従業員がネットで会社を誹謗中傷する法的責任及びそれについての対処法

従業員がネットで会社を誹謗中傷する法的責任及びそれについての対処法
社員M

ボス!うち、今ニュースに出ています。

店長

新商品のダイナマイト弁当は、ついに脚光を浴びたか。目の付け所がいいね、どれどれ~

社員M

違うようです。報道されているのは・・・有名な告発サイトの書き込みでして・・・

店長

BENTO○サヒロは・・・店長がサイコパス的な人・・・店も汚い・・・長時間労働を強要するどブラック企業!!!!!どこのどいつがこんなデタラメをネットに流したのだ!

社員M

苦労疲夫・・・こいつ、うちの社員じゃありませんか!

店長

許さねぇ・・・やつをここに呼べ!

テレビをつけたら、インターネットの告発サイトで発見した有名企業へのクレームをネタとするユース報道がたまに目につきます。そのようなクレームが事実であるかどうかを問わず、ニュース番組の報道又は全世界からアクセス可能な告発サイトの関係で、それが瞬く間に不特定多数の目に触れる可能性が高く、対象となる企業への影響は決して小さいものではありません。

前述した告発サイトにおける会社へのクレームは、多くの場合、在籍している従業員、又は退職者が行うものであり、実体験を踏まえた比較的客観なクレームならまだしも、多くのケースは、会社に対して行われた、腹いせ的な、理性を欠いた発言、若しくは会社の名誉を損なうことのみ目的とする事実無根な低評価、嫌がらせがになっています。

従業員が告発サイトで行った会社へのクレームは、一部ないし全部の内容が事実でないものなら、何かしら法的責任が発生しないか、会社がネットでそれを見つかったらどういった対処法を取ればよいのかを含め、以下分かりやすく解説させていただきます!

「誹謗罪」(日本の名誉毀損罪と類似)に該当する場合

従業員がフェイスブックやインスタグラム等のSNSやブログで、会社の悪口等を含めた誹謗中傷を書き込んだコメントを残した場合、以下の要件を全て満たしたら、台湾の刑法第310条に定めた誹謗罪に該当する可能性があります。

  • それを行う意図があること、つまり過失ではなく、故意によるもの
  • ダイレクトメールや1対1のLINEトークではなく、不特定または多数者に対して行うこと。
  • ただ意味を成し得ない罵詈雑言ではなく、何かしら具体的な事柄を伝えようとする行為。
  • 他人の名誉を毀損しうること。

上記要件のポイントは、①「公然性」を有し、つまり複数の人がそれを認識できて、なおかつ②故意にとある行為や特徴、状況等を他人に共有し、その結果として、③対象となる法人の名声や評判が落ちる、といった点になります。

ネットでの書き込みや記事が、不特定多数の目に触れる場合が多いので、①に合致しやすいと考えられます。

一方、証拠をもって、他人に伝えようとする事柄が真実だと証明できる場合には無罪であると、台湾の刑法では誹謗罪についての免責要件も一応用意されています。たとえ誹謗中傷と思われる書き込み又はコメントが、結果として事実と相違する内容が認められたとしても、それを行った従業員は、自ら提出した証拠品にそれなりの信憑性があって、信用に値する客観的な理由が存在した場合にも、免責要件が適用される形となります。

要留意なのは、明らかにでっち上げの証拠であるにもかかわらず、それを安易に信用し(例えば他人が行った誹謗中傷のコメントをそのまま転送)、かつそれのみを理由に悪意丸出しの書き込みをネットで行ったりすれば、免責を主張することができない、と判断する過去の裁判例がありました。(最高裁判所94年度台上字第5247号裁判)

また、誹謗中傷の内容が公共の利益と無関係、若しくは私的領域を超えない話しと認められれば、たとえそれが全て事実であると分かったとしても、免責にはならないので、留意しておきましょう。(例えば○○社長が串カツを食べるとき、いつも二度漬けしているから、気持ち悪い、等)

●会社への誹謗中傷で「誹謗罪」に該当しうる設例
高雄のマ○ヒロ社は二重帳簿を付けており、かつ従業員へは年度ボーナスを支給しないのみならず、残業代もごまかすから、ドケチで最低の会社だ!

