「観光ビザで台湾滞在中に講演を行うだけで5年間入国禁止?!」―最近の炎上事件から考える
1月の下旬、台湾の移民局は台湾で短期滞在中にトークショーに出演した中国籍のW氏に対して、台湾の上陸許可を廃止するとともに、5年間の入国禁止を言い渡しました。
同氏は訪台する前にちゃんと台湾当局から上陸許可を取得しており、台湾で犯罪行為を行ったわけでもないから、いきなり5年間の入国禁止という厳しい処罰が下された理由は、やはりトークショー番組でアンチ・ポリティカル・コレクトネス的な発言を行ったのが主な理由なのか、それが事実なら、当該処罰は法律というより政治的な判断で行われた形となり、言論の自由の妨害で大変不公平なのでは
というような見方が少なからず出ています。
ポリティカル・コレクトネスであるかどうかはさておきとして、移民局は果たして何を根拠にW氏に入国禁止処分を下したのか、政治抜きで法律の観点から考察しながら、日本籍の方がノービザで訪台したときに、ビジネス活動を行う際の注意点について考えてみたいと思います。
目次
5年の入国禁止には法的根拠ある?
中国籍の方は日本籍の方と違って、短期間の商用または観光目的で訪台しようとする場合、事前に財産証明、給与証明などを提出のうえ、上陸許可を台湾の主務機関に申請しなければなりません(台湾地区及び大陸地区人民関係条例第16条)。今回の事件のW氏はまさにこの制度を利用して、観光許可を取って台湾に入国したと報じられています。
観光目的で上陸許可を取ったにもかかわらず、台湾に入国したW氏は自分のYouTubeチャンネルに使用しようとする素材を撮影したり、台湾インフルエンサーのトーク番組に出ていたり、人気のトークショーに出演したりしていた事実を、W氏の出演したトークショーが炎上したのをきっかけに瞬く間に拡散され、一般に知られるようになりました。勿論、移民局もそれを知らないはずがありません。
移民局が公開した情報によると、W氏は観光目的で1年有効のマルチ許可を取得して台湾に入国していたが、台湾での観光を楽しむはずの同氏は番組に出演して、個人の見解を述べていたことは既にルール違反したため、移民局は関連規定に基づき同氏の上陸許可を廃止し、5年以内に台湾に入国して観光活動を行うことを禁じることにしたといいます。
関連規定とは以下のようなものです。
観光目的で台湾の上陸許可を申請する中国大陸の住民が次の各号の一に該当すると認められるときは、申請を許可しないことができ、既に申請を許可した場合、当該許可を取り消すか廃止することができるほか、一定期間内に台湾に入国して観光活動を行うことを禁じることができる。
- 国家の安全や社会の安定に危害を及ぼすおそれがあると認められる事実がある
- 現在または過去に対等な尊厳に反する言動がある
- 現在または過去に中国大陸の党務、軍事、行政または政治的な機関(機構)、団体の職務に就いていたり、メンバーであること。
- 現在または過去に犯罪、公共秩序や善良な風俗に違反する行為があったと認められる事実がある。(入国禁止期間:5年)
- 許可なく入国したことがある。(入国禁止期間:5年)
- 現在または過去に許可された目的と異なる活動または仕事に従事している。(入国禁止期間:5年)
- 現在または過去に不法に取得、偽造、変造した証明書を所持している。(入国禁止期間:5年)
- 現在または過去に証明書をなりすまして使用したり、なりすまされた証明書を所持したりしている。(入国禁止期間:5年)
- 現在または過去に滞在期限を超過している。(入国禁止期間:3年)
- 許可を申請するとき、申請者、旅行業者または申請代理人が現在または過去に虚偽の陳述をしたり、重要な事実を隠したり、虚偽の写真や文書資料を提供したりしている。(入国禁止期間:3年)
- 現在または過去の台湾観光中に、ツアー・グループを離れたり、行方不明になったりすること。(入国禁止期間:1年)
- 同行者が申請者より先に台湾に入国したり、出国を遅らせたりするか、または以前に前述の事実があった。(入国禁止期間:1年)
- 公衆衛生または社会の安寧を妨げる伝染病その他病気に罹患している。
- 台湾の上陸申請がまだ許可されていなかったり、許可された証明書の有効期限がまだ満了していなかったりすること。
- 団体で申請する人数が所定の最低人数を下回ったり、中国籍の添乗員を指定しなかったりすること。
当初W氏が上陸許可を申請したときに、台湾での活動内容が観光だと申請書に書いたのにもかかわらず、本当の目的は「番組に出演する」ことなので、上記許可弁法第6号に定めた「現在または過去に許可された目的と異なる活動または仕事に従事している」という状況に合致し、移民局からマルチ許可を廃止され、台湾入国禁止処分を言い渡されたわけですね。もし同氏が出演料をもらっていたら、さらに不法就労の疑惑もかけられ、処分が重たくなったりするかもしれないが、それに関する証拠は今のところ未見です。
ここで一つ見落としやすい点は、W氏が5年間禁止されているのは、「台湾に入国して観光する」ことです。つまり、同氏にはこれからの5年以内に、台湾で事業を展開したり、慈善活動を行ったりする目的で、台湾の主務機関に上陸許可を申請する権利は引き続き有するものであり、できないのは「台湾観光」だけです。勿論、観光入国の禁止令は、その他目的の上陸申請を行うときに、それに関する審査手続きに響かないとも限らないかもしれません。
日本人がノービザ入国で番組出演や1回限りのアルバイトができるのか?
日本籍の方は短期商用、展示会の参加、工場等の視察、国際交流、観光、親族訪問、社会的訪問などを行うために、ノービザで台湾に入国可能で、1回の入国で最長90日間滞在できます。そのため、前述いずれかの目的で訪台した場合、中国籍の方とは違い、台湾の主務機関に対して事前に許可を取る必要はありません。
では、ノービザで入国した場合、W氏のように番組に出演したり、短期のアルバイトをしたり、学生に日本語を教えたりしても問題ないだろう、これらの活動はみな短期商用なんだから。
確かに、番組の出演やアルバイト、日本語の授業などは「商用」と言えなくもない、90日以内で終わるのであれば「短期」ともいえましょう。しかし、事前に活動許可を取ることを法律によって義務付けられるのであれば、当該法律に従い許可を取ってからでないと従事できない特定の活動は、ノービザ入国で許される「短期商用」の範囲には含まれない、という点は要注意です(最高行政裁判所108年度上字第1155号判決)。
以下、台湾の労働当局が定めた、「就労許可」を事前に取得しなくても実施可能なビジネス活動をチェックし、ノービザ入国で行える短期商用にはどういったものがあるかを考えましょう(労働発管字第1070507378号通達)。
ビジネス目的で台湾で行う活動
台湾国内にいる特定の個人または法人から依頼を受けて実施する役務または業務に該当しない活動を行うのであれば、原則として就労許可の申請は不要です。なお、これらの活動は有償かどうかは別に重要ではなく、たとえ有償であっても、確実に上記の定義に当てはまればOKだが、留意点としては、外国法人の指示を受けて、台湾において委託業務や製品の売買、技術提携など契約に基づく業務を遂行するとき、業務に従事する日数が30日以下の場合には許可不要で、30日を超えると許可の取得が義務付けられることです。ちなみに、会社の株主または取締役が会社法に基づいて行う業務も就労許可の申請が不要です。
例示
- 業務の視察、打ち合わせ会議、商談、ビジネス拠点の設置に関する活動、市場開拓活動、ビジネス契約の締結、入札
- 工事の進捗確認、品質会議、機械装置の検査についての指導
- 展示会、セミナーその他会議への参加
- 商品の紹介やマーケティング、製品やイベントの宣伝活動
- 取締役や監査役、株主が台湾で開催する取締役会、株主総会に参加するための活動
付随的サービス行為
外国人は台湾国内にいる特定の個人または法人から依頼を受けて行うのではないという前提のもと、社会的責任を果たす目的で、相当な報酬をもらわない社会貢献活動を行ったり、イベントの主催者などの指揮命令を受けない自発的、経常性のない芸術活動を行うのであれば、就労許可は申請不要か、資格外活動許可の取得を必要とされません。
例示
- 環境保護のボランティア活動
- 既に就労許可を取得した外国人が、退勤時間後自発的に行う交通整理のボランティア活動
- 既に就労許可を取得した外国人が、政府機関または許可を得た民間団体が開催する、営利目的ではないイベントで行う芸術活動、もしくは文化芸術を推進する目的で行われる社会教育のイベントに劇団のメンバーとして出演する場合
通常の交流活動
相当な報酬をもらわず、自発的、イベントの主催者などの指揮命令を一切受けないパフォーマンスを行うとき、既に就労許可を取得した場合は資格外活動許可の取得を必要とされません。観客に合理的な場所代や清掃費を請求することは報酬とも認められません。
例示
- 既に就労許可を取得した外国人が、個人趣味で行う、無償かつ短期間のパフォーマンス。例えば、一切報酬をもらわずに、公園またはバーで行う1回限りのパフォーマンス
- 友人と結成するバンドで、バーで予定の演目がなく、報酬も全くもらわないパフォーマンスを披露する場合
- 報酬の支払いを受けておらず、場所代と清掃費を観客と分担する形で、同じ趣味を共有する人たちと自発的に行う演劇
その他台湾国内の個人または法人から依頼を受けていない、台湾人の雇用に影響を及ぼさない活動
台湾の雇用主から依頼を受けて何かサービスを提供するのではなく、もしくは1回限りのトーク番組またはニュース番組への出演で、台湾人の雇用に影響を及ぼす可能性が低いのであれば、就労許可の取得が不要です。また、短期間での特定の自営業活動(その他就労許可や居留ビザを持たない場合)や政府機関または行政法人などの招へいを受けて行う文化芸術の交流活動、招へいを受けて参加する試合や競技活動なども就労許可の取得が要りません。
例示
- 台湾の番組側から声がかかり、1回限りでトーク番組などに出演する場合
- 台湾でネット販売の事業を行ったり、露店で商品を販売したりする自営業活動(その他就労許可や居留ビザを持たない場合)。ただし、マッサージまたは言語を教えるなどサービスの提供は就労許可の申請は必要。
まとめ
以上の内容からも分かるように、ノービザで台湾に入国した日本籍の方が、レギュラーではなく、臨時的、1回限りのトーク番組に出演する場合は、就労許可の申請が不要で、「短期商用」の範囲に含まれると主張することは可能です。また、短期的、かつ個人レベルでのネット販売や露店販売に従事することも原則として許可が要らないが(その他就労許可や居留ビザを持たない場合)、日本語の家庭教師など役務を提供する活動を行おうとすると、たとえ台湾の個人または法人から依頼を受けていなくても、無償で貧困家庭の子どもに日本語を教える場合を除き、就労許可の取得が必要となる点は要注意です。
短期アルバイトの場合
では、ノービザで訪台し、台湾で短期のアルバイトをするケースは「短期商用」と主張できるかというと、こういった短期アルバイトは大体において、①台湾の個人または法人に雇用される事実があるのと、②それなりの対価が支払われる、③台湾人の雇用に影響を及ぼさないとも言い切れない、などの特徴を有するため、就労許可の取得が必要となります。
とある日本人のN氏は、台湾で仕事している日本人の知り合いから誘いを受け、デパートの日本食展示会に出展したブースで料理を作ることになったが、当該事実が労働当局の調査官に発見され、N氏を頼んだ会社にNT$15万の過料処分が下りました。N氏は、日本で飲食店を経営しているため、それで得た知見をレクチャーしてもらおうと台湾の知人に誘われ、同業間の交流ということで、無償で軽く指導してあげただけだ、と自分の正当性を主張したけど、それじゃ、展示会に貼ってあったN氏の写真と「日本人が実際に現場で〇〇料理を作る」という宣伝文句は何なのか、という労働当局からのカウンターアタックを食らい、結局ペナルティ処分を覆すことができませんでした(労働法訴字第1080009475)。
今週の学び
短期商用、展示会の参加、工場等の視察、国際交流、観光、親族訪問、社会的訪問などの目的で台湾に入国した場合、ノービザで最長90日間滞在可能だが、これは日本を含めたノービザ適用待遇国に限定される措置であり、台湾と中国とでは別の法律が適用されるため、それに則って互いに渡航するたびにそれぞれの政府に許可を取る必要があり、無事許可を取得した後、許可された在留目的(例えば観光など)の通りに活動しなければなりません。
これと比べると、やはりいろんな目的で、ノービザで自由に行き来できる日本と台湾の渡航条件は全然便利ですね。ただし、「短期商用」の定義をはき違えて、就労許可を申請せずに台湾で短期アルバイトをしたり、相当なギャラをもらって芸術活動を行うのはNGとの点は要注意です。台湾で行う活動に就労許可を予め取得必要かについて迷うとき、遠慮なくマサヒロにご相談ください。