ハッシュタグに他社の登録商標を付けたら商標権侵害なるか!?台湾の裁判例でチェック!

自社のオフィシャルツイッター又はフェイスブックのファンページにて、ハッシュタグ機能を活用しながら、自社商品のアピールや拡販を行ったり、協力先会社とのコラボイベントを宣伝したりするビジネス活動は頻繁に行われています。ビジネス目的として使用されるハッシュタグの内容は、企業名や企業理念、企業の強みを表すスローガン、商品名等多岐にわたっており、ここぞというタイミングでうまくタグ付けすれば、社会現象を巻き起こす可能性も期待できるぐらい、大したコストがかからないわりに効果覿面である、

一方、いかにもメリットだらけに見えそうなハッシュタグなんですが、実はその使用上において細心の注意を払って気を付けなければならない点があります。それが「商標権侵害」に当たるか問題です。

例えば、Freddy氏がマサヒロから独立した後、自らの事業を宣伝しようと企業アカウントを作成しツイッターを始めたとします。そして、台湾法律の観点からアニメの内容を分析する記事を書いて、「#マサレポスタイルで解説」のようなハッシュタッグを付けたり、投稿者をアピールしようと、「#マサヒロFreddy」的なハッシュタッグを付けたりするマーケティング戦略をFreddy氏が考えたが、元のオーナーであるマサヒロの代表弁護士から、商標権侵害として訴えられるかと悩んでいます。

これぐらいなら大丈夫だろう

との見解を持つ方も居れば、

もうマサヒロの人間じゃないので、古巣の知名度にフリーライドするのはちょっとまずいのでは

という慎重派の声もあります。

果たして、上記Freddy氏が考えたマーケティング戦略は、元オーナーから訴えられ、そして敗訴になる可能性あるのでしょうか。以下台湾の裁判例から回答を見つけていきましょう!

ハッシュタグについての台湾の裁判例その1

TTヘアサロンから退職したK氏は、漢字一つ違った店名でTYヘアサロンを開店し、フェイスブックやインスタグラムなどで、「#TTヘアサロンのK氏」のようなハッシュタグを多用していたことを、TTヘアサロンに発見されました。

TYヘアサロン及びK氏は、「元社員」等TTヘアサロンでの就職経験があったことをアピールする付け方ならまだしも、「TTヘアサロンのK氏」という、TTヘアサロンの支店か協力先など、現時点においてTTヘアサロンと引き続き何等かの関係性を持つハッシュタグを使用しており、TTヘアサロンが今まで築いてきた知名度にフリーライドしようとする行為があったと考えられるため、自社の登録商標が侵害されたとしてTTヘアサロンに訴えられました。

K氏は、TTヘアサロンに在籍していたときから、ソーシャルメディアで「#TTヘアサロンのK氏」のハッシュタグを多用しており、しかも自社のファンページにおいても、「TYヘアサロン」とのタイトルを使用している等から、ハッシュタグぐらいでネットユーザーは2社の商標を間違える可能性は低い、と抗弁しましたが、裁判所は以下の点をもって、TYヘアサロン及びK氏に商標権侵害に該当する行為があったと認め、敗訴を言い渡しました。(台中地裁108年度訴字第2463号判決)

裁判官の見解

  • K氏がTTヘアサロンの在籍時に、「#TTヘアサロンのK氏」のようなハッシュタグを使用しておらず、嘘の抗弁をしました。
  • TTヘアサロンと1文字のみ違った店名をとって、ファンページにおいても店の連絡情報や顧客の仕上がり写真を載せている等から、ハッシュタグを宣伝目的として使用する意図が明らか。
  • ファンページに、「TYヘアサロンはTTヘアサロンの支店ですか」というネットユーザーからの書き込みがあって、来店客にも同様な質問がされたぐらいだから、「元社員」との記載をあえて入れない「#TTヘアサロンのK氏」というハッシュタグは、ネットユーザーに誤解されることを見込んだうえ行った、取引慣行の観点で不誠実と思われる手法であると考えられます。

ハッシュタグについての台湾の裁判例その2

W氏は衣料品やバッグ、アクセサリー等を販売するウェブサイト及びフェイスブックのファンページを開設し、ファン数が10数万人規模のブランドとして、自ら立ち上げた「Q○○」という登録商標の知名度を上げました。

一方、同業のS社が台湾の大手フリマサイトで、頻繁に「#Q○○風」や「#Q○○」等のハッシュタグをつけて、W氏が自社サイトで販売する衣料品、アクセサリー等と全く同様の商品及び類似品を売り出していました。それを発見したW氏は、S社が行ったタグ付けの行為は自社登録商標の商標権侵害を構成したのみならず、公正取引法にも違反していると考え、S社の責任者を相手取って提訴しました。

本件提訴を受けて、裁判所は以下の見解を出しました。

裁判官の見解

  • S社が行った「#Q○○風」や「##Q○○」等のタグ付けは、あくまでも商品の規格又はスタイルを説明するための方便に過ぎず(いわゆる「記述的フェアユース」)、なおかつ、商品ページではQ○○ではなく、S社の社名が目立つ位置に配置されているから、ネットユーザーの間でブランドの誤認混同が生じにくいのではと。
  • 商標法第5条によると、商標の使用には、それを商品の宣伝に利用する「主観的意図」があって、かつ消費者がそれを商標として「客観的に認識」できることを要件とされています。一方、ハッシュタグの機能は、同じキーワードで検索したユーザーに対して投稿を表示させることであり、同機能の存在はフリマサイトの利用者はほとんど知っています。そのため、売り手がある登録商標のタグ付けを行うだけで、買い手は当該タグ付けされた登録商標を売り手の商標として認識することに至るとは到底考えにくいです。従って、S社が行ったタグ付けは商標権侵害に当たらないと判断。
  • S社がフリマサイトで付けた「#Q○○風」や「#Q○○」等のハッシュタグについて、公正な取引の秩序をいかに乱したか、被害者の人数がどれぐらいか、それによってもたらされた被害の規模はどんな程度のものか、等に関しては、W氏は立証できないため、S社が公正取引法に違反したとの主張は認めがたいと。

以上の分析によって、本件審理を担当する裁判官は原告が行った商標の使用差し止め請求を退けました。(知的財産裁判所108年度民商訴字第12号判決、知的財産裁判所109年度民商上字第2号判決)

ハッシュタグについての台湾の裁判例その3

自転車の輸出入販売を手掛けるM社は自社フェイスブックのファンページに、自転車のホイールを含めた複数の写真を乗せたうえ、「#L○○」や「#L○○ホイール」、「#M社独占総代理」等のハッシュタグをつける形で、ネットでの宣伝活動を繰り返しているところを、「L○○」ブランドの台湾総代理店であるO社(商標登録済み)に発見されました。

無断でブランド名であるL○○をハッシュタグとして使用していることで、M社はO社の協力先であったり、O社から商標の使用許諾を得られたりなど、M社は消費者に前述した誤解を与える意図があって、かつL○○の独占総代理店だと偽った等から、O社はM社を相手取って提訴しました。

O社とM社両サイドの言い分を一通り聞いてから、裁判官は以下の判断結果を下しました。(知的財産裁判所110年度民商訴字第18号)

裁判官の見解

  • M社は、「L○○」のホイールを含めた、同社販売中の自転車に使用される各種部品の写真並びにそれらの製造元情報をファンページに乗せた目的は、消費者に商品である自転車についてもっと理解を深めてもらうためにあり、ハッシュタグについては、あくまでもフェイスブック内で同じタグをつけた記事をリンクさせる機能しか持たないため、ネットユーザーがタグ付きブランド名を見ただけで、それをファンページの所有者が持つ登録商標だと認識するに至る可能性は極めて低く、ましてやそれのみで、M社を「L○○」ブランドを有するドイツにあった製造元の台湾代理店だと判断できるとも考えにくいため、商標権侵害に当たらないと判断。

ハッシュタグについての日本の裁判例

ハッシュタグの使用にまつわる商標権侵害の案件について、日本側では大阪地裁が2021年9月27日に下した、商標権侵害を認めた事例があって、事実関係が台湾の裁判例その2との共通点が多いにもかかわらず、真逆の判決結果になったことは興味深いです。

個人のA氏がハンドメイドの巾着をフリマアプリのメルカリで販売し、マーケティング目的で商品の紹介用ページに「#S○○風」や「#S○○」のハッシュタグを繰り返しつけていた事実を、S○○を登録商標として巾着の製造販売を手掛けるB社に知られ、A社が行ったこういったタグ付け行為は既に商標権侵害に該当したと認識し、同ハッシュタグ使用の差し止め請求を裁判で行いました。

大阪地裁の判断

  • A氏が行うメルカリ事業は個人趣味レベルとはいえ、1年以上にわたり係争商品を繰り返し販売しているため、違法要件の「業として行う」ことがあったと認めたうえ、商品の紹介用ページにタグ付けされた登録商標はA氏が販売する商品のブランド名であると一般消費者に勘違いを起こす可能性は完全に排除できないから、「商標的使用」に該当すると判断し、B社の登録商標をハッシュタグとして使用することに正当性が欠けるとの判決を下しました。(大阪地判令3.9.27令2ワ8061)

終わりに

前述した台湾の裁判例からも分かるように、他者又は他人の登録商標を特定のサイトでハッシュタグとして使用することで、商標権侵害になるかと言えば、ケースバイケース的に検証する必要があって、一概に違法するかどうかを判断することが難しいようです。

台湾の裁判例その2で使用されるハッシュタグである「Q○○風」は、主に特定のスタイルを消費者に効率よく想起させるためにあって、所有者が運営するHPはそもそも別のサイトにある「Q○○」という登録商標自体を乗っ取る意図が認められない、という司法的見解ができたため、告訴が成立しませんでした。

そして、台湾の裁判例その3で争われるハッシュタグの使用例である「L○○」について、裁判官はそれが製造者表示の方法に過ぎず、他者ブランドにフリーライドしようとする目的を認めることができないため、商標権侵害ならないとの判断を下しました。

商標権侵害に当たらない前述2件のケースに共通して現れた違法性有無の判断基準は、「ハッシュタグに付与される機能」に関する議論です。投稿者は、自らの投稿が関心のある利用者の目に触れやすいよう、重要な単語や表現をいくつかピックアップしてハッシュタグとしてつけます。利用者は、自ら関心のあるトピックスを効率よく探し出すために、ハッシュタグを辿って関連性のある投稿にフォーカスして確認していきます。こういったハッシュタグの機能をネットユーザーの誰もが認識していること、という大前提に立つことで、台湾の司法機関は、「あるブランド名をタグ付けする行為は、タグ付けした投稿者が当該ブランドを所有することを直接的に意味するものではない」との論点に辿り着き、そして台湾の商標権法に基づいて、ハッシュタグの使用で商標権侵害に当たらないとの司法判断ができたと思われます。

一方、台湾の裁判例のなか唯一被告に敗訴が言い渡されたその1のケースについて、たとえハッシュタグの使用は原則として登録商標の所有権関係を認識されるには至らないとはいえ、同業他社である「TTヘアサロン」をハッシュタグとして使用する目的は、何かしらのファッション、スタイルを言及するつもりでもなく、「元社員」との表示がないから修行元に解釈するのは無理がある等、ハッシュタグに付与される原則的な使用範囲を超えたため、商標権侵害に該当すると認定されました。

前述の台湾の裁判例からは、ハッシュタグの使用は原則として商標権侵害に当たる可能性はそれほど大きくないと思われがちですが、タグ付けを行う目的に正当性があると、胸を張って主張できるかどうか、ネットユーザーに誤解を生じさせないための用語を追加で入れたりする必要ないかどうか、タグ付けを行う前にこういった確認事項をしっかり考慮せず、安易に実施すると、思わぬ違法状態を招来してしまうので、慎重かつ丁寧に熟考してからタグ付けを行うことがお勧めです。

とは言え、台湾においては、ハッシュタグの使用に関する裁判例はまだまだ少ないのです。台湾の司法機関はこれから、前述した、大阪地裁が下したメルカリにおける商標権侵害の事例等を含めた他国の類似案件を参考に、台湾の裁判例その1~その3とはまだ異なる見解を示すことになる、との可能性も完全に否定できないので、「台湾のフリマアプリで商品を販売するとき、『#マサレポ(他社の登録商標)風』を付けても違法にならないよ~」といった結論を早急に下さない方がよいかもしれません。法的リスクの有無について迷うことがあったら、気軽にマサヒロへご相談しましょう。

#マサヒロ国際法律事務所
#マサレポ

ATTENTION!

※本マサレポは2022年8月11日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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