ちなみに、誹謗罪は親告罪なので、誹謗中傷を行った人を特定できる日から6ヶ月以内に提訴しないと、時効となってしまいます。(刑事訴訟法第237条、以下「公然侮辱罪」も同様)

そして、有罪判決が出されたら、通常の誹謗罪だと、1年以下の懲役若しくは禁錮又は15,000新台湾ドル以下の罰金に処せられるが、ネットでの書き込みやコメントによる誹謗中傷は過重誹謗罪に該当し、2年以下の懲役若しくは禁錮又は30,000新台湾ドル以下の罰金に処せられてしまいます。

「公然侮辱罪」(日本の侮辱罪と類似)に該当する場合

従業員がネットで行った会社をディスる書き込みやコメントで、台湾の刑法第309条に定めた「公然侮辱罪」に該当しうる要件は以下になります。

  • それを行う意図があること、つまり過失ではなく、故意によるものです。
  • ダイレクトメールや1対1のLINEトークではなく、不特定または多数者に対して行うこと。
  • 他人に罵詈雑言を浴びせる等侮辱行為があったこと。

会社への誹謗中傷が行われたのは、①ネットユーザーに一般公開されるブログや、②クローズドグループとは言え、メンバー数が数十ないし数百名なフェイスブックグループ等であったかという、公然性の有無が問われる点は誹謗罪と共通しているが、公然侮辱罪では、「何かしら具体的な事柄を他人に伝える」事実が不要とされ、代わりに、抽象的で、何を指して批判するのか特定しにくい、例えば阿呆、ボケ、間抜け等の用語を使われることが要件とされています。

●会社への誹謗中傷で「誹謗罪」に該当しうる設例
高雄のマサ○ロ社はブラック企業、行政の犬だ!

侮辱罪の被告に有罪判決が下されたら、禁錮又は9,000新台湾ドル以下の罰金に処せられ、ビンタしたり生卵を投げつけたり暴行を加える形で、他人に侮辱を行った場合には、過重侮辱罪として1年以下の懲役若しくは禁錮又は15,000新台湾ドル以下の罰金に処せられてしまいます。

民法「損害賠償請求権」の行使

会社は個人との根本的な違いはと言えば、会社はネットでの誹謗中傷を受けたら、精神的な苦痛を覚えることがなく、行為者が謝罪文を掲載すれば名誉回復につながるため、法に基づき加害者に慰謝料を請求することができないと、比較的多くの裁判所はこのような見解を認めています。(最高裁判所62年台上字第2806号民事判決等)

にもかかわらず、誹謗中傷があったことで、刑事告訴で有罪判決が出るかを問わず、会社が有する社会的評価、信用、名誉等が傷ついており、それによって受けたダメージを金銭に換算できれば、台湾の民法に基づき、誹謗中傷を行った従業員に対して損害賠償請求を行うことができるとともに、会社の名誉回復の措置として、ネットから誹謗中傷の記事やコメント等を削除したり、必要に応じて新聞紙で謝罪文を掲載したりすることを求めることも可能とされています。(民法第184条同法第195条等)

ただし、事実でない誹謗中傷があったことで、会社が失注したり、売上が著しく減少したり、消費者からの信頼が失われたりすることを、何をもってその間に存在する直接的な因果関係を証明できるかについて、実務的にはハードルが結構高いです。

例えば、2年間の決算書を提出し、誹謗中傷を受けてからの売上が50%減ったと主張しようとする場合、もし売上に変化が生じたタイミングで、たまたまコロナの警戒レベルが第3級に引き上げられた時期と重なってしまったら、誹謗中傷と売上減との関係性がさらに証明しにくくなってくるので、留意が必要です。

こちら台湾の民法に定めのあった損害賠償請求権は、誹謗中傷の行為を認識しかつ行為者を特定できる日から2年以内、又は当該誹謗中傷行為がなされた日から10年以内に行使しないと、時効となってしまいます。(民法第197条

証拠を保存する必要性

ネットで行われる誹謗中傷に関する書き込みやコメントは、急に削除されたり、添削されたりする可能性は容易に考えられます。法的手段を講じるかを本格的に検討する前であっても、これから取りうる対応方法を少しでも増やす考えで、とりあえずタイムリーにこういった書き込みやコメントをカメラ写真に収め、若しくはスクリーンショットで取って保存することがお勧めです。

ただし、誹謗中傷の事件がいざ訴訟沙汰となってしまったら、相手先から、告訴人が提出したのは加工されたスクリーンショットなのでは?という風に、証拠の信憑性について疑問を投げかけられる展開はありえます。その場合、台湾の公証役場にて、誹謗中傷の内容が書き込まれたウェブサイトに対して、インターネットの閲覧に関する事実実験公正証書の作成を公証人に依頼することが有効です。

公証人は裁判所から権限を与えられ、裁判所に代わってこういった証拠品が本当かどうかを事前に検証するサービスを提供しており、少々費用かかるが、何時なくなってもおかしくないネット記事や書き込みを有効に保存しようとするならば、公証役場を活用していただけます。

そもそも、「法人」は誹謗罪と公然侮辱罪の告訴を提起できるものか?

テレビや新聞等で、誹謗中傷の話しが持ち上げられたとき、十中八九が個人対個人のケースになります。個人が会社に対して行った誹謗中傷の案件は、会社自体ではなく、社内のマネジメント層を含めた管理職が誹謗中傷の対象であったり、訴訟にかかる費用を考慮し誹謗中傷を行った従業員に提訴しなかったりする等の原因で、会社が原告となって、従業員個人に対して誹謗罪又は公然侮辱罪の訴えを起こすケースが決して多くありません。では、会社が個人のように、誹謗罪又は公然侮辱罪の告訴を行うことができるものでしょうか?

法人への名誉毀損は、当該法人の株主又はマネジメント層の名誉毀損につながるため、誹謗罪又は公然侮辱罪に定めた人対人の関係は、法人はそれに含まれなければならない、という台湾司法当局の見解が過去において示されており(司法院20年院字第534号解釈通達)、法人が原告となる案件は、管轄する裁判所はこちらの見解を引き合いに出して、個人が提訴する案件と同様な扱いを行う場合が少なくありません。

近年の裁判例だと、高雄高等裁判所が2019年に、個人がフェイスブックで行った屏東農協への誹謗中傷という刑事事件において、

個人の運営で成り立つ法人は相当な社会的評価を有する実体であるため、個人と同じく誹謗中傷の被害から守るべきだと、法人も誹謗罪の被害者になり得る

高等裁判所高雄支部108年度上易字第179号刑事判決

との見解を示していました。

一方、上記の見解は必ずしも台湾全体の裁判官に支持されるとも限りません。屏東農協への誹謗中傷の一件については、第一審を担当する屏東地方裁判所では、

国又は社会の利益を侵害せず、社会的秩序を乱す程度にも至らない名誉毀損の案件については、刑法における謙抑性の原則、並びに司法の資源損耗を防止する観点で、刑事的手段をもって法人への名誉毀損案件に介入するのは望ましくないと考えられる。時代背景に合った形で、誹謗罪の被害者を個人に限定させるべきだと判断する。

台湾屏東地方裁判所107年簡上字第223号刑事判決

という風な見解が示され、法人は誹謗罪の原告になれないとの判断を下しました。

まとめると、「法人は誹謗罪と公然侮辱罪の告訴を提起できるものか」について、台湾の司法界隈では、今のところまだ本格的な決着がついていないようなので、ケース次第で、会社を刑事事件の原告に据えて、個人に対して名誉毀損の訴えを行うことが引き続き可能となりましょう。

訴訟以外の対応方法

従業員がネットで行う会社への誹謗中傷に対して、裁判という手段をもって対抗しようとすれば、刑事か民事事件を問わず、数か月ないし数年かかる可能性があります。問題となる記事やコメントを残した従業員にすぐにでも削除してほしい場合には、訴訟はベストアンサーではないかもしれません。

その場合、問題記事の削除と謝罪文の掲載を要求する内容証明を作成し、弁護士名義で当該従業員に送付する対応策が取られています。勿論内容証明のみでは法的強制力は発生しないが、それなりの抑止力が期待できるので、効率よく問題解決を望むなら、先に試してみる価値がありましょう。

ATTENTION!

※本マサレポは2022年5月24日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA