当直なのに、残業代ですか!?

定時的巡視,緊急の文書又は電話の収受,非常事態に備えての待機等を目的とし、所定労働時間外に通常労働とは異なる業務を行う当直は、製造業をはじめとする事業者が馴染んでいる勤務形態の一つとなります。

休日の昼で行ったら「日直」、工場に寝泊りする場合には「宿直」と呼ばれている当直は、従業員の方に協力してもらう報酬として、台湾の中小企業は約数百元ないし1~2千台湾ドルを支給したりしています。このようなやり方は、勿論違法でもなく、法定最低報酬額のような決まり事もありませんので、一部特殊な事例を除き、今まで大体何事もなく実施されてきました。

ただし、この数十年にわたってずっと活用されてきた当直制度は、来年、2022年1月1日から、事業者側にとって比較的望ましくない形で大きく変貌してしまいます。「もしかして残業代の支給対象であったりして...」、残念ながら、その通り、当直なのに、残業代です!

2021年12月31日まで有効な現行ルールとは?

当直の実施についての基本ルールを一応決めようと、政府が1985年に、初版の「事業者が宿日直を実施する際の注意すべき事項」をリリースしました。その後、従業員の待遇改善と性別平等のコンセプトを加味するイメージで、2019年にそれの改訂版を出しました。当該注意すべき事項の主なポイントは以下のようなものです。

  1. 当直業務とは、所定労働時間外、労働契約に定めのない(比較的簡単な)業務です
  2. 当直の実施に、事前に対象従業員の同意を得る必要
  3. 事前に対象従業員の同意を得る代わりに、労使会議で同意が得られ、又は就業規則に定めるうえ半数以上の従業員から同意書を取得しても実施OK
  4. 当直の手当は、月次賃金を240で割ってかける当直時間で算出することが望ましい(※強制でないこと!)
  5. 原則として、出勤日の当直は周1回、休日の当直は1ヵ月に1回が限度
  6. 休日の当直に、当直手当とは別に、当日分の賃金も支給必要
  7. 適切な食事、休憩及び寝具を用意すること
  8. 未成年従業員は当直禁止
  9. 妊娠中又は授乳必要のある女性従業員は当直禁止
  10. 女性従業員を宿直させるには、会社は必要な安全衛生施設と措置を用意しなければならない

4番は、あくまでも「推奨」との位置付けであり、当該計算式に基づく支払いを保証してあげなければならない、というガチガチなものじゃないから、その計算式をあえて自社に導入したりする会社の数はさほど多くないかもしれません。

ただし、2022年に入ったら、当直の風景ががらりと変わることとなります。

裁判所の見解

一つ見落としやすい点は、上記での当直に関する指導要領のような「事業者が宿日直を実施する際の注意すべき事項」は、性質上法律ではないため、法的拘束力を有していない類の存在です。ですから、一旦労使双方が当直についての見解で相違が生じ、裁判所の世話になってしまったら、同注意すべき事項を引き合いに出しても、必ずしも有利に働くとも限りません。いくつかの裁判例をチェックしてみましょう。

●当直は残業とは性質的に異なるとの見解

当直は通常勤務のように、常に労働を提供する必要はなく、精神と体力も通常勤務時のように長期間な消耗を必要とされておらず、有事の際に備えさえすればよいから、残業とは異なり監視・断続的業務に該当します。従って、病院専属の運転手は、当直時に出動命令が出なければ休息できて、仮眠もとれますので、当直期間中は残業時間に該当しないと結論づけられます。(最高裁2014年度台上字第1064号民事判決)

●当直は事実上残業であるとの見解

従業員が当直勤務中、現場に駆けつけて緊急対応を行ったり、有事の際に備え会社に待機したりすることは、いずれも会社の指揮命令下に置かれている状態で、活動の自由が制限され、随時労働を提供できる体制を整えなければなりません。天然ガスの供給事業は、消費者側でガス漏れが生じたり、ガス管に亀裂が入ったりなどの状況が生じたらすかさず現場へ赴き対処する必要のある、公共安全と公益に関わるものであり、当直担当の従業員が待機中だからといって、通常勤務時と同レベルな労働提供が要求されるため、当該当直勤務は残業に該当すると考えられます。(最高裁2017年度台上字第2533号民事判決)

●当直か残業か実施の活動内容に判断すべしとの見解

地方検察署に務める警備担当裁判所事務官が行った、17時30分から翌日の8時30分までの時間外労働について、17時30分~23時30分の時間帯は、検察官又は副警察長の指示を受け業務を遂行しなければなりません。しばしの待機時間があったものの、活動できる場所が制限され、ずっと指揮命令下に置かれ精神的緊張状態を保つ必要があり、はっきりとした休憩時間が設けられるわけではないため、当該時間帯が残業時間に該当すると結論づけられます。(台北高等行政裁判所2021年度簡上字第54号判決)

裁判所は、どちらかというと、形式より従業員が行った実質的活動内容をもとに当直か残業を判断しますが、ここ数年、比較的労働者よりの見解を述べる傾向が強くなり、形だけの当直がますます実施しにくく雰囲気が形成しつつありました。

当直なのに、残業です!

台湾の労働部からは、日直か宿直に関係なく、時間と場所的には雇主の指揮命令から完全に離脱することができず、なおかつ、労働団体からの話しでは、一部の会社は当直勤務を利用し、性質的には通常勤務と限りなく近い業務を従業員に要求したりしているにもかかわらず、1回の当直に300~500台湾ドルしか支給していないことを受け、2021年12月31日を最後にモラトリアム期間を終了させ、来年からあるべき姿に立ち戻って、当直勤務を労働の提供とみなし、当直手当ではなく、労働法に定めのあった残業代の計算方法に則って残業代を支払わなければならないとの方針を、2019年の一部改正で決定しました。

「当直イコール残業」との方程式が成立しましたら、所定労働時間外の当直を行う従業員に、会社は割増賃金を支払ってあげなければならないほか、1日12時間の労働時間制限、1ヵ月46時間の残業時間制限、4時間連続労働に30分の休憩、といった労基法上の規定に違反するかをしっかりとチェックしなければならなくなりました。こういった点に気が付かず、今までのやり方で当直を実施していきますと、2022年から、2~100万台湾ドルの過料を払わされる可能性がございます。

残業と同じ法的縛りを受けたら、今まで同様な密度で当直を実施するためには、人手を増やす必然性もある程度生じるわけですので、人件費の負担増は避けては通らないかもしれません。一方、日本では、「断続的な業務」として、事前に労働基準監督署長の許可を取得すれば、残業とは異なる扱いで当直を実施可能ですが、台湾ではそのような例外的な処置が今のところ設けられておらず、2022年からは一律に「当直イコール残業」なので、インパクトの大きさは容易に想像できます。そのため、必要に応じて、予め従業員の労働時間を全般的に見直し、必要に応じて交代勤務を導入したりすることで、来年における当直がもたらす影響を最小限に抑えることがお勧めです。

Attention!

※本稿は2021年11月14日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA