台湾において社員募集で無犯罪証明書の提出を求めてもよいか?ウヤムヤを徹底解消!

今募集している仕事は、チームワークを非常に重視する業務で、担当者もたまにお金も触ったりするから、万全を期して、無犯罪証明書の提出を求めようと考えているが、台湾の法律では大丈夫なのか?

台湾の労基法においては、労働者に有期懲役を言い渡されたら、会社は予告なしで当該労働者を解雇することができるとの定めがある点から考えると、会社は求人審査の一環として、求職者に無犯罪証明書(または犯罪経歴証明書)の提出を要請することは法律違反にならないと思われるかもしれません。

ただ、法律違反になるかならないかを検討するには、“かもしれません”に留まるのは少々危ないですので、マサヒロとともに、法的根拠を踏まえこちらのウヤムヤを徹底的に解消していきましょう。どうか付き合ってください!

求人募集で労働者に提出を求めてはいけない資料とは?

無犯罪証明書の提出要請が合法的であるかどうかを検証するのに先立って、台湾の法律上、人材募集で求職者に提出してもらってはならない資料をまずチェックしてみましょう。

会社は求職者または従業員の同意を得ずして、同人の身分証、就労許可証その他証明書類を預かったり、募集しようとする業務内容に無関係なプライベート資料の提出を求めたりしてはならない。

以上の法律に出た「プライベート資料」とはどういったものなのか、無犯罪証明書はそれに含まれるかについて、以下の細則は補足してくれます。

  • 生理的情報
    • 個人遺伝情報に係る検査に関する情報
    • 薬物検査に関する情報
    • 医療検査に関する情報
    • HIV検査に関する情報
    • 知能検査に関する情報
    • 指紋情報
  • 心理的情報
    • 心理テストに関する情報
    • ポリグラフ検査に関する情報
  • 個人の生活情報
    • 信用記録に関する情報
    • 犯罪記録に関する情報
    • 妊娠計画その他背景調査に関する情報

上記の細則に定められたNG項目のうち、「犯罪記録に関する情報」がありました。従って、求職者の同意がなく、かつ募集内容とのつながりが認められなかったら、会社は原則として無犯罪証明書の提出を求めてはいけない形となります。もし会社がこちらのルールを無視して、求職者に無犯罪証明書を求めた場合、6~30万の過料処分が下されてしまいます(就業サービス法第67条)。

無犯罪証明書を求めてもNGにならないケースってある?

上記で説明したように、求職者の同意がなく、かつ募集内容とのつながりが認められなかったら、会社は原則として無犯罪証明書の提出を求めてはいけない形となります。ただし、求職者の同意があって、かつ募集内容とのつながりが認められたら、無犯罪証明書の提出を求めても違法にはなりません。

「求職者の同意」なら分かるが、「募集内容とのつながり」は果たして何か?

関連法律の説明では、いわゆる「募集内容とのつながり」とは、経済的な要因または公的利益の確保など特定の目的を達成するのに必要とされる範囲を逸脱しないこと、とされています。しかしこの一文はあまりにも抽象過ぎて、具体的に何を指し示すのか理解に苦しむほうは少なくないかもしれません。

上記の内容を実務的な言葉に翻訳すると、法律で、特定の犯罪行為に及んだ者を雇用してはいけないとの定めがある一部限定される業種に該当すれば、会社は求職者に対して無犯罪証明書の提出を求めることは可能、ということになります。

これら一部限定される業種が以下の要員などを雇用する際に、例外的に無犯罪証明書の提出を義務付けることができるとされています。

無犯罪証明書の提出を要請可能な職業

ちなみに、警備会社ではなく、会社やマンションなどに直接雇用される守衛は上記の警備員に該当せず、会社に勤めるマネージャークラスの管理職も必ずしも会社法上の経理人に該当するとも限らないため、会社がこういった職種の求人を行う際に、無犯罪証明の提出を求めたら違法にならないかについて、ケースバイケース的に判断する必要があります。

無犯罪証明の提出を求めなければ損害賠償責任を追及される?!

