採用候補者の前職企業への電話調査はNGなのか?リファレンスチェックの実施についての要注意点!
従業員を雇うのは簡単で、労働契約書なしで口頭でも成立します(民法第153条)。
しかし、労働者と雇用関係を解消するのは至難な業で、最後的手段の原則を守り切れない解雇行為は不当解雇と認定される可能性があり、結局現職復帰させなければならなくなります。
そのため、採用時にできるだけの企業努力をして、適性のある労働者を見つけ出すことが重要です。
こういった適性調査でよく取られる方法は、Googleなどで採用候補者のデジタルフットプリントを確認する、というオーソドックスな正攻法(個人情報保護法施行細則第28条)のほか、採用候補者の前職企業へ電話し、在職時の情報を把握したりする手法です。
個人がネットでのデジタルフットプリントは一応公開情報なので、適性調査に活用すること自体、法に触れるリスクはあまり考えられませんが、候補者が前職での様子は一般公開されていない情報だから、別に労基法の違反にはならない適性調査を行うためとはいえ、なんか法律的に引っかかりやすいのでは
との印象を持たれるかもしれません。
台湾においては、上記のようなリファレンスチェック(身元照会)を実施しても違法にならないのか、について考察してみたいと思います。
目次
リファレンスチェックって法的に大丈夫?
結論から言いますと、台湾の労働法においては、労働者の採用でリファレンスチェックを行ってはいけない、という定めがありません。従って、企業は必要に応じてリファレンスチェックを行うことは可能です。しかし、必要最低限のルールを遵守せずにリファレンスチェックを実施してしまうと、当事者から刑事と民事責任を問われる点は気を付けるべきです。
リファレンスチェックの実施における要注意点
リファレンスチェックを実施しようとする前に行う必要があるのは、採用候補者本人からの承諾を取得することです(個人情報保護法第19条)。
人事担当者が本人からの了承を得ずして、無断で前職企業へ連絡し当該個人に関する情報を調査したりする場合は、会社(個人情報保護法第47条)とその責任者ともに5~50万NTDの過料処分が下され(個人情報保護法第50条)、5年以下の懲役と100万NTD以下の罰金という非常に重たい刑事責任が追及される可能性があるとともに(個人情報保護法第41条)、損害賠償責任(個人情報保護法第29条)も問われますので、会社は採用面談時においては、候補者にリファレンスチェックを実施する旨を開示し、チェックしようとする内容と目的しっかりと説明のうえ(個人情報保護法第8条)、同意を求める必要があります。
候補者からの同意を確実に得て、前職企業にコンタクトを取る際においても、当初同候補者に説明した範囲を超えない個人情報しか調査できず、興味本位で同人のゴシップをあれこれ探ったりすると、せっかく得られた同意も台無しとなり、新たな違法リスクが生じてしまいます。
また、会社は候補者本人から了承を得てリファレンスチェックを実施した結果、採用条件を満たしていないと分かり、不採用にする場合は、当該候補者の個人情報を全て削除する義務があります(個人情報保護法第11条)。
候補者が能動的にこういった個人情報を提供してくれたから、会社はそれを無制限に利用する権利があり、わざわざ削除する必要はない!
と考えるのは法律上妥当ではないので、留意しておきましょう。
ちなみに、会社がいわゆる自社内の人材データーベースを構築し、次の求人を行う際に優先候補として検討する目的で、一旦不採用にした候補者の個人情報を保管するという、当該候補者にとってもメリットのある利用目的であっても、予め本人から書面による承諾を取得することが望ましいのです(個人情報保護法第20条)。
リファレンスチェックで聞いてはいけない情報?
「前職企業にコンタクトを取る際においても、当初同候補者に説明した範囲を超えない個人情報しか調査できない」、との説明をさせていただきました。では、具体的にどういった個人情報を調査してはいけないのかについて、法律の定めを以下確認しましょう。
- 生理的情報
- 個人遺伝情報に係る検査に関する情報
- 薬物検査に関する情報
- 医療検査に関する情報
- HIV検査に関する情報
- 知能検査に関する情報
- 指紋情報
- 心理的情報
- 心理テストに関する情報
- ポリグラフ検査に関する情報
- 個人の生活情報
- 信用記録に関する情報
- 犯罪記録に関する情報
- 妊娠計画その他背景調査に関する情報
以上のリファレンスチェック禁止項目はあくまでも原則的な定めであり、募集しようとする職種によって、一部の項目は引き続き調査可能となります。とはいえ、チェック禁止項目とは知らずに、間違ってリファレンスチェックを実施してしまうと、行政罰として6~30万NTDの過料処分が下されるリスクがありますので(就業サービス法第67条)、判断に迷う際には、気軽にマサヒロにご相談ください。
前職企業はリファレンスチェックに協力する義務あるか?
裁判所または公的機関からの協力命令なら仕方がありませんが、他社からリファレンスチェックの打診があっても、必ずしもそれに対応する義務はありません。
もしお互い持ちつ持たれつ的な気持ちで、他社からのリファレンスチェックに協力しようと考えた場合、先方の担当者から質問を受けたら、すぐ真実をありのままで共有するのではなく、むしろ能動的に、「リファレンスチェックについて当人から確かに書面による承諾を取得したのか」をしっかりと先方に確認することです。
前職企業が前述のような確認を行わずに候補者の情報を開示してしまうと、たとえ不正な意図が一切ないにもかかわらず、個人情報保護法を違反する法的責任を免れることはできないかもしれません。そのため、親切のつもりであったとしても、こういった事前確認は絶対必須です。
採用候補者はリファレンスチェックを拒否できるか?
会社がリファレンスチェックを実施できない法律がないのと同じように、候補者がリファレンスチェックの実施を拒否できないルールも定められていません。従って、候補者が面接時に会社から提示を受けた「リファレンスチェック実施可否」の用紙に×を付ける権利はあります。一方、その答えをどのように受け取るかも会社の自由であり、リファレンスチェックを実施できず、候補者が説明した前職に関するパフォーマンスの信憑性をある程度確認できない原因で、不採用にすることも違法ではありません。
今週の学び
台湾の市長や立法委員のように、在職しながら転職活動を行う労働者は少なくありません。そうでない労働者より、オンザジョブのジョブハンティングに従事する労働者はリファレンスチェックを嫌う傾向があります。なぜなら、現職企業が他社からリファレンスチェックの打診を受けたら、〇〇社員が退職する気満々だ、との結論を容易にたどり着くからです。
上記の理由などで、採用候補者からは、リファレンスチェックを行うのを遠慮してくださいとのお願いを受けたにもかかわらず、会社の人事担当者がそれを当人の知らないなかで実施すると、刑事と民事責任を問われるほか、政府から多額の過料を払わされる可能性もありますので、リファレンスチェックを実施する前に、まず一呼吸を置いて、違法リスクのあるなしをきちんと確認しておきましょう。