女性社員の夜勤禁止は憲法違反!?

台湾の司法院が2021年8月20日に出した釈字第807号の解釈通達によって、労働基準法第49条第1項に定めのあった、「女性社員の夜勤禁止規定」が同日から法的効力がなくなりました。1984年7月30日からリリースされたこちらの規定は、なぜ今になって憲法違反と判断されたのかは疑問に思う方も少なくないでしょう。本稿は、 第807号の解釈通達のリリースによって、労働法は具体的にどういう風に変わったか、どういった問題点を新たにもたらしうるかについて、考えていけたらと思います。

問題視された条項内容

台湾の労働基準法第49条を分かりやすい日本語に直すと、以下のような内容となります。

  1. 会社は原則として、女性社員を午後10時~午前6時の間に働かせてはいけません。ただし、労働組合の同意があったり、 労使会議の多数決で同意が得られたり、なおかつ以下2要件をクリアできたら、例外的にそれを許します。
    ①必要な安全衛生施設が提供されること
    ②利用可能な公共交通機関がない場合には、交通手段又は女性社員寮が用意されること
  2. ①の安全衛生施設がどういったものを指すかについては、主務機関が別途細かい規定を定めますが、それより優れたものを会社が用意できてもOK。
  3. 健康その他正当の理由があって、午後10時~午前6時の間に働けない女性社員がいったら、会社はそれを強制できません。
  4. 天災事変その他不可抗力が生じ、女性社員を午後10時~午前6時の間に働かせなければならない理由があった場合には実施OK。
  5. どういった理由があろうと、妊娠又は授乳期間中の女性社員を午後10時~午前6時の間に働かせてはいけません。

今回、憲法違反とされ、失効となる規定は、第一項である、「会社は原則として、女性社員を午後10時~午前6時の間に働かせてはいけません。ただし、労働組合の同意があったり、 労使会議の多数決で同意であったり、なおかつ以下2要件をクリアできたら、例外的にそれを許します。」になります。

憲法違反の理由は?

本件解釈通達の内容によると、審理担当の裁判官たちの観点としては、国民の平等権を守るためには、条件を付けて特定のグループを優遇する措置を導入することはありですが、優遇対象にするかの基準を、変えることが難しい「性別」にしたら、従来のステレオタイプが強化されたのではとの恐れが生じる一方で、労働組合又は労使会議の決議を経て始めて夜間勤務が可能とされる女性社員の働く権利を制限する形となり、女性社員の人身安全を守ろうとする安全衛生施設についての要求をよしとするが、原則としての夜勤禁止がいかかなものかといった理由で、憲法違反の決め手とされています。

また、女性の夜勤禁止が違憲であるかについての審理を発動させるきっかけに、労働検査で違法と判断された、仏小売大手のカルフールと台湾航空大手のチャイナエアライン(中華航空)が行った異議申し立てによるものです。

主務機関である労働部の見方

司法院がリリースした本件解釈通達を受け、労働部が今年、2021年9月13日にて、 労働基準法第49条についてより明確な公式見解を出しました。それが労働条2字第1100131169号の解釈通達となります。

当該通達によると、労働基準法第49条の第1項は、司法院の違憲判定によって無効とされましたが、同条第3項及び第5項が引き続き有効であるとの説明がなされています。すなわち、健康その他正当の理由を有する女性社員は、 もし会社から午後10時~午前6時の出勤を命じられたら、それを拒否する権利があるほか、台湾の憲法にも定めのあった母性保護(同法第156条)の観点で、妊娠又は授乳期間中の女性社員は依然として午後10時~午前6時の間に出勤させてはいけないとされています。

会社が第5項妊娠又は授乳期間中の女性社員に夜間勤務を要求できない)を違反した場合には、ペナルティとして9~45万台湾ドルの過料プラス社名・責任者公表との行政罰が設けられるのに対して、第3項(正当理由あっての女性社員を夜間勤務させれない)の違反には、6か月以下の懲役刑もしくは禁固刑及び/又は45万台湾ドル以下の罰金刑に処されてしまうという、比較的重たい刑事罰が用意されているので、要留意が必要です。

労働基準法第49条第5項について

女性社員の夜勤禁止ルールについて、実務的によく争われているのは、 労働基準法第49条第5項に定めのあった「授乳期間中」の認定問題です。

いわゆる「授乳期間」をどのように認定したらよいかについて、労働部が2015年中にリリースした解釈通達(労働条2字第1040131179号)によっては、授乳期間は、産後1年の間と考えても差し支えがなく、場合によってケースバイケースで認定することもありだが、女性社員が自ら授乳しない場合だと対象外となる、との見解が示されました。

一方、翌年の2016年に入って、「授乳行為の有無」について、労働部が別途解釈通達(労働条2字第1050130328号)を出しました。同通達の内容を以下三つのポイントにまとめることができます。

  1. 「授乳期間であるかどうか」、「自ら授乳しているかどうか」を、対象女性社員が署名する声明書又は誓約書を依拠とし、行政が労働検査を行って始めて会社が当該文書を作って提出する場合には認められません。
  2. 対象女性社員が署名する声明書又は誓約書が提出されたとしても、行政は自ら行った調査で得た証拠とヒアリングの結果で、論理及び経験則をもとに裁量することができます。
  3. 所定時間に自ら授乳する必要がない代わりに、搾乳を必要とされる女性社員がいたら、夜勤禁止ルールは引き続き適用とされます。

授乳期間」については、当局からは以上のように細かい見解が出されていますが、何かのきっかけで、ルールの一部変更がまだ急に発生しないとも限りませんので、運用時に要留意ですね。

これから発生しうる問題点

女性社員の夜間勤務が解禁されたわけですので、カルフールさんのような24時間営業が場合によって必要とされる会社、長時間航行を日常業務として要求されるチャイナエアラインさんにとっては、社員の労働時間とシフトのアレンジがもっとやりやすいであることは間違いありません。ただし、喜んでばかりではいられません。なぜなら、解禁になったのはあくまでも労働基準法第49条の第1項のみで、その他条項は引き続き有効であることは要注目です。例えば第3項の、「 健康その他正当の理由があって、午後10時~午前6時の間に働けない女性社員がいったら、会社はそれを強制できません 」との強制規定なんですが、夜間勤務はそもそも健康に害する労働形態の一種であり、会社から夜勤を命じられたら、”体が悪くなる”、”夜勤すると免疫力が低下しコロナにかかりやすい”、”慢性持病が夜勤によっていきなり悪化する”、といった理由をもって、夜勤を拒否するとしたら、法律上成立するかどうかは争点になりやすいのではと考えられます。この辺の判定基準は特に設けられておらず、経験則や比例の原則を頼りに判断するしかありません。この辺の問題について、当局はこれからまだ何かの拍子に補足用の見解を出すかは引き続き要フォローです。

Attention!

※本稿は2021年9月17日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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