税金さえ誤魔化さなければ会計処理は適当でよいのでは?「適当」な会計処理に刑事責任が伴う件について

経費で落とせますか?

マサひろん

その処理だと国税からうるさく言われないでしょうか?

会社名義で中古ベンツを買って、〇〇処理をしたら税金が安くなるって本当ですか?

上記、中小企業の会計処理を行う際によく浮かぶ質問からも分かるように、担当者はまず税金関係、特に「節税」を念頭に、どう仕訳をするか決めていく傾向があります。

税金の法律に違反する節税、例えば故意な申告漏れや未申告などは既に「脱税行為」に該当し、重たいペナルティが用意されているため、そうならないよう、タックス・コンプライアンスを気にしつつ、慎重かつ丁寧に節税活動を実施していきましょう、という風な考えが普通にあるため、税法に違反しない程度で、なおかつ無駄な税金を発生させない会計処理を行うことが一般的です。

一方、税金関係とは別に、会社が行う個別の取引に基づき、正しい会計処理を行うことを定める法律も設けられています。脱税行為にならない会計仕訳を行い、税法のルールにも違反していないにもかかわらず、前述の法律を遵守し、取引ベースで適切な会計処理を行わなければ、行政罰としての過料処分のみならず、数十万NTDの罰金又は懲役刑を処せられる可能性が生じることは、それほど知られるわけではないようです。

「脱税さえしなければ、会計処理は比較的自由に行える」、という中小企業間で、主流ともいえる考えに潜むリスクについて、昨今の裁判例を紹介させていただくことで、ケーススタディ的に考察してみたいと思います。

会社のお金をわがものにしようと、不正会計を行った?

台中にあるY社の実質責任者、並びに同じ台中にあるJ社の代表を務めるW氏は、1998年から2012年までの間において、預かった会社の通帳と実印を利用し、Y社の法人口座から自分の個人口座及びJ社の法人口座に、13回に分けて合計1,700万NTD弱の会社資金を移動させました。

前述したお金の流れに大義名分を作ろうと、W氏はY社の記帳代行を担当する税理士のK氏に協力してもらい、Y社の会計帳簿及び法人税確定申告書に、約900万NTDの株主長期借入金(中国語:股東往來)を架空計上し、不当に同社の貸借対照表をいじったりしていました。

本件について諸々取り調べを行った検察署は、W氏は不正に会社のお金を横領しようとする意図があって(刑法第336条業務上横領罪)、法律に反するやり方で、税理士のK氏と結託し、会社の財務諸表を不適切に操作したとして(商業会計法第71条)、同2氏を起訴することにしました。

被告となったW氏はこう抗弁しました。
  • 2007年までは、Y社の事業運営は父親であるWF氏によって取り仕切られており、私は同社のお金を動かす権限はありませんでした。
  • WF氏はY社の運転資金を都合しようと、個人名義で銀行から借金しろと言われたため、私は1993年に銀行から500万NTDの借り入れをして、その運用をWF氏に任せました。そして、同年を皮切りに、私は必要に応じてY社に資金援助を行っており、通算約2,700万NTDを貸し付けていました。だからY社から私の個人口座に約1,500万NTDを移動させたのは業務上横領ではなく、Y社からの借入金の返済です!
  • WF氏が経営権を持つY社と、私が代表を務めるJ社とは同族会社であり、以前から資金繰りの助け合いをしてきました。検察官から指摘を受けた、Y社からJ社に入金した件は、別に私がJ社を利用して、Y社のお金を使いこもうとするわけではなく、あくまでも今までやってきた「助け合い行為」の延長に過ぎないのです。
  • Y社は2001年から業績不振に陥って、資金繰りがすごく悪化していたが、社員への給料支払いとその他諸々の支出を今まで通りに行わなければならなかったため、私は株主として頻繁に資金面の援助を行ってきました。それによって、Y社の帳簿に計上した「株主長期借入金」は同年から膨らむ一方で、決して架空計上ではありません。
  • 税理士のK氏は2006年から2016年までY社の記帳代行業務を担当しており、Y社から提供を受けた会計証憑をもとに帳簿を付けるだけの作業を繰り返しやってくれていただけなので、不正に財務諸表を作ったりすることはありません。
  • K氏は記帳代行を実施しているなかで、赤字状態が続いたY社の実情、及びW氏は必要に応じてY社にお金を貸し付ける事実は把握済みで、それを事実通りに「株主長期借入金」として処理してきました。だから仕訳に間違いがあったわけでもないし、法律に違反するわけでもありません。

