昼休みの外食で交通事故に遭ったら労災扱いになるか?通勤災害と労災認定の関係性について

午前中の勤務が一段落し、体力を温存し夕方の仕事をしっかりこなせるための昼休みになりました。社内食堂はありますが、軽く気分転換しようと、外で大好きな丹丹バーガーを食べることにしました。

腹いっぱい食べて、バイクで帰社したら、何処からともなく道路の脇から突っ込んできたスプリンタートレノを避けようと、運悪く電信柱にぶつかり、足首を骨折してしまいました。

この事故は、自由行動できる昼休みの間に起きていて、労災とは関係ないと言われればそれまでだが、自分は普段自炊しているから、外食をしたのは「出社」によるものです。この観点では、今回の件はやはり労災なのではと考えざるを得ません。

勤務時間中、工場でうっかり怪我を負った、といういかにも典型的な労災事故と比べたら、上記のケースは労災に該当するかどうか、にわかに判断しにくいではないでしょうか。

労働者が通勤途中で事故に遭い、怪我を負った場合には、労災として認定される可能性が大きいですが、よくあるケースとして、労働者が退勤後軽く夕食をしたりする場面で、もし食事後の帰宅途中で交通事故が起きて体を怪我したら、労災と考えるにはやはり抵抗感を覚えましょう。

こういった判断が難しい、通勤災害にまつわる労災認定の問題を考察してまいりたいと思います。

労働災害の定義

台湾の法律においては、どういった要件を満たしたら労働災害と言えるのかというと、皆さんお馴染みの労働基準法において、労災が起きたら、会社にはどういった補償義務があるかのみ定められており、労働災害という概念をどう定義づけるかについては触れられていませんが(労基法第59条)、職業安全衛生法では、「労働現場の建物、機械装置、原料、材料、化学品、ガス、蒸気、粉塵など、又は労働活動その他業務上の事由による労働者の疾病、負傷、障害又は死亡」という風に、労災に対しての定義がなされています(職業安全衛生法第2条)。

また、政府から労災給付が出るかを認定する審査準則においても、「労災保険を加入した労働者が業務中に受けた負傷は労働災害である」との定めもあって、労災に関する定義付けがなされています(労工職業災害保険職業傷病審査準則第3条)。

司法実務においては、裁判所は原則として前述の法律を踏まえ、労災認定を行っていますが、主に以下2つの方向性によって判断がなされています。

労災認定の主な方向性

  • 業務遂行性
    • 労働者が事業主との労働契約に基づき業務を遂行している間に事故が起き、かつ当該事故は事業主の支配ないし管理下にあるときに発生したこと。
  • 業務起因性
    • 労働者の負傷が労働現場、労働活動その他業務上の理由によって生じたもの、つまり労災と労働者が担当する業務との間で相当な因果関係が認められること。

労災に関する定義を一通りチェックした後、次は通勤と労災の関係を考察してみましょう。

台湾の法律における通勤災害に関する取扱いについて

台湾の労基法では労災に関する定義もなければ、労働者が通勤中に起こった怪我が労災に該当するかどうかに関する直接的な言及もありません。通勤災害への取扱いは、前述の審査準則で確認する必要があります。

労働者が適度な時間で、通常の居住地から事業所を往復したり、兼業の場合、二つ以上の事業所を往復したりする途中で起こった事故による負傷は、労働災害とみなす。

上記によっては、労働者が通勤中で怪我したら、原則として労災と認定すべきであることがわかります。とはいえ、いくつかの例外が設けられていることを留意が必要です。

  • 日々の営みに該当しない私用
  • 無免許運転
  • 免許停止又は免許取消期間中の運転
  • 信号無視運転
  • 踏切不停止
  • 飲酒運転及び危険ドラッグ運転
  • 路肩走行
  • 道路上で競走或いは競技、蛇行運転その他危険運転
  • 通行区分違反や進路変更禁止違反

