失念しがちな3月の風物詩、会社責任者及び主要な株主に関する情報申告!
2022年を通して、出勤日の一番少ない2月がランタンフェスティバルの閉幕とともに去り、祝日ゼロだが、春を謳歌できる3月に入りました。
3月と言えば、事業年度の終了をまず思い浮かべ、そしてひな祭り、ホワイトデーといったイベントのほか、阿里山でのお花見も、大変人気のある3月関連行事の一つです。
実は、「会社責任者及び主要な株主に関する情報申告」、というマイナーでマニアックなコンプライアンス手続も3月中に行わなければならない、というのはご存じでしょうか。
呼び名的には、何となく難しいイメージが伴ってきますが、その仕組みと内容を大体把握すれば、実際、5分以内で終わる手軽な手続なのです!
3月初回のマサヒロリーガルレポートをお目にかかったのをきっかけに、会社責任者及び主要な株主に関する情報申告手続きを時短でやっちゃいましょう!
目次
会社責任者及び主要な株主に関する情報申告の期日
申告を義務付けられる情報に何等かの変更が伴わない、通常の年次申告である場合には、毎年の3月1日から3月31日までの間に行う必要があります。
一方、申告対象情報に変更が生じたら、前述の年次申告を待たずに、変更後15日内(変更した日の翌日から15日内)に変動申告の手続きを行わなければなりません。
ちなみに、当該変動申告を行ったタイミングが1月1日~3月31日であったら、別途、3月1日から3月31日までの間に年次申告を行う必要がないとされています。
申告を義務付けられる対象情報
会社の取締役、監査役、経理人(支配人)、持株比率又は出資比率10%超の株主(法人株主を含む)の以下情報が申告の対象情報とされています。
- 氏名又は社名
- 国籍
- 生年月日又は会社設立年月日
- 身分証番号又は会社統一番号
- 持ち株数又は出資額
- その他法定事項
補足ですが、申告が必要とされる経理人の情報は、本店の経理人に限定されており、支店があった場合には、支店の経理人は申告対象外とされています。
会社責任者及び主要な株主に関する情報申告の方法
書類の作成・提出不要!書類への押印不要!政府手数料も勿論かかりません!パソコン又はタブレット端末、スマホ等を利用して、「会社責任者及び主要な株主に関する情報申告用の電子プラットフォーム」にアクセスし、初回の申告で作った自社専用のアカウント名とパスワードで登録したら、手続きが可能となります。
一切変更が伴わない年次申告だと、専用アカウントで登録したら「前回データのインポート」ボタンを押して、資料を一切入力することなく、HP上の「申告確認」ボタンを押せば手続きが完了です。
ちなみに、アカウント名とパスワードを作成する初回申告のとき、会社責任者の健康保険カード又はデジタルIDカード(自然人憑証)、若しくは会社の法人IDカード(工商憑証)が必要となります。しかし、日本企業の台湾現地法人は、会社の責任者に日本本社の社長が自ら務めるか、日本本社のマネジメント層から会社の責任者を指名するケースがほとんどです。その場合、現地法人の責任者に就任する本社の方が自ら台湾に駐在しないと、健康保険カード又はデジタルIDカードを入手できないため、通常な対応方法は、現地法人名義で入手可能な法人IDカードをもって、会社責任者及び主要な株主に関する情報の申告手続きを行う形が一般的です。
本件申告手続を義務付けられる会社とは
台湾の法律によって設立された会社であれば、原則として本件申告を行う義務があります。しかし、政府の管理下にある国有企業(政府持株比率50%以上)、証券取引法第25条によって月次申告を義務付けられる株式公開会社は申告不要とされています。
また、日本法人が作った台湾支店や台湾代表者事務所には独立した法人格を有しておらず、本体は日本の法律によって設立されたため、本件申告は実施不要となっています。(※日本法人の台湾現地法人は要申告です!)
ちなみに、会社が休眠状態であっても引き続き申告を行わなければなりませんが、解散から清算結了までの間は申告不要とされています。
申告義務を怠る罰則
所定の期日までに(年次申告は3月中に、変動申告は変動後15日内)、会社責任者及び主要な株主に関する情報申告を行わない場合には、会社を代表する取締役に、5万~50万新台湾ドルの過料が科され、情状が重大であると認められた場合には、法人登記の取り消し処分さえ下されます。
しかし、前述の罰則規定はほとんど発動されていない形になっています。なぜなら、3月中に実施必要な年次申告について、3月になったら、当局から自動的にRemind用の通知メールが届き、当該メールを受け取ってすぐ申告を行ったら問題にならないわけです。
実務的によくあるパターンは、例えば本件申告業務を担当する社員が退職したにもかかわらず、電子プラットフォーム登録用のアカウント名とパスワード情報を後任の人にバトンタッチしておらず、本件申告業務を実施必要であることさえ共有されていない事例がたまに起きます。その場合、当局からのお知らせメールは、既に失効となった退職者のメールアドレスに届くため、会社は勿論それを知る由がありません。
しかし、上記のような状況が起きても、罰則がはぐ発動されるわけではありません。4月に入ってから、当局は年次申告を行わない、かつ1~3月中に変動申告も行っていない会社の有無について調査を始めます。申告履歴が未見であったり、申告した情報に不備があったりする場合には、○月○日までに申告を行ってください、という風な、当局から正式な通知がなされます。会社は当該通知によって指定された期日までになお申告しなかったら、過料が発生する仕組みとなります。
法人税や個人所得税の確定申告と違い、会社責任者及び主要な株主に関する情報申告の手続きが非常にシンプルなうえに、法定期日で手続きが間に合わなくても、当局から少なくとも1回ぐらいチャンスがもらえるので、罰則が適用される事例が少ないわけです。
そもそも何故、会社責任者及び株主の情報を申告しなければならないのか?
2018年に行われた台湾会社法の一部改正で、本件申告義務が導入されました。導入した理由は、ズバリ言えば、台湾は、マネー・ロンダリング対策をしっかりとっていますよ、という姿勢をアピールするとともに、APG、アジア・太平洋マネー・ロンダリング対策グループが行う相互審査における評価の向上につながるためです。
本件申告を義務付けることで、台湾政府は会社の実質的支配者(UBO)を把握することができ、行政がマネー・ロンダリングに関する犯罪行為を取り調べる際も、比較的効率よく進めることができる等のメリットが期待できるそうです。
電子プラットフォームに登録された情報は一般公開にされていないため、個人情報流出の心配は必要ないだそうです。マネー・ロンダリング案件の調査を行う行政又は司法機関、金融機関や公認会計士、弁護士等、顧客の身元確認手続(KYC)の実施が義務付けられる機構や専門家のみ、条件付きで当該プラットフォームでの調査が可能とされています。
ただ、一点物足りないのは、本件申告で開示対象とされる株主の情報は、あくまでも株式直接保有の株主に限定され、株主の株主、つまり「株式を間接的に保有する株主」は申告対象外とされるため、例えば株式を直接保有するのは海外法人であった場合には、実質的支配者が分からない等、マネー・ロンダリング対策の観点で、仕組み的には要改善な点もあるかと思われます。
Attention!
※本稿は2022年3月1日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。