「訴えてやる」と言い放ったら、脅迫罪が成立するのか?「脅しで訴訟をちらつかせる」行為は台湾において脅迫罪に該当するかを考える

「訴えてやる」と言い放ったら、脅迫罪が成立するのか?「脅しで訴訟をちらつかせる」行為は台湾において脅迫罪に該当するかを考える

テレビを付けたら、以下のようなセリフが流れたりします。

お前の物は俺の物だ、文句あんなら殴るぞ!

木端微塵にしてやる!あの地球人のように!

こんなスタイルの脅し文句を日常のやり取りで放ったら、アニメキャラの真似をして笑いを取ろうとする場合を除き、脅迫罪で刑務所に送られるかもしれません。では、こんな感じの発言はどうでしょう。

おめぇ生意気だな、うちのかあちゃんは弁護士だから、訴えてやるよ!

「訴えてやる」と聞いたら、それなりに不安も感じるでしょう。そうすると、「訴訟で脅してくる」ことを根拠に、脅し文句を言い放った人を相手取って脅迫罪で提訴できるのでは、という考えが芽生えてきます。果たして、「提訴を手段として、他人に脅しをかける」行為は、台湾においては脅迫罪に該当し、刑事罰を受けるべきものなのでしょうか?これから続く回答編をご覧ください。

あんたの存在自体がセクハラだ!明日にでもセクハラ罪で訴えてやる!

と言われたときに、さすがにビビったりしますね。当該「ビビる感」は、何故存在自体がセクハラなのかという未知への恐怖のせいか、はたまた訴えられる心配によるものかを問わず、他人をビビらせる発言をしたら、脅迫罪の犯人になるのではと、なんとなく思ったりします。ただ、直感に任せて他人を断罪することはありえないので、台湾の法律ではどのように定めているのかとりあえずチェックしておきましょう。

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他人の生命、身体、自由、名誉、財産を害することを以て脅迫し、安全に危害を及ぼすこととなった場合、2年以下の有期懲役、拘留またはNT$9,000元以下の罰金に処する。

脅迫罪の成立に、「命の保証はないぞ」、「必ずぶっ飛ばす」、「ウォールマリアに閉じ込めてやる」、「宇宙の帝王と自称した黒歴史を言いふらしてやるぜ」、「あんたの四星球を破壊するしかないね」などのように、個人の生命、身体、自由、名誉、または財産に対して、危害を加えようとする意思表示がなされたことが前提条件となっています。前述の意思表示は、必ずしも公証人役場にて公正証書を作るときと同じように、はっきりと聞き取れる音量で、脅迫を受ける人の面前で述べる必要はなく、インターネットの電子掲示板または携帯のチャットアプリ経由でも成立します。

前述の意思表示を受けた人は、それにより恐怖心が芽生え、不安を感じていれば、脅迫罪が成立する可能性が生じており、たとえ意思表示をした者が宣言とおりの行動を実際取っていなくても、犯罪の成立が妨げられないとされます。

ちなみに、上記の脅迫罪は、原則として「特定できる個人または複数の人物」に対して脅しをかける場合のみ成立し、不特定の個人、または一般民衆を対象とする脅しは成立しません。

それじゃ、ネットで惑星ベジータに爆弾を仕掛ける、地球人がよく出入りする場所に豆鉄砲を乱射する、的な脅し発言をする連中は法律上で無罪なのか?

そうとは言っていません。一般民衆に対して脅しをかける行為は、確かに上記の脅迫罪に合致しないが、代わりに刑法第151条に定めた「公衆脅迫罪」が成立し、最長2年間刑務所の世話になる可能性があります。

台湾脅迫罪の法的根拠

「裁判所からの出廷通知を待ってろ」、「裁判所に訴えてやる」、などと言われたら、刑務所に送られると自由がなくなり、それに伴う不安や恐怖を感じるという、脅迫罪が成立する特徴が揃ったわけなので、間違いなく違法だ、と考えるのは一見辻褄が合いそうだが、実際、「訴えてやる」と宣言するだけでは脅迫罪は成立しないのです。

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民事訴訟か刑事訴訟を問わず、「訴訟の提起」は言わば一般民衆に与えられた正当な権利であり、当該正当な権利の行使を明言することは「害悪の告知」にはならず、ましてや提起された訴訟は、裁判官が法律に基づき公正的に審理してはじめて結果が分かる仕組みなので、正当な権利でもなければ、中立的な第三者機関が間に入ってくれることもない「木端微塵にしてやる」のような発言とは、やはり一線を画す存在と言えましょう。

同じ理屈で、「警察に通報する」や「先生に言いつける」、「労働基準監督署にタレコミしてやる」なども法によって与えられた権利なので、それらを言い放つだけなら脅迫罪は関係ありません。しかし、訴えられたくなければ、〇〇元の口止め料を寄越せ、と発言すれば、もはや単に「提訴」という権利を行使しようとするのではなく、他人に財物または財産上不法の利益を交付させようとする良からぬ意図があるため、その場合、恐喝罪が成立する可能性が生じてきます(刑法第346条)。

孫氏の兵法曰く、「先手を打つ」ということで、「先方に訴えられる前に先方を訴える」と思い、効率よくアクションを取ったものの、本日のマサレポを見て、訴訟を起こすと宣言する行為は脅迫罪に該当しないことが分かり、既に進行中の訴訟を取り下げしてもよいか問題が浮き上がってきます。

脅迫罪は台湾においては非親告罪に該当し、調査が一旦発動されたら、たとえ原告と被告が和解し、原告が当該告訴を取り下げる意図があったとしても、原則として調査はストップしないルールとなっています。ただ、前述べたように、訴訟の提起という「脅し」はそもそも脅迫罪に該当せず、告訴の取り下げができなくても、結局不起訴になる可能性が極めて大きく、そのまま放置していても結果は一緒なので、事後処理が大変なのは、むしろ本格的な脅しを受け、警察に被害届を出した後、脅しをかけた人からすぐ和解の申し入れがあったケースです。

非親告罪に該当する脅迫罪には取り下げが効かないとはいうものの、もし原告と被告が調査結果が出る前に和解できた場合は、処分が軽くなるなどのプラス効果が得られるので、こういった事案においてやはり示談は大変勧められる手続きとなりましょう。

「訴えてやる!」って脅迫罪に該当するのか?

「訴えてやる」と脅しをかけた人を相手取って脅迫罪で告訴したが、結局それが不成立して不起訴処分が出たが、今度は脅しをかけた人から、「でたらめな理由で脅迫罪を訴えてくる」ことを証拠に、「虚偽告訴等罪」で訴えられた、どうしたらよいのか?

「虚偽告訴等罪」というのは、他人に刑罰や懲戒を受けさせる目的で、犯罪事実をでっちあげ告訴を提起する不法行為で、最長7年の懲役刑に処せられます(刑法第169条)。台湾の法律においては、「訴訟の提起」は一般人に与えられた法的権利であり、告訴で有罪判決が出るかどうかは一旦置いといて、当該権利の行使、もしくは行使しようとする意思表示は「脅し」として取り扱われていません。なので、「脅し」に該当しない「訴訟の提起」という発言を理由に脅迫罪で告訴し、発言者に法的裁きを受けさせようとする行為は、「虚偽告訴等罪」に該当するのではないか、と考えられるようになったかもしれません。しかし、結論からいうと、これだけでは虚偽告訴等罪の成立には至らないのです

前述のように、虚偽告訴等罪の成立には、「犯罪事実のでっちあげ」と「他人に刑罰を受けさせる目的」という2つの前提条件が必須です。訴訟の提起を脅しとみて脅迫罪の告訴を行うことは、後半の「他人に刑罰を受けさせる目的」という条件が間違いなく満たされたのだが、前半の「犯罪事実のでっちあげ」はどうもしっくりこないと言わざるを得ません。相手からは「訴えてやるぞ」との話しを言い聞かせて、不安な気持ちを覚えたのは揺るがない事実であり、問題となるのは、法によって与えられた当たり前の「訴訟」という権利の行使を「脅し」と誤認した点です。「誤認」と「でっちあげ」、意味的にはそれなりの隔たりがあるため、虚偽告訴等罪が成立しないわけです。

ちなみに、虚偽告訴等罪における「告訴」は、刑事告訴が対象とされており、損害賠償を求める民事訴訟は対象外であるため、民事訴訟を提起し事実無根の請求を行っても、虚偽告訴等罪に該当しない形となります。

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脅迫罪は取り下げられるか?

他人とのやり取りのなかで、たまに意見の相違などで口喧嘩に発展したりします。それらの口喧嘩においては、脅し口調で表現される「殴るぞ」、「訴えるよ」、「口を縫い付けてやる」、もしくは「警察に通報するしかない」のような話しが飛び交う可能性がありましょう。それによって不安を感じたら、己を守る術として「脅迫罪」の被害届を出す選択肢も考えられるが、今回のマサレポを参考に、「脅し」と認識した相手からの発言は単なる法的権利の行使のみなのかを見極めてからアクションを取ることがおすすめです。一方、もし当該「脅し」に金銭の無心が伴うようであれば、ほぼほぼ犯罪行為に該当するので、我慢せず直ちに法的対応措置を取りましょう!

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マサレポ、今週の学び

  • 脅迫罪の成立に、個人の生命、身体、自由、名誉、または財産に対して、危害を加えようとする意思表示がおなされたことが前提条件となっています。
  • 前述の意思表示は、脅迫を受ける人の面前で述べる必要はなく、インターネットの電子掲示板または携帯のチャットアプリ経由でも成立します。
  • 前述の意思表示を受けた人は、それにより恐怖心が芽生え、不安を感じていれば、脅迫罪が成立する可能性が生じており、たとえ意思表示をした者が宣言とおりの行動を実際取っていなくても、犯罪の成立が妨げられないとされます。
  • 一般民衆に対して脅しをかける場合、「公衆脅迫罪」が成立する可能性があり、最長2年間刑務所の世話になる可能性があります。
  • 「訴訟の提起」はいわば一般民衆に与えられた正当な権利であり、当該正当な権利の行使を明言することは「害悪の告知」にはならないため、それのみでは脅迫罪は成立しません。
  • 脅迫罪は台湾においては非親告罪に該当し、調査が一旦発動されたら、たとえ原告と被告が和解し、原告が当該告訴を取り下げる意図があったとしても、原則として調査はストップしないルールとなっています。
  • 虚偽告訴等罪の成立には、「犯罪事実のでっちあげ」と「他人に刑罰を受けさせる目的」という2つの前提条件が必須です。

ATTENTION!

※本マサレポは2024年6月20日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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