上記例外のうち、2~8番はいずれも重大な交通ルール違反行為なので、労災に認定されないことは理解しやすいだが、1番の「日々の営みに該当しない私用」は判断が比較的難しいです。

行政側では、通勤ついでに、配偶者を勤務地に送迎したり(労保3字第0950114078号通達)、子供を学校に送迎したり(労保3字第0950037118号通達)、金融機関で現金を引き出したり(労保3字第0950040657号通達)することは、原則として日々の営みに該当する行為なので、その途中で起きた事故による負傷は、労災扱いにしても差し支えない、との見解が示されています。

また、とある労働者が退勤後の帰宅途中で、5分ぐらい寄り道し朝食をとって(対象者は深夜勤を担当)、自宅に向かう間に事故が起き負傷したケースがあって、裁判所はそれに対し、深夜勤の後軽く寄り道して朝食をとるのは台南に居住する年配社員に共通する習慣であり、日々の営みから逸脱していないので、労災でみるのが妥当、との判断を下しました(台南地裁106年度簡更(一)字第1号判決)。

ですから、「日々の営みに該当しない私用」としてとれるかは、社会の常識とは別に、それぞれの地方における習慣なども考えるうえで、判断する必要がありましょう。

ちなみに、日々の営みに該当するかもしれませんが、通常の事案よりだいぶ通勤時間がかかるケースとして、とある労働者は渋滞を避ける目的で、3時間早めて出勤し、結局途中で事故に遭って怪我したが、結局労災に該当しないと判断された、という裁判例(新北地裁107年度労簡上字第22号民事判決)もあります。この事例を合わせて考えると、通勤災害であるかを検討するにあたっては、通勤時の状態や通勤路線とは別に、通勤時間も考慮必須な要因であると考えられます。

外食時の事故も労災扱い!?

労働者が昼休みのとき、もしくは残業する前に外で軽い食事をとったら、運転時に思わず交通事故に巻き込まれ怪我した場合、通勤災害なるかの法的根拠は次です。

労災保険に加入した労働者が通常勤務日の休憩時間中、又は残業、当直をする前に、事業所内で食事をするよう事業主から命令されない前提で、必要に応じて外食をとろうと、事業所と外食先を往復する途中で事故が起き、それによる負傷は労災とみなす。

こちらの法律規定によると、外食時の事故は労災なるかは主に3つのポイントから判断する必要があります。

外食時の労災認定における3つのポイント

  • 事業所内で食事することを義務付けられていない
    • よく誤解されがちなのは、社内食堂が用意されていれば、外食時の事故は個人責任となり、労災は関係ないという考え方です。法律的には、社内食堂のあるなしではそれほど重要ではなく、社内で食事するよう会社から要求される事実があるかは判断基準とされています。従って、社内食堂はあるが、外食してもいいよ、という社内ルールがとられていたら、労働者が外食途中で起きた事故による怪我は労災扱いになります。
  • 必要性のある外食であること
    • 「必要性のある外食」というのは、例えば昼食や夕食など比較的重要性の高い食事が対象とされています。社内で弁当を食べた後、急に馬刺しが無性に食べたくなって、会社を出て調達しようとする間でバイクが滑って転倒してしまい、足を怪我してしまったケースは、労災とは認定されません。
  • 事故現場は外食先と会社を往復する途中であること
    • 外食するのはよいが、途中でたばこを買いにコンビニへ行ったり、軽く法律相談しようとマサヒロオフィスへ行ったりする間で交通事故に遭ったら、労災とみなされません。

通勤災害に対する会社の責任

労働者が通勤途中での負傷が労災認定されたら、まず労災保険から医療費や一部の給料を補償するための手当が支給されます。そして、前でも触れたように、労災が起きたら、事業主に過失があるかを問わず、被災した労働者を補償する義務を有する(労働基準法第59条)と定められています。ただし、同59条によっては、既に事業主が費用を負担する労災保険などから補償金が出たら、事業主が対象労働者に対する補償義務はその分だけ軽減する、という会社への責任緩和措置も用意されています。そのため、保険料をケチらず、労働者が受領する月次賃金をもとにしっかりと労災保険を加入することがいかに重要であるかが伺えます。