真っ赤っかなY社に助けの手を差し伸べたW氏

本件の審理を担当した地裁はこう言い放ちました。

台中地方裁判所107年度訴字第1832号判決

  • 検察官が指摘した、業務上横領罪に該当する複数の送金行為については、Y社の入金明細及び通帳を確認したら、そのうちの一部の送金履歴が未見であり、送金の理由を証明可能な証拠もなかったため、当該履歴不明な一部の送金行為は業務上横領罪に該当するとは認めがたい。
  • W氏は今まで、自分の名義で、又は自らの配偶者、子息に依頼する形で、Y社に送金した事実は、同氏から提出を受けた銀行の入出金記録で分かった。そのため、「W氏がY社に貸し付けている」との主張は認める。ただし、Y社が銀行から借り入れた借金の肩代わりをした、というW氏の主張について、Y社の代わりに銀行に返済したのはW氏ではない第三者なので、W氏と当該第三者との関係性を証明できない限り、「借金の肩代わり」説はそのまま認めるわけにはいかない。
  • Y社からW氏個人又はJ社への送金について、その一部の資金源はW氏の子息の個人資金から、つまりW氏の子息がY社に送金し、Y社はW氏の子息からの入金をW氏本人に入金する、との事実は銀行の送金履歴で分かった。会社の資金を横領しようとする人間は、自分の息子か娘に会社へお金を振り込ませ、そして会社から大体同額のお金を自分の口座に送金させる、というややこしい手段を利用するとは考えられない
  • Y社とJ社は同族会社であり、同2社の責任者も親子関係である。たとえ「金銭消費契約書」的な書面がなくても、W氏からY社に貸し付け、Y社がW氏に借金を返済する、並びにY社とJ社間の資金融通があったと主張することは、まんざら嘘ではなさそうだ。
  • 2016年においては、「株主長期借入金」勘定の残高は過年度のままなので、検察署が指摘した「架空計上」は事実ではない。
  • Y社は赤字続きだが、給料未払い問題は全く発生していなかった。その理由は、W氏はY社に長い間貸し付けていたからだと、銀行の入出金記録で分かった。株主長期借入金に関する会計処理は、たとえ契約書がなくても、その他証明可能な資料があればできるわけなので、「業務上横領ではなく、Y社からの借入金の返済」というW氏の主張は一理ある。
  • 以上によって、W氏と税理士のK氏に無罪判決を言い渡す。

お金を右左に動かすのは横領に該当しないが、財務諸表を好き勝手にいじるのは犯罪行為

無罪にされたら今までの努力はなんなのだと、地検は食い下がりました。

高裁の判断はこうです。

109年度上訴字第1125号判決

  • W氏がY社に貸し付けた金額とタイミングは、株主長期借入金勘定に計上した金額とタイミングとはほとんど異なるため、送金記録のみを証拠に、株主長期借入金の残高を不正に調整していないとの主張は成り立たない。会計処理のロジックは、取引が発生するたびに仕訳を行う必要であるため、会社に貸し付けた事実があったからで、適当な日付に勘定科目の残高を好き勝手にいじったりするものではない。そんなやり方を安易に許すと、財務諸表の信憑性が無くなり、経済発展に良からぬ影響をもたらすのである。
  • Y社の社員への給料支払いとして、W氏は今まで具体的にどれぐらいの資金を融通してあげたのか、に関する立証はなされていない。また、W氏及びその関係者からY社への送金記録はあったが、定期的になされたわけではなく、かつ数少ないY社の社員が受領する給料の額にしては、W氏等からの送金額はあまりにも多すぎて、それに赤字続きとは言え、Y社の売上が0NTDでもあるまいし、営業活動で得た資金で本当に社員の給料をカバーできないか。
  • W氏及びその関係者からの入金は、一部の送金履歴によっては、同氏らからY社に入金があったら、入金日即日又は数日後に、おおよそ同額のお金がW氏個人又はW氏が代表を務めるJ社に入金された、との事実が判明した。Y社はあくまでもこれらの資金の「通過点」に過ぎないのにもかかわらず、あえて株主長期借入金に計上したことに、不正会計を行う意図があったと認める。
  • 実質Y社の支配権を持つW氏は、実情を知らない税理士のK氏に形だけのエビデンス資料を提出し、Y社の決算書及び法人税確定申告書に、実在性のない株主長期借入金を計上させた不正があったと認め、商業会計法第71条に違反したとして、有罪判決を言い渡す。

影の取締役理論と審理不十分

業務上横領でもないし、税金を誤魔化したわけでもないから、有罪はないやろ!

