの条件を満たす必要があるとされます。
- 台湾国内外のベンチャーキャピタルの投資を獲得したり、産業創新条例第23条の2の定めに適合したり、台湾の行政院国家発展基金の「起業家エンジェル投資プログラム」による投資を受けたり、台湾政府認定の国内外または国際的なスタートアップ資金調達プラットフォームでNT$200万以上の資金調達を行うことができた者
- 財団法人中華民国証券店頭取引センターの「創櫃版(ベンチャー企業向けの新しい市場)」に登録済みであること
- 台湾の発明または意匠特許権の取得を申請した、または台湾の発明または意匠特許権者からその発明または意匠特許権の譲渡または実施許諾を受け、経済部知的財産局に登録されたこと
- 台湾国内の植物品種権または動物の命名を行った者。ただし、譲渡またはライセンス供与されたものは含まない。
- 過去1年以内に以下の園区またはインキュベーション機関に実際に入居していた、または現在入居中で、かつその園区または機関から推薦を受けている場者
- 台湾の中央政府または地方自治体が認定した国際的なイノベーション・スタートアップ園区
- 台湾の中央政府または地方自治体が運営するインキュベーション機関、または台湾経済部による国際的インキュベーション機関として認定を受けた機関
- 台湾の中央政府または地方自治体が認定した国外のインキュベーション機関
- 会社またはその責任者が台湾国内外で代表的なスタートアップやデザイン競技会で受賞したこと
- 会社またはその責任者が台湾国内外で指標となる国際ファッションショー、映画祭、国際ファッション賞にノミネートまたは受賞したこと
- その他、台湾中央政府の所管官庁が認定した場合
これじゃ起業家ビザの申請要件と大体一緒じゃん、全然難しいよ!3名分のビザがほしいなら、マイクロ法人3社を作ったほうがよほど楽だろう!
そう思われても仕方がありません。確かに、いずれも達成しやすい条件とは言えませんね。こういった条件からしては、台湾政府がどのような「外国人起業家」を誘致しようとするかがお伺えましょう。
起業家ビザは更新できる?
「更新不可」と印字されるビザを除き、一定の条件を満たせば、大体のビザは更新可能です。ビザ業界の新参者である起業家ビザもその例外ではありません。
起業家ビザを無事入手すると、初回の申請で許可される期間は2年です。期間満了日4か月以内の間はさらに2年有効の起業家ビザを更新できるが、以下いずれかの条件を満たす必要があります。
- 起業家ビザの所持者が作った会社の直近1年または過去3年間の平均年間売上がNT$300万元以上であること
- 起業家ビザの所持者が作った会社の直近1年または過去3年間の平均年間営業費用がNT$100万元以上であること
- 起業家ビザの所持者が作った会社がフルタイムの台湾籍従業員を3人以上雇用していること
- その他、審査に十分な運営実績があり、主管機関によって台湾国内の経済発展に貢献できると認定されること
今週の学び
法人が要らない、居住実績も要らない、なおかつ高年収を証明する納税証明の提出も必要とされない起業家ビザは、果たして、台湾で特定のビジネスを行う外国人なら手軽に申請できるビザかどうか、以上の説明である程度の答えが得られるかと思います。
イノベーション機関に入居したり、投資ファンドに青田買いされたり、発明特許権を取得したり、動物命名ができたりするなど、マイクロ法人を作って、就労許可をとって、そして居留証を申請するという手間がかかる一連の作業をこなすことよりハードルを感じてしまう条件だな、との印象を持たれたりします。申請手続きにかかる時間は比較的短いというメリットは勿論あるが、台湾に住居を構え個人事業主としてビジネスを進める外国人の方にとっては、それほど利用しやすい制度ではないと考えられましょう。