契約書でもないのに、損害賠償を請求されるのか!?一見手軽に見えるMOUに潜む法的責任
株式の新規投資や既存株の譲渡の実施を正式に決定する前、当事者間の暫定的な合意を示す書類として、Memorandum of Understanding(以下「MOU」と言います。日本では「了解覚書」や「基本合意書」等に訳されます)の締結が活用されています。投資関係に留まらず、売買取引や何かしらの提携関係を結ぼうとする場面においても、MOUの使用が見られています。
契約書一歩手前のイメージが強いMOUですが、違約したら損害賠償責任等を求められる契約書とは違い、法的拘束力をもって当事者を縛ったりする効果はなく、あくまでも将来におけるとあるビジネスの展開に関する方向作り又は方針決めといった軽い意味しか持たないから、MOU成立後において、その通りに行わなくてもノープロブレム!と思われる方は少なくないでしょう。
確かに、MOUには通常のビジネス契約書のように、合意事項を違反したらすぐ他方から損害賠償を求められたり、違約金を払わされたりすることは多くないかもしれません。ただし、それをMOUの常識だと認識し、内容の詳細をしっかり確認しないまま署名してしまうと、事後において各種大人の都合によって成約できない場合、思わぬ賠償責任を追及されたりするリスクが生じてまいります。
MOUは原則として契約書ほど緻密に作られていません。にもかかわらず、深く考えることなく安易にサインすれば足元がすくわれる可能性は決してゼロではありません。以下、いくつかの設例を取り上げながら、MOUに見落としやすい、気を付けなければならない設定についてマサレポ的に考察を進めてまいります。
MOUに関する設例①
マサヒロ弁当屋は来年の中秋節からグランドオープンする予定です。出血大サービスとして、弁当を1個50NTDで売り出します。どうかご贔屓ください~
じゃ、中秋節の日に250個をお願いしようかな、軽くMOUを作ろう!
取引される商品等が明確に特定できたり、取引金額がはっきりしたり、対象取引が問題なく実施可能であったり、等の条件が揃うMOUは、たとえ正式的な注文がまだなされていなくても、合意事項に遵守しない一方に対して、他方は法的責任を追及可能となります。
上記の特徴を有するMOUは、台湾の裁判実務では、将来において契約を成立させることを約束する「予約」効果が付与され、MOUとは別に「本契約」を締結する義務を当事者に要求できるか、MOU自体がストレートに「本契約」として解釈され、当事者がその通りに行わないと違約責任が問われる、といった見解がなされています。
逆に、MOUにおいては、「段ボール1箱の弁当」を購入したり、「購入単価は実際の購入量によって」決定する、といったはっきりとしない書き方となっていれば、明確性が欠けるため、法的拘束力が発生しない可能性は高いです。
従って、将来において行われうる取引に関する諸々設定が記載されたかどうかをもとに、これから締結しようとするMOUは、単なる大まかな意向確認用の文書であるか、それとも既に契約書として機能可能か、を見極めてから署名することがお勧めです。
MOUに関する設例②
わが社は来年の中秋節にバス旅行を企画しています。昼弁当を数十個用意してほしいですが。
ご贔屓ありがとうございます。来年の中秋節ですね、メモしときます。何個必要かまた教えてください。ただし、途中でキャンセルしましたら、キャンセル料として4,215NTDを請求致しますので、OKでしたら、こちらのMOUにサインしてください。
取引の実施期間や違約金条項等本契約の要素が導入されたら、タイトルがMOUであるにもかかわらず、性質的には本契約と見なされる可能性があります。その場合、当該MOUを守る側は、法的手段をもってそれを守らない側に対して違約金を請求できるほか、場合によっては、損害賠償や逸失利益を求めることも可能とされています。
MOUに関する設例③
来年の夏休みぐらいに弁当何個かほしいですが、キャンセル料無しで予約させてもらえないか?来年になってから本格的な注文を出すから。
いいですよ。では予約の印としてMOUを交わしましょう。
夏休みの何時になるか不明、弁当の数も分からない、キャンセル料さえ要らないから、こんなMOUを相手にする必要はない、という風に高をくくったら、足元がすくわれる恐れがあります。
確かに、取引される商品と金額が不明瞭で、違約責任等契約書によくある要素もほとんど記載されていないMOUは、法律的に本契約と見なされる可能性が低いかもしれません。ただし、オーソドックスなMOUのDNAに刻まれる「予約」機能を侮ってはいけません。
設例③のケースでは、もしマサ君は来年の夏休みの終わりになって、マサヒロ弁当屋に注文を出さなくても、ヒロ君は違約金の請求ができず、マサ君に○○個の弁当を買うよう強制することもできません。ただし、ヒロ君は台湾の裁判所を通しマサ君に対して、弁当の購入に関する注文を出させたり、MOUの違反による損害賠償を求めたりする請求は可能です。この場合、マサ君は自らの過失又は故意によってMOUを違反したかどうかは勝敗の分かれ目となります。MOUの違反が不可抗力によるものだとマサ君が立証できれば、ヒロ君からの損害賠償攻撃をかわす可能性もあります。
MOUの法的効果を薄める方法
MOUの違反で法的責任を問われる可能性がる事例をいくつか見てきましたが、MOU通りに成約ならなくても、損害賠償を請求されない対応方法についても触れておきます。
MOUにある取引条件をなるべく曖昧な書き方で、例えば具体的な商品名の代わりに商品のカテゴリー名、決まった取引金額ではなく○○~○○NTDを記載すれば、取引の実施可能性が低くなり、「本契約」としてみなされる可能性が下がることになって、ひとまずMOUの法的効果を薄めることができます。
そして、MOUの本文に、「本MOUには一切法的拘束力を有しておらず、マサ君又はヒロ君いずれかの一方が事後になって本契約を締結しなかったり、もしくはMOUの定めを遵守しなかったりしても、他方はそれを理由に如何なる法的責任を追及してはならない」的な文言を入れたりすれば、MOUの違反による損害賠償を請求可能な根拠がなくなり、MOUの当事者はそれによる縛りから開放されます。
一方、上記のような調整を行うことで、取引双方はMOUに対しての責任感が弱くなり、MOUを結ぶ意味合いがなくなってしまう恐れもありますので、取引のリスク性を考慮し、MOUにどれぐらい法的効果を加えるかバランスよく熟考する必要がありましょう。
まとめ
MOUは契約書ではないから、遵守しなくても法的責任が生じるわけではない、との固定観念を持つことは危険であるとのことについて、3つの設例で考察を進めてまいりました。まとめますと、以下の特徴を一つでも有するMOUの締結を検討しようとする場合、その背後に潜む法的責任を念頭に入れておくことが重要です。
法的拘束力を有するMOUの特徴
- 記載される取引条件が非常に明確で、取引を直ちに実施しても差し支えない
- 書き方は契約書と大差なく、取引の実施日時や違約条件が明記される
- 違反しても責任なし等の条項が未見で、何時までに本契約を締結必要との記載あり。
MOUの違約責任に関する裁判例を紐解くと、合意書のタイトルがMOU、契約書、覚書等のどれに該当するかを問わず、当該合意書を法律上、契約書と解釈すべき、それとも「予約」機能のみ有するMOUと判断すべきかについて、当事者間で行われたやり取りや諸々証拠、社会通念、経験則等を踏まえ、当事者双方がMOUを結ぶ本当の狙い、目的等をしっかり探求してから判断しなければならない、といった見解がなされています。そのため、MOUにどの程度の法的拘束力があるかを考えるには、前述した書き方についての形式要件のほか、当事者の間でMOUの内容について何回話し合われたか、話しがどこまで進んだかも加味する必要があったりするかもしれません。MOUの内容や法的リスクに悩まされたら、気軽にマサヒロにご相談ください。