崖っぷちのW氏は最後のチャンスに賭けました。果たして、W氏に前科が付くのでしょうか!?

最高裁

111年度台上字第2679号

  • 事実上の取締役が会社の責任者とみなし、責任者と同様な法的責任を負う」、という「影の取締役理論」の考え方が導入され、中小企業にも適用されたのは2018年で行われた会社法の大改正以来である。W氏が問題視される行為を働いたのは法改正の前なので、W氏をY社の実質の責任者とみなし、責任者でしか該当しない犯罪行為をもって、有罪判決を言い渡したことは妥当性が欠ける。なお、Y社の株主と取締役は過去において何回か変更され、不正会計が行われた当時は、W氏が果たしてY社の株主又は取締役であるかどうか、若しくはW氏は当時の株主又は取締役と結託し、共同で不正を行ったのかどうかについての検証を高裁が行っておらず、不備があったと認められる。
  • Y社の総勘定元帳を確認したら、W氏は、社員への給料支払い及びその他経費などの支出を助けようと、〇月〇日に〇NTDをY社に貸し付けていたことが分かった。「Y社への貸し付け」を証明できるはっきりとした証拠であるにもかかわらず、Y社の総勘定元帳を相手にしなかった高裁の判決は明らかに問題がある。
  • Y社の帳簿に計上した株主長期借入金の残高に増える場合もあれば、減る場合もあった。高裁は証人による証言や送金記録を根拠に、「残高が増えた事例」にフォーカスしてW氏に不正会計を行ったと判断したが、「残高が減った事例」については一切言及がなかった。審理は明らかに不十分。
  • 以上によって、W氏に対する有罪判決を棄却して原審に差し戻す。

今週の学び

会計事務は営業のように会社の売上に貢献することができないほか、しっかりとした会計処理を行うためには、膨大なエビデンス書類を作成し、順追ってこまめに記帳していかなければならないから、時間や労力、コストが非常にかかり生産的じゃない、という風に、一部の台湾中小企業では嫌がれている存在となっています。

しかし、会計事務と税金とは切っても切り離せない関係にあるため、節税効果を最大にする観点で、最低限の関心を示してあげよう、と中小企業のオーナー社長は考えたりしています。

上記のようなスタイルは、もしかして対国税的にはまだまだ通用するかもしれませんが、「会計のコンプライアンス」となったら話しは別です。「脱税会計はやっていない」、「会社のお金をちょろまかしていない」、「うち上場企業じゃないから、期末で帳尻さえ合わせたら日常の会計処理は適当でよい」と考え、お金の出し入れや取引があっても、その通りに記帳しないことは、大変リスクが伴ってくることに留意が必要です。

マサレポ、今週の学び

  • 同族会社であっても、妥当なビジネス上の理由がなければ、関係者間で適当にお金を動かしたりしないほうが良いかもしれません。たとえ最終的に裁判所で無罪判決になったとしても、地検から業務上横領罪等で起訴されるリスクがあり、それに対処するための時間と労力がもったいないのです。
  • 会社に入出金があって、取引が行われたら、その通りに会計処理を行う必要があり、事後で行った帳尻合わせや間違った会計処理は違法リスクがあって、犯罪行為に該当する場合があります。
  • 2018年の会社法一部改正で影の取締役理論が中小企業に導入され、登記上の責任者ではないにもかかわらず、実質会社責任者の権限を有すれば、処罰の対象が会社責任者に限定された法律も適用されるので、登記上は別の第三者を責任者に据えて、自分が水面下で会社の運営を行うことで、コンプライアンス問題を避けようとする手法はもう通用しません。

ATTENTION!

※本マサレポは2022年12月24日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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