病気休暇を取得した社員に対して皆勤手当てを不支給とするのは違法?!5月3日に施行した改正労働者休暇申請規則は要注意!
従業員が1か月の間に、1日も欠勤しなかったら、当月は基本給のほか、数千NTD程度の皆勤手当(又は精勤手当)がもらえる制度は、日系企業か否かを問わず、人事管理の制度として普通に導入されています。
また、いわゆる欠勤は、遅刻や早退は勿論、病気休暇や自己都合休暇などもそれに含まれているため、病気休暇を取得した従業員は、原則として休暇期間中の賃金の半分及び皆勤手当を会社からもらえない形となります。
一方、台湾の労働部は今年のメーデーに、特定の条件を満たした労働者が病気休暇を取得しても、会社はそれを理由に皆勤手当を不支給にしてはならない、という新しいルールを発表し、5月3日(水)より施行することにしました。
当社は今まで、皆勤手当の支給条件を、無断欠勤なし、遅刻早退なし、自己都合休暇なし、病気休暇なしとして来たが、当局が「病気休暇を取得しても皆勤手当がもらえる」的なルールをいきなり導入したのは乱暴すぎるのでは?そもそも「特定の条件」とは何か?
早速本件新しいルールの中身をチェックしてみましょう!
目次
「病気休暇を取得しても皆勤手当がもらえる」ルールの正体
2023年のメーデーに誕生した、「病気休暇を取得しても皆勤手当がもらえる」という新規ルールについて、実はそのポイントが病気休暇ではなく、その前提に該当する「特定の条件」にあります。
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以前のマサレポで共有させていただきましたように、女性労働者が流産したとき、5日~8週間の出産休暇を取得できるとされており、3カ月未満で流産した場合の5日~1週間の出産休暇は原則として無給にしても法律違反にならないが、対象者は出産休暇を取得する代わりに、給料の半分がもらえる病気休暇を取得してもよいともされています。
以前のマサレポはこちら
出産休暇と病気休暇から自由に選べる権利を女性労働者に付与するのはいいが、無給より、少なくとも給料の半分を確保できる病気休暇を取得するほうがお得だと思い、会社に病気休暇を申請したら、今度は皆勤手当が没収され、結局出産休暇と病気休暇のどちらを取っても一緒じゃない、というバグが存在して久しいです。
労働法のゲームマスター的な存在としての労働部は、今年こそ当該バグを修正しようと、母体保護の観点に基づき、メーデーという節目に、妊娠3ヶ月未満で流産した女性労働者が会社に病気休暇を取得した場合、会社は当該病気休暇の取得を理由に皆勤手当を不支給にしてはならず、違反したら2万~100万の過料処分が下される、との新規ルールをリリースし、施行日を5月3日にしました。
従って、これから前述の事由により、病気休暇を取得した女性労働者に対しては、会社は皆勤手当を没収できなくなり、「給料の半分をもらえたが、皆勤手当がパーになった」との問題点が修正された形となります。
こちらの法改正により、「病気休暇を取得したら一律に皆勤手当を不支給にする」的な社内ルールを設ける会社は、新しい法律に沿う形で改定していただくことがおすすめです。
その他皆勤手当を引いてはいけない法定休暇
「勤」が欠落したら受領できないとされている皆勤手当なんですが、5/3に施行した新規ルールによって、いわゆる「勤」についての定義を軽く見直さなければならない状況に迫られています。
実は、今回のルールとは別に、取得しても皆勤手当を引き続き受領できる法定休暇はほかにも結構あります。例えば、結婚休暇や忌引休暇、労災休暇、公用休暇(労働者休暇申請規則第9条)がその典型例なんですが、性別就労平等法に定めた生理休暇、出産休暇、育児休業、育児時間、家庭介護休暇などを取得しても、皆勤手当を受領する権利が守られています(性別就労平等法第21条)。
そのほか、会社から予告解雇された労働者に週2日を取得可能な再就職休暇(労働二字第05189号通達)、及び台風の日に会社から出勤を命じられたが、労働者が遅刻したり、出勤を拒否したりする場合においても、会社は対象者への支払いから皆勤手当を差し引いてはいけないともされています(労働2字第0980083610号通達)。
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ちなみに、もともと同じ皆勤手当不支給禁止の仲間であるワクチン接種休暇及び防疫隔離休暇について、新型コロナウイルス感染症が台湾において第4類感染症へ移行することに伴い、2023年5月1日からはそれらを特別扱いにする必要はなく、労働者は必要に応じて、病気休暇を取ったりするなどでワクチンの接種を受けるように、というニュースリリースが台湾の緊急対策本部より4月27日にてなされました。こちらの新規ルールに合わせて、社内規定を改定必要か今一度ご確認していただけます。
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皆勤手当の支給に比例計算はありなのか?
「欠」勤したら皆勤手当なしで、フル「出」勤したら皆勤手当ありだという、仕組み的には単純明快なはずの皆勤手当に、比例計算は関係ないのでは、と考えられがちです。
確かに、いくつか休暇の例外を留意しながら、最低賃金のルール(後述)もしっかり守っておけば、皆勤手当のロジックは基本的には単純明快かもしれません。ただし、それの金額計算にあるなしのコンセプトだけでは物足りず、時と場合によって、「比例計算」をする必要もあったりします。育児休業はその一例です。
7月1日から、もしくは翌年の1月1日から、といった月初からスタートする育児休業であれば、分かりやすくてトラブルになりにくいですが、月中に始まるケースについて、フルで出勤しているわけではないから、皆勤手当なしだ、と判断される傾向があるようです。労働部は、育児を理由とする休業申請は、開始日が月中の場合、当月の皆勤手当は日割り計算にしなければならないと指導しています(労働条4字第1040130878号通達)。こちらも掲題の新規ルールと同じく、「母体保護」の観点に基づいて作られた規定でしょうね。
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最低賃金ルールと連動する皆勤手当についての要注意事項とは?
毎月正社員に支払う賃金は26,400NTD(2023年現在)を下回ってはいけません。しかし、当該正社員が無給の自己都合休暇、もしくは給料の半分がもらえる病気休暇などを取得し、その分給料を差し引くことで総支給額が26,400NTDを下回った場合、その限りではありません。では、こういった無給休暇の取得で、休暇期間の給料とともに皆勤手当を差し引いたら、法的に問題ないかというと、答えは「月給次第」です。
例えば、月給6万NTD(2,000NTDの皆勤手当を含む)の正社員が1日の無給休暇を取れば、会社は、1日分の賃金2,000NTD+皆勤手当2,000NTD=4,000NTDを差し引いて56,000NTD(社会保険料の自己負担などを考慮せず)を当該正社員に支給します。56,000NTDは最低賃金26,400NTDを上回っているため、皆勤手当の不支給は違法になりません。
一方、給27,000NTD(2,000NTDの皆勤手当を含む)の正社員が1日の無給休暇を取れば、会社は、1日分の賃金900NTD+皆勤手当2,000NTD=2,900NTDを差し引いて24,100NTD(社会保険料の自己負担などを考慮せず)を当該正社員に支給します。24,100NTDは、1日の無給休暇に相当する賃金を差し引いた最低賃金25,520NTDを下回っているため、皆勤手当の不支給はNGになってしまいます。
従って、最低賃金に近い水準で社員への月次給与を設定しているようであれば、皆勤手当を不支給にしようとするときに、違法にならないよう計算時に留意が必要です。
今週の学び
5月3日に施行した新規ルールをきっかけに、皆勤手当の計算に関する要注意点をいくつか見てまいりました。
皆勤手当って、なんか面倒くさくない?一層無くしたほうが楽なのでは?
実務的には、皆勤手当の計算で従業員と揉めてしまい、行政からペナルティが下されるケースは多く、正直な話し、相当扱いづらい存在として、大谷選手より敬遠してほしい手当なんです。
社員が休暇を取ったら、それを引けるかどうか休暇別で判断する必要があり、賃金の一部として残業代や社会保険料の計算にも含めなくてはならないという、皆勤手当の取り扱いにとにかく心労がかかっており、社員の勤労精神を育成するというプラス効果が表れる前に、弊害のほうはどうしても目立ってきます。給与形態を見直す機会があれば、皆勤手当制度の存廃について今一度検討していただけるかもしれません。