「Z社が取り扱うタイムマシンはたったの引き出しで、うちのタイムマシンは本物ですよ~」―営業誹謗行為の法的責任に要注意!
Aさん、今日もお犬さんを連れてきて、うちのシャンプーサービスを利用してくださり、ありがとうございます。
最近高雄熱いから、この子にもっとお風呂に入ってもらわなくちゃ。
まったくおっしゃる通りでございます!そうそう、たまに利用されているペットサロンMASAHIROなんですが、飼い主に黙って、ワンちゃんにキスしたり、太りやすい餌をあげたりしている、といった風の噂が持ち切りでして、気を付けた方がいいですよ。
えっ、マジなのか?!太りやすい餌ね、道理でこの子最近なんかメタボ気味で…気を付けておく!
上記、HIBOサロンThe Dogの発言は、台湾において法的には果たして大丈夫なのでしょうか?こういった他社へのマイナスコメントが「営業誹謗行為」に該当するか、該当したらどのような法的責任が発生するのかについて、考察を進めてまいりましょう。
公正取引法の違反に該当する営業誹謗行為
営業誹謗行為を規定する法律は、台湾の公正取引法(独占禁止法に相当)にあります。
事業者は競争の目的で、他人の営業上の名誉・信用を害するに足りる虚偽の事実を告知し、又は流布してはならない。
また、上記の法律に違反したら、2年以下の懲役もしくは拘留又は5,000万NTD以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています(公正取引法第37条)。
上記により、営業誹謗行為と認定されるには、①競合他社のシェアを奪ったりするなどの意図があり(102年7月18日公処字第102107号処分書)、②事実無根なデマをでっちあげ、③それを第三者に話したりして、④当該競合他社の評判が確実に落ちた、といった要件が悉く満たされる必要があることが分かります。逆に言うと、競合他社の評価を落とす効果のあるマイナスコメントをあちこちで流したが、当該マイナスコメントを裏付けるほどの証拠さえあれば、原則として公正取引法の違反にはなりません(109年度自字第7号刑事判決)。
また、公正取引法の違反に該当する営業誹謗行為を働いたのは会社の代表ではなく、会社の代理人または従業員であっても、会社の代表と同じく刑事責任を問われるとともに、所属会社にも罰金刑が下される可能性があります(公正取引法第37条)。従って、営業誹謗を行った従業員が、「競合他社の悪口を言ったのは、会社から指示を受けて行った業務行為に過ぎない」と抗弁しても、それのみで免罪符にはなりません(103年度上易字第1350号判決)。
刑法の違反に該当する営業誹謗行為
①故意に、②不特定又は多数者に対して、③他人の名誉を毀損しうる、④何かしら具体的な事柄を伝えたら、刑法に定めた誹謗罪に該当する可能性があって、刑事責任を問われる場合があります(刑法第310条)。
前述した、公正取引法の違反に該当する営業誹謗行為の要件、①競合他社のシェアを奪ったりするなどの意図があり、②事実無根なデマをでっちあげ、③それを第三者に話したりして、④当該競合他社の評判が確実に落ちた、に照らし合わせると、誹謗罪の構成要件はそれとダブった箇所が結構ありますので、一つの営業誹謗行為で公正取引法に違反するのみならず、刑法に反する犯罪行為に該当するケースは少なくありません。
一方、上記のように、一つの犯罪行為で2つの罪名に触れる場合、両方の刑を合わせて処罰するのは過酷すぎるので、原則として比較的刑が重い公正取引法に定めた営業誹謗罪が誹謗罪を吸収する形で、対象者への刑事罰が決まるわけです。
営業誹謗行為による損害賠償責任
営業誹謗行為を働いたら、懲役刑や罰金刑などの刑事責任とは別に、台湾の民法に定めた被害者又は被害企業への損害賠償責任も負わなければなりません。
民法によると、故意または過失によって、他人の権利を不法に侵害した者は、これによって生じた損害賠償責任を負わなければならないとされています(民法第184条)。従って、被害者または被害企業は、営業誹謗行為が行われる前後の財務データなどを証拠として、加害者に対して利益の損失を請求する権利があります。
また、客観性のある財務データを提出することが難しい場合、被害者または被害企業は、営業誹謗行為を行った人又は企業に対して慰謝料を請求したり、名誉を回復する措置を求めたりすることもできます(民法第195条)。しかし、利益の損失に関する損害賠償請求と比べると、どれぐらいの慰謝料を請求したら妥当であるかについての立証は困難であるため、裁判所は諸々要素を総合的に考慮のうえ、適宜な金額を決定する形となります。留意が必要なのは、個人とは違い、法人には精神的苦痛を受けることはないので、被害者が企業の場合、慰謝料の請求は原則としてできないとされています。
民法に定めた請求権のほか、人又は企業が「故意に」営業誹謗行為を行ったのを立証できる場合、被害企業は公正取引法に基づき、自ら被った損害額の3倍を超えない賠償金を請求できるとともに、お詫び記事を新聞紙に掲載するよう、加害企業に要求する権利も付与されています(公正取引法第31条)。一方、損害額の計算が難しい場合であっても、加害企業は自ら行った営業誹謗行為によって利益を得た場合には、被害者または被害企業は同法に基づき、加害企業が得た前述の利益を損害額の計算根拠にすることも可能とされています。
今週の学び
いわゆる営業誹謗行為は、前置きで取り上げた、クライアントの面前でわざと競合他社の悪口を話すケースにとどまらず、Googleマップで特定の料理店に対して故意に低評価を付けたりする行為も営業誹謗行為に該当する可能性があります。例えば、一度もその店で食事をしたことがないのに、環境が極めて不衛生であったり、料理がとんでもないまずかったり、店のスタッフは態度が悪い、といった店の評価が落ちることにつながるコメントを付ける行為がそれに当たります。ただし、店で実際に食事をした経験を根拠とする感想をネットに書き込んだ場合、たとえその内容が主観的なマイナス評価に該当するものであったとしても、「故意に店への嫌がらせ」でなかったら、営業誹謗行為とは認定されません。ですので、うっかり犯罪行為を犯すことのないよう、この辺の線引きをしっかり留意しておきましょう。