今までの考察により、会社が求人募集を行うとき、関連法律によって、特定の犯罪行為に及んだ者を雇用してはいけない、と定められた一部の職種を募集する場合を除き、原則として求職者に無犯罪証明書の提出を求めてはいけないことが分かります。にもかかわらず、実務的には、会社が求職者に無犯罪証明の提出を要求せず、求職者の適性を徹底的に検証しないことで、裁判所から連帯賠償責任を負わなければならないと認定されたケースがあります。

台湾上場企業のG社で副課長を務めたC氏は、G社はスクラップを売却するための一般競争入札を行っており、10万NTDの入札保証金を支払ったら参加可能だ、という偽情報をでっちあげ、興味がありそうな会社に宣伝し、そのうちの数社から入札保証金をもらってから雲隠れしてしまいました。事実を知った被害会社は、雇用主の連帯責任を追及しようと、G社を相手取って損害賠償の訴訟を提起しました。

本件の審理を担当する裁判官は次の理由により、G社はC氏と連帯して本件の賠償責任を負う判断を下しました。

新竹地裁104年度簡上字第114号判決

副課長だったC氏はG社に入社する前、窃盗や文書偽造などの犯罪行為を行い、懲役刑を言い渡されていました。G社は同人を雇用する際に、無犯罪証明の提出を求めてはいけない立場でもなかったのに、それを要求しなかったのみならず、その他同人の適性を検証した事実を証明可能な証拠も提出できなかったため、雇用主としての責任を負わなければなりません。

一方、求職者の無犯罪証明の提出を求めなかったことで会社に不利な判断を下した裁判例は決して多いわけではなく、むしろ無犯罪証明を要求したら、行政の段階でペナルティを食らうリスクが全然大きいことを考えたら、会社は上記の裁判例のみを根拠に、無暗に求職者に無犯罪証明の提出を要請しないようが望ましいかもしれません

犯罪しても無犯罪証明を取得可能って本当?

法律に違反するかどうかはとにかくとして、会社が無犯罪証明を求める目的は、自社が募集するのは、金銭を頻繁に触ったり(経済的な要因)、セキュリティーを重要視されたり(公的利益の確保)する業務内容を担当する社員なので、犯罪行為に及んだことのない求職者を優先しようとする考えによるものかと思います。ただし、無犯罪証明書を取得できるからといって、「前科なし」とも限りません

犯罪経歴があってもなくても、原則としてそれを無犯罪証明書に明記しなければなりません。ただし、以下のいずれかに該当する犯罪経歴は同証明書に記載されないルールとなっています。

  • 一定の要件を満たした少年事件
  • 執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過した場合
  • 拘留または罰金を言い渡された場合
  • 刑の免除を受けた場合
  • 刑の執行の免除を受けた場合
  • 法改正によって刑が廃止された場合
  • 罰金または社会奉仕で罰せられてから5年以内に懲役刑を言い渡されていなかった場合。

以上のように、少年犯罪または軽罪などは無犯罪証明に記載されないことが分かります。つまり、二舎六房の七人は台湾においても無犯罪証明を入手可能というわけです!

また、上記とは別に、犯罪経歴のあるなしとは関係なく、申請しても無犯罪証明を発行してくれない場合もあります。

  • 指名手配されている場合
  • 確定した刑が執行前または執行中の場合

今週の学び

社風をきちんと理解し、将来的には自社を支える必要不可欠な人材として定年まで勤めてくれる求職者をできる限り洗い出そうと、会社はレファレンスチェックを行ったり、資格証明書や成績証明書、あるいは今回の無犯罪証明書の提出を求めたりしています。

採用候補者の前職企業への電話調査はNGなのか?リファレンスチェックの実施についての要注意点!

台湾においては、リファレンスチェック(身元照会)を実施しても違法にならないのか、について考察してみたいと思います。

ネットでの求人広告を確認してみたら、以上で説明した、特定の犯罪行為に及んだらNGとなる職業に該当しないものの、提出必要な書類の欄に、ごく普通に無犯罪証明書が書かれたりしています。確かに、候補者の審査で慎重であればあるほどよいかもしれませんが、慎重さゆえに法律違反となってしまうと、元も子もなくなりますので、バランス感覚を大事にしながら、マサレポで法律知識をわかりやすく吸収のうえ、最高の人材を求めてくことがおすすめです。

マサレポ、今週の学び

  • 原則として求職者に無犯罪証明の提出を求めてはいけませんが、求職者の同意を得て、かつ募集内容とのつながりが認められれば、例外的に可能となります。
  • 一部法律に定めのあった業種は求職者に無犯罪証明の提出を求めてもNGにならないが、自社のケースがそれらに該当するかは感覚任せで判断するのが危険。
  • 少年事件や軽罪に及んだ場合でも無犯罪証明書を取得可能。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年6月6日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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