10年かかって5回も訴訟したが、未払商品代金まだ払ってもらえない!?訴訟実務で分かるビジネス契約書の要注意点!
コンビニの冷蔵庫を開けて、気に入りの缶コーヒーを取り出し、レジにて代金を払い、統一発票を台湾政府がリリースしたアプリ(くわしくはこちら)で保存して、取引が完了します。
商品売買は通常以上の流れに沿って、単純明快なスタイルで取引が終了するから、わざわざ契約書を作って、各条項を取引先とすり合わせてから締結するなど、七面倒な準備作業を行わなくてもよさそうじゃん?
と思われたりするかもしれません。勿論、100点満点の商品を売り手から、一切ケチをつけない買い手に販売される場合は、契約書を用意しなくても問題ありません。
ただし、大量生産や特注生産だと、数の違いこそあれ、どうしても不良品を出してしまいます。不良品が発見された場合、どれぐらいの割合であれば売り手は責任を負わなくて済むか、どの程度の不良品が出たら、売り手が費用負担のうえ良品交換を実施しなければならないのか、そもそも、何をもって不良品と定義づけできるのか等、契約書なしでは、いざこういった問題点が起きてしまったら、根拠となりうるものはなにもなく、全ては法律の定めによらなければならない形となってしまいます。その場合、通常は責任を負うべきでない一方は、それによって、大半の賠償責任を負わされる可能性も生じてきます。
かといって、売り手と買い手が事前に契約書を交わしたら、一切問題が起きることなく、取引が半永久的無事に続いていくかと言えば、そうとも限りません。
今週のマサレポは、一見単純そうな売買契約による取引双方のトラブルが、5回の訴訟を経てもなお確定しないケースについて考察を進め、それによって、ビジネス契約書にまつわる見落としやすい問題点や、いざ訴訟に臨もうとする場合の要注意点を叩き出していけたらと思います。
代金を払うべきか問題
金型の製造販売を手掛けるT社は、自動車部品の輸出販売事業に従事するA社から注文を受け、商品代金を5回に分けて支払う売買契約をA社と締結しました。
T社が出荷した金型商品は、A社での検品が終了し、かつ量産化も始まったため、T社はA社に対して4回目の請求を行いました。しばらくしてから、ほぼ全ての商品が残金の請求条件である「サードパーティの認証」を通ったにもかかわらず、一部認証を通らなかった商品をA社に2回目の認証手続に出してもらえず、4回目の支払いがなされていないまま、5回目の請求もできずにいました。
最終回の請求を契約通りに行おうと、A社に認証を引き続き出してほしいとT社が要請したものの、なかなか相手にしてもらえなかったため、故意に取引相手への残金支払いを渋る行為があったとして、T社はA社を相手取って民事訴訟を起こしました。
T社から訴えられたA社は、以下の説明をもって反撃に出ました。
A社の主張
- サードパーティの認証を通らなければ、商品価値がないに等しいです。従って、T社は依頼された一部案件を全うすることができず、金型の開発に失敗したため、T社はA社に対して違約金を払うべきです。また、問題がある当該一部商品は手直しが利かないため、ほかの会社に再発注する羽目となりました。T社は、A社から支払いを受けた対象商品の代金、再発注にかかった費用、及び違約金合わせて約1,000万NTDをA社に支払う必要があるため、T社が行った請求との相殺を主張。
- 同じ事業を行う、A社100%出資したP社もT社に発注していたが、T社が2012年初に出荷した金型がサードパーティの認証を通らず、2回ほど直してもらったが、やはり無理でした。途方に暮れたP社は仕方なくT社との契約を解除し、既に支払い済みの開発料、違約金、サンプル料、認証費用等合計約862万NTDを請求することにしました。そして、A社は前述860万NTDの債権をP社から譲り受けたため、それもT社が行った請求と相殺したいと主張。
- T社が出荷したその他商品にも不良があって、口頭でT社に対応を要求したが、手直しが利かないとの回答なので、別途修繕費約93万NTDを支払い、ほかの会社に対応してもらいました。A社が立替た、T社が負担すべきこの修繕費もT社が行った請求との相殺を要求。
- A社が主張した約1,955万NTD(上記の合計額)からT社の請求額である約840万を差し引くと、T社はA社に対して約1,115万NTDを支払わなければなりません。
第一幕:1,000万NTDからのスタート
先陣を切る地裁の裁判官は、本件商品代金未払い問題についてどういった判断を下したかを見てみましょう。
Round 1の見方
- 注文者は、かかる費用を請負人に負担させるうえ、第三者に修繕作業を頼める前提条件として、注文者が定めた期限内に請負人が修繕を行うことができない、又は修繕を拒否することとされている(民法第493条)。なぜなら、請負人が出した成果物を修繕するなら、請負人自身が一番手っ取り早く対応可能と考えられ、コストを最小限に効率よく修繕作業を行えるからである。この最善策を取らず、あえて赤の他人に修繕作業を頼んでおいて、通常払う必要のない修繕費を請負人に負担させるのは筋が通らない。A社がT社に送信した電子メールでは、不良を対応してほしい旨の内容は一切発されていなかったため、かかった修繕費をT社に別途請求することに合理性が認められない。なお、もしA社がT社に修繕の要請を出して、T社が修繕作業を施したら、5回目の請求が可能となる、「対象商品がサードパーティの認証を通った」、との条件が達成できるとも考えらえるため、T社が最初に出荷した商品に瑕疵があったことで、T社に5回目の請求を行う権利がない、というA社の抗弁もあまり合理的じゃない。
- T社に対して、A社100%出資したP社は800万NTD超の債権を有する件については、当該債権が発生した原因は、T社がP社に出荷した商品は使い物にならないとA社が主張したが、A社から提出を受けた証拠書類を精査したら、3項目の品質問題があったが、その他項目は皆クリアされたことが分かった。このぐらいの品質問題で、T社に契約違反の責任を追及することが妥当であるかどうかまず1点。その後P社がその他会社に品質改善の作業を頼んだら、サードパーティの認証を通った成果物もちゃんと提出されたわけなので、当該3項目の品質問題は果たして、「対象商品が使い物にならない」ほどひどい問題なのか、についても疑問を待たざるを得ない。実際のところ、T社が出荷した商品に対して、P社側での検品プロセスは既に完成し、指摘された品質問題があって、サードパーティの認証が通らずじまいだが、少なくともT社は売買契約に則り4回目までの請求を行うことは妥当であり、P社は「商品の開発失敗」を理由に、商品代金や違約金等を含めた800万NTD超の支払いをT社に求めることはおかしい。従って、P社から譲り受けた800万NTD超の債権をもって、T社からの請求と相殺する、というA社の主張は成り立たない。
- 双方締結された売買契約によれば、T社はA社に対して受領済み商品代金と同額の違約金を払わなければならない前提条件は、①不可抗力によって開発作業が完成できなかったり、②量産後8ヶ月内に商品が要求した品質に達さなかったり、③T社の法人格が消滅したりするなどいずれかの状況が有って、「商品の開発失敗」が認められた場合とされている。サードパーティの認証が通ったかどうかはあくまでも5回目の請求ができるかを判断する条件であって、「商品の開発失敗」の程度には至らないため、A社がT社に求めた商品代金の返金や違約金の支払い請求は認めがたい。
地裁は、以上の論点整理に基づき、A社に、年金利5%で計算した利息とともに、5回目の商品代金を含めた1,007万NTDをT社に支払うことを命じました。(桃園地裁102年度重訴字第473号判決)
第二幕:時効の争い
第一審で負けたA社はすかさずRound 2に挑みました。Round 2を担当する高裁は以下のような見解を示しました。
Round 2の見方
- A社とT社が締結した売買契約に、5回目の請求を行うには、第三者が発行する認証合格通知書を提出必要であると記載されているほか、T社が締約後、A社に提出した見積書にあった品質の欄にも認証に関する記載がなされている。そのため、T社にはサードパーティの認証を通らなかった商品については5回目の請求を行う権利を有さないである。たとえA社はT社に不良品への対応要請を出さなかったとはいえ、それが意味するのはあくまでもA社は第三者に支払った修繕費をT社に負担させることができないだけであって、5回目の請求権利はそれによって発生するわけではない。
- T社は、その後不良品と認定された金型を出荷したのは2012年12月1日であり、A社は同年同月20日に当該不良を発見したものの、翌々年の2014年3月7日になって初めてT社に商品代金の返金及び違約金の支払いを要求した。不良発見後1年以内に、買い手が前述した請求権を発動しないと時効となるため(民法第498条)、T社はA社の支払い済み商品代金及び違約金を支払わなければならない、というA社の主張を認めない。
- 上記時効の話しについて、T社は第一審に全く主張していなかったくせに、今になっていきなり待ちだすなんでルール違反だ(民事訴訟法第447条)!とA社が主張した。一方、T社が最初に提出した答弁書に時効の主張が既になされたにもかかわらず、T社側はそれに反論せず、事後になって急にそれを認めないと抗弁した。法律上、第一審でなされなかった攻撃方法を第二審にいきなり繰り出すことは原則として認められないが、相手方はそれに異論を唱えなかったら、通常は法律違反となる同攻撃方法は補正される(民事訴訟法第197条第1項)。従って、T社が持ち出した時効の主張は有効である。
- A社は、T社との契約に請負契約と売買契約両方の性質を有し、売買関係にフォーカスすれば、1年の時効期間に縛られずに済む、とも主張したが、交付を受けた商品に瑕疵があって、契約を解除したり代金の減額を請求したりする権利は、買い手が売り手にクレームを出して6ヶ月以内に行使しなければ時効となる(民法第365条)。A社は2013年8月23日に電子メールでT社にクレームを出したが、返金請求を行ったのは6ヶ月超の2014年3月7日であったため、時効となった。
- 不良品が発生した原因はT社にあったため、時効は長めの15年なのではとA社が主張したが、法律の安定性を考慮し、同じ事件について2種類以上の時効設定が存在すれば、短めのやつが優先される、という以前からあった司法見解に則り、本件は15年ではなく、民法第514条に定めた1年の時効設定を採用する。
- A社100%出資したP社もA社と同様、不良発見から返金請求まで1年以上が経ったため、P社の請求は時効により無効となった。従って、A社はP社から譲渡された、法律上無効となった債権をT社の請求と相殺する、との主張は成り立たない。
判決結果について、5回目の請求を除いた未払い商品代金プラスその利息分として、約800万NTDをT社に支払え、との命令をA社に下されました。(台湾高裁104年度重上字第666号判決)
200万NTDの減額効果があったが、A社にとってまだまだ満足できない数字であったようで、勝敗をRound 3に持ち越されました。
第三幕:第四幕の始まり
A社がROUND 3で費やした弁護士費用は無駄ではありませんでした。最高裁は以下の理由により、666号判決を棄却し、差戻し審理を求めました。
Round 3の見方
- 諸々証拠書類をチェックしたら、高裁が支払いを命じた金額にどうやら間違いがあって、認証を通った商品と通らなかった商品にもミスマッチがあった節があるため、やり直しは必要。
- 違約金は、違約行為が認められた時点で請求権が発生するため、商品代金の返金請求と切り離して考えるべきであり、1年の時効が適用される返金請求権とは別に、違約金には15年の時効が適用される(民法第125条)。従って、A社が主張した諸々請求権に対して、同一時効設定で認定することは妥当でない。(最高裁107年度台上字第1638号判決)
第四幕:違約金のバーゲンセール
こちらRound 4の戦いは、割と長丁場でした。2019年に審理が始まって、今年2022年3月にようやく以下の判決結果が下されました。
Round 4の見方
- A社とT社が締結した売買契約の第12条に、T社に本契約に違反した行為があった場合には、商品代金と同額の違約金をA社に払わなければならないと定められている。T社の商品はサードパーティの認証を通らず、契約が要求した品質に達していないことで契約違反となったため、T社はA社に違約金を支払う義務が生じる。
- 一方、T社が出荷した瑕疵のあった商品によって、A社側にどういった損失が発生したかの証拠が未見であり、サードパーティの認証を通らなかったとはいえ、4回目の請求条件であるA社の検品が終わったことを考慮し、T社は依頼業務を90%ぐらい完成したと考えられるから、A社が請求した違約金に70%のDiscountを付するほうが妥当である。そして、A社が子会社のP社から譲り受けた債権も同じ理屈で、商品代金の返金無しで、違約金に70%のDiscountを付する。
- 以上により、T社がA社に請求した総額に、5回目の請求額を差し引いて、70%OFFした違約金を付け加えて計算した結果、A社はT社に約565万NTDを支払うことを命ずる。(台湾高裁108年度重上更一字第67号判決)
70%OFFって、出血大サービスにしても血を出しすぎるやろ!
諦めの悪いA社は、二度目の最高裁に対決再開をお願いしました。
第五幕:否定しない方が悪い
今回の最高裁はラインアップが前回とだいぶ違ったが、高裁の考え方に不満を持つ点は一緒のようでした。
Round 5の見方
- A社は、T社から請求のあった未払い商品代金について、今まで当該請求の正当性を否認したりする素振りを見せることはなく、それと相殺可能な債権を有することのみ主張してきた。そのため、民事訴訟法第279条第1項の定めにより、T社が支払いを求めた4回目、5回目の未払商品代金が有効な請求とみなされることになる。高裁はこの点を考慮せず、売買契約のみを根拠に5回目の請求に無理があると判断することは認めがたい。
- T社は、以前A社に商品代金の請求を行う際に、自ら認証合格通知書を提出したことがなく、認証手続をA社に任せてきました。では、本件売買契約にて、請求時に認証合格通知書の提出をT社に義務付ける目的は果たして何か、との点を検証せず、T社は認証合格通知書を提出していなかったから、5回目の請求は合法的じゃない、という高裁の認定結果に疑問を感じる。
- 商品代金の返済は、時効となったら請求権が消滅する。ただし、時効になる前に、同請求権をもって、相手方が有する同じ種類の債権と相殺すれば、この限りではない(民法第334条第1項、民法第337条)。そのため、時効により無効と認定されたA社が主張する債権は、時効が来る前に、T社からの請求と相殺できるかどうか、今一度検証する必要がある。(最高裁111年度台上字第1605号民事判決)
上記のように、必ずしもA社にとって完全に有利とは言えない解釈が取られ、2回目の差し戻しがなされました。
2022年9月23日現在、未払い商品代金にめぐって、T社とA社とのRound 6はなお続いています。
本件ビジネストラブルからの学び
T社とA社が繰り広げた、1,000万NTD前後の未払商品代金についての訴訟戦争は、5回の審理が行われていても、依然として決着を見せることはなく、泥沼に陥ったままです。
1,000万NTDから800万NTD、そして565万万NTDへと、訴訟すればするほど、A社のお支払いはどんどん減少していく傾向が見られますが、Round 5において、今までの裁判になかった、興味深い見解が示されていたため、A社はこれから今までの勢いで勝ち進んでいけるのか、見通しが難しい状況です。
本件トラブルの結果の行方は今のところまだ未知数ですが、Round 1~Round 5の判決内容からは、以下示唆に富んだ要注意点が見え隠れています。
マサレポ、今週の学び
- 不良品を自ら修繕に出す前に、先に請負人に対応通知を行うこと
- 各種請求権に関する消滅時効の期間を把握すること
- 取引相手から違和感を覚える主張を受けたら、即座に反対の意志を示すこと
- ビジネス契約書を丁寧かつ慎重に作成し、必要に応じてマサヒロ国際法律事務所にリーガルチェックの依頼を頼むこと
上記において特に重要なのはやはり4番です。ネットから無料なテンプレをたくさん入手できる便利な時代ではありますが、そのまま安易に利用すると、自社を大変不利な立場にする、気付きにくい設定を鵜呑みしてしまうリスクがあります。何年間も続く裁判に費やされる労力と金銭を考えたら、最初からしっかりとビジネス契約書を作りこむことが推奨されます。