また、もし対象労働者が利用する通勤用車、通勤用バイクは会社から支給されたものであるにも関わらず、会社が定期保守点検を怠ったことで通勤災害を発生させた、という因果関係が認められたら、対象労働者はさらに民法に基づき事業主に対して損害賠償請求を行うことができるほか、職業安全衛生法又は刑法によって、事業主に刑事責任(中華民国刑法第276条同284条)を求めることも可能とされています。通勤災害については、会社側の責任はとにかく重大なので、しっかりと気を付けましょう。

見解が分かれる通勤災害

労働者が通勤時に事故が起きて、それによる怪我は原則として労災に該当すると、労工職業災害保険職業傷病審査準則第4条に定められています。こういった労災事件については、所定の書類を作成し保険局に提出すれば、問題なく労災給付が出ますが、会社側においても、対象労働者を補償する義務があるかと言えば、司法側の見解はまだ統一されていないようです。

一部の裁判所では、労働者が通勤時の運転は、会社の指揮命令下で行われたわけでもないし、その間で起きた労災は事業所内で起きた労災とは性質がだいぶ異なっており、業務遂行性又は業務起因性それぞれの側面から考えても、通勤災害をもって会社に責任を問い、会社に労災補償を強制することは比例の原則に反する恐れがある、との見解が示され、保険局から労災給付が出たからと言って、会社に労災補償責任があるとも限らない司法判断がなされています(例えば、台北地裁109年労簡字第84号民事判決)。

一方、労基法に定めた労災補償制度は仕事関係で怪我した労働者にタイムリーな医療や介護を受けさせ、経済的困窮に陥るのを回避し、さらなる社会問題を未然に防ぐために作られており、従って、同補償制度は会社側に過失が認められるかどうかを考慮しない、いわゆる「無過失責任主義」の観点をとって、労働者の生存権を守ろうと会社に労災補償の義務を課すものであり、会社を罰したり、会社に対する労働者への損害賠償責任を追及したりする意味合いが含まれず、労災保険の補償制度と相通じる考え方による制度作りなのだという、通勤災害について労災保険と会社の労災補償義務は併存するとの見解を採択する裁判所もあります(例えば、桃園地裁108年労訴字第46号民事判決)。

以上のように、労働者に通勤災害が起きたら、会社は労災補償を行う義務があるかどうか、裁判実務においても一致した見解がなされていないことがわかりました。リスクヘッジの観点で、スタンスが不明確な裁判所に運命を任せるより、予め通勤災害を対象とする民間の損害保険に加入するほうが望ましいかもしれません。

今週の学び

電車通勤が一般的な日本と比べたら、台湾は車通勤・バイク通勤が主流です。台湾の交通事情も考えたら、明らかに後者のほうは通勤災害が起こりやすいといっても過言ではありません。ですから、事業所内の労災防止活動はもちろん、管理が難しい従業員の通勤災害を如何に回避・対処するかは重要な人事労務事項となりましょう。

マサレポ、今週の学び

  • 労働者の通勤災害は原則として労災扱いになるが、日常性のない私用又は違法運転による事故は対象外。
  • 配偶者や子供の送迎、ATMの利用、又は食事をとることは日々の営みとみなされる傾向なので、日常性は判断に迷うかも。
  • 休憩時間中の外食で起きた事故が労災になるかのキーポイントは、事業所内で食事をとるよう、会社から強制命令があるかによります。
  • 通勤災害が起きたら、会社に補償義務を求められ、民事・刑事責任を問われる可能性はゼロではないので、必要に応じてマサヒロと相談してみてください。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年2月6日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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