労働者さえ同意すれば、無限ループ的に有期雇用契約を結び続けるものなのか?!台湾における有期雇用契約を正しく運用するための質問7選!

無期雇用契約で従業員を雇う場合、会社都合であれ個人の問題であれ、いざ解雇を実施しようとすれば、会社は各種手当を含んで計算した解雇手当を支払わなければならないし、支払ったからと言って、解雇された元従業員が労働当局にタレこんだり、裁判所に訴えたりして、かつ不当解雇と認定されれば、元従業員が再び従業員の資格を取り戻します。いくら気を付けても、違法リスクがストーカーのように付きまといます。

脅威、不当解雇の逆襲!

企業のオーナー又は管理職をやっていたら、多かれ少なかれ、「従業員の解雇」を経験したことがあると思われます。解雇に至るまでは、多種多様な会社都合、又は対象となる…

それに対して、有期雇用契約で雇用した従業員は、たとえ会社との相性がよくなくても、雇用期間終了後は互い気持ちよくさよならバイバイだけであり、もしパフォーマンスが全社一致高評価であれば、契約を延長したら人材を引き留められるので、会社側にとって申し分のない人事管理制度と言えましょう。にもかかわらず、有期雇用契約は実務上それほど活用されていないようです。

台湾において、会社にとって百利あって一害なしに見える有期雇用契約の考え方や実施要件など、気になる留意点を本マサレポで一括に解説します!

①台湾において有期雇用契約は無条件で実施できるか?

面接のみでは求職者の能力を見極めないので、先に有期雇用契約で雇用し、本当によいパフォーマンスを見せてくれれば、本格的に無期雇用を実施しようと考えている。有期雇用の制度は果たして無条件に導入できるものなのか?

有期雇用の実施には、台湾の労働法上結構厳しい要件が定められており、それらの要件をクリアしておかないと、有期雇用制度の運用は認められません。先に労働者と有期雇用契約を交わして雇用し、その後法的要件を満たしていないことで、有期雇用の実施が違法であると労働当局から認定されたら、当該有期雇用契約が強制的に無期雇用契約にレベルアップされる可能性があるので、気を付ける必要があります。

有期雇用契約で労働者を合法的に雇用するためには、会社が労働者に従事させる業務に、以下台湾の労働法が定めたいずれかの性質を有さなければなりません。

  • 臨時的な業務
    • 予定外かつ継続性のない業務で、契約期間が6ヶ月以内。
  • 短期的な業務
    • 継続性のない業務で、契約期間が6ヶ月以内。
  • 季節的な業務
    • 季節の原材料の供給、又は市場の需要による影響を受ける継続性のない業務で、契約期間が9ヶ月以内。
  • 特定的な業務
    • 一定の期間で終了する継続性のない業務。契約期間が1年超の場合、主務機関への届け出が必要。

最初の吹き出しに出た質問で、「新入社員の能力を見極めるための有期雇用」というのは、前述いずれかの法的要件にも該当しないため、ほぼほぼNGとなりましょう。

②「継続性のない業務」とはどんな業務?

今の生産ラインはいつまで続くか見込められない。だから募集する現場作業員にやらせる業務は「継続性のない業務」に該当するっていいよね?

台湾の労働法上は、「継続性」という単語に関する定義がなされていないため、いろんな解釈ができるのではと考えられるが、実務的には、労働当局及び裁判所が出した以下の見解が根拠にされる現状です。

労働当局の見解では、いわゆる「継続性のない業務」とは、会社が意図的に継続して行うとある経済活動に必要とされる関連業務に該当しない業務とされます。分かりやすくいうと、もし社内の某職務の担当に、無期労働者と有期労働者が同時に存在した場合、当該職務は「継続性のない業務」に該当しない形となります(台労資二字第0011362号通達)。

また、裁判所では、会社側にとってそれが日常的に行われ、かつ毎年繰り返されている作業内容ではない、単発又は一時的な業務であったら、「継続性のない業務」に該当する、との見解が示されました(高裁110年度労上字第1号民事判決)。つまり、単純な事務作業であったとしても、それがある会社にとっては過去から途切れなく続いてきた業務であれば、「継続性のある業務」に該当し、当該業務の担当者と有期雇用契約を交わしてはいけない形とされます。

③季節ごとに受注が激しく増減するメーカーは有期雇用契約を利用可能か?

うちのような製造メーカーは、繁忙期と閑散期によって受注が結構変わるので、繁忙期に期間限定の季節雇用を行ってもよいか?

台湾一部の製造業にとって、猫の手も借りたくなる繁忙期に、有期雇用契約で季節労働者を雇い入れようとすることは当たり前のことで、繁忙期に増えた業務はまさに「季節的な業務」に該当するからといいます。実は、このような解釈はNGです

台湾の労働法における「季節的な業務」というのは、「季節の原材料の供給、又は市場の需要による影響を受ける継続性のない業務」であると前述したとおりですが、具体的に例示すると、例えば一部の果物や野菜は、決まった期間に採取、加工しないと、鮮度が落ちたり、あるいは腐ったりするので、当該期間に労働力を集中的に投下しなければビジネスとして成立しなくなる、のような事業に従事する会社であれば、有期雇用契約で労働者を雇用し「季節的な業務」に協力してもらうことは可能です。

一方、決まった期間に採取、加工しないと、鮮度が落ちたり、あるいは腐ったりする果物や野菜をもって、調理食品やジュースなどを生産する事業の場合、調理食品やジュースに加工された果物や野菜は取れたての状態とは違い、長期保存が可能となり、会社は必要に応じて労働力を調整することが可能のため、「季節的な業務」を主張し有期雇用契約で労働者を雇用することは認められません(台労資二字第013495号通達)。

上記により、繁忙期と閑散期の調整だけを理由に、有期雇用契約の導入を主張することは、原則として違法となります

④長期休みに入った社員がいれば、有期労働者を雇用可能か?

うち、長期休業を申請する社員がいて、その穴を埋めるための有期労働者を雇用したいんだが、法律に違反するリスクないか?

社員が長期休業を申請した場合、当人の担当業務を通常とおり継続させていくためには、休業期間中の代理人を立てなければなりません。社外から有期労働者を募集し、当該業務を当たらせようとしたら、臨時的な業務、短期的な業務、季節的な業務、または特定的な業務のどちらに該当するか、どうもはっきりしたいので、そのまま有期労働者を起用したら、労働当局から違法認定されるのでは、という心配が持たれたりするかもしれません。

労働当局が2002年に出した通達によると、従業員が性別就業平等法に基づき、会社に育児休業を申請した場合、育児休業に入った従業員の代理人として雇用する労働者とは、有期雇用契約を締結することは可能であるとされています(労働二字第0910017954)。

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⑤有期雇用契約を当局に届け出る義務があるって本当?

となりの工場から聞いた話では、有期労働者と契約するたびに当局に報告しなければならず、報告しなかった場合、契約が無効にされるという。それが本当なのか?

台湾労働法の定めでは、継続性のない期間限定の業務を実施する目的で、有期労働者を雇用し、かつ雇用期間が1年超となった場合は、労働当局に届け出なければならないとされます(労働基準法施行細則第6条)。従って、有期雇用の契約期間が1年を超えた場合のみ、当局への報告義務が発生するわけで、1年以内の有期雇用契約は、原則として報告不要となっています。

また、契約期間が1年超の有期労働者を雇用したけど、報告義務をうっかり失念した場合であっても、当該有期雇用契約はそれによって法的効力が失われたわけではなく、有期労働者との契約関係を継続していくことができます(台労資二字第001585号通達)。

⑥契約満了日を待たずして、定期労働者を解雇できるか?

うちがやっている工事は予定より早めに仕上げたので、そのために雇った定期労働者はやることがなくなった。定期契約はまだ期間が残っているけど、早期に解雇を実施してもよいか?

台湾の労働法においては、有期労働者と無期労働者にそれぞれ異なるルールが適用される指導がなされていません。従って、契約期間まだ終了していないにもかかわらず、有期労働者を早期に解雇しようとする場合には、会社は労働法に定めた解雇の要件を満たしているかを予め検証する必要があるとともに、解雇手当も追加で支払わなければなりません労資二字第0920070419号通達)。

逆のパターンとして、有期労働者は自己都合などで、会社との有期雇用契約の期間満了日を待たずして退職を申し出た場合は、無期労働者と同じく、会社はそれを拒否する権利はありません。しかしながら、当人との有期雇用契約に、早期解約に関する違約金の支払い義務が明記されたら、会社はそれを根拠に有期労働者に違約金を請求可能となります。

雇用契約書の作成/改訂代行

互いの気心が知れて、従業員の入社から定年退職までずっと良好かつ健全な労使関係を築けたら、わざわざ契約書を作って互いの関係をガチガチにする必要がないかもしれませ…

⑦労働者さえ同意すれば、無限ループ的に有期雇用契約を結び続けるものなのか?

台湾では、期間が1年の有期雇用契約を年1回更新する形で従業員を雇用し続ける方法が活用されていると噂で聞いたが、それは法的に問題ないのか?

確かに、年間契約をほぼ無限ループ的に更新し続けて社員を雇用するケースはたまに聞きます。ただし、このような運用は、一部の公務員や代理教員などを雇用する場合のみ法的に認められる方法であり、労働法が適用される会社と労働者との契約関係では、1年有効の有期雇用契約を何回も更新するやり方は原則としてNGとされます

有期雇用契約の期間満了後、次のいずれかの事由に該当した場合、無期雇用契約とみなす。

  • 有期労働者が継続して就業しているが、会社はただちにそれに対して反対の意志を表明しなかった場合
  • 有期労働者とは別途有期雇用契約を交わしたが、更新前と更新後の有期雇用契約の契約期間はいずれも90日超、かつ前契約の満了日から後契約の発効日までの空白期間が30日を超えない場合

ただし、もし有期労働者に当たらせるのが季節的な業務、または特定的な業務に該当する場合は、上記のルールは適用されない、という例外も設けられています。

では、「労働者さえ同意すれば、無限ループ的に有期雇用契約を結び続けるものなのか」という質問について、上記の法律に照らし合わせると、何回も更新し続ける有期雇用契約は、それぞれの契約期間は明らかに90日を超えており、契約と契約の間にも一切空白期間がないため、たとえ労働者が同意したとしても、違法性がそれによって阻却されるわけではありません。ですから、労働法が適用される前提においては、無限ループする有期雇用契約は、法的に認められません

今週の学び

人事管理の観点から、有期雇用契約は会社にとって比較的有利な制度となっています。それゆえに、それの実施要件は法律上厳しく定められています。確かに、無限ループする有期雇用契約を安易に許してしまうと、労働者がどれだけ一生懸命働いても、有給休暇がずっともらえないし、来年になったら契約を引き続き更新してもらえるかはらはらし続けるしかなくなってしまいます。

そのため、有期雇用契約を本格的に導入しようとする前に、一呼吸を置いて、それを実施するための法的要件を本当にクリアしているかじっくり精査し、判断が難しい場合、迷わずマサヒロに相談してみましょう

マサレポ、今週の学び

  • 臨時的、短期的、季節的、又は特定的な業務を実施する場合のみ、有期労働者を雇用可能だが、それぞれの業務を文字とおりに解釈するのは危険。
  • 同じ業務を、有期労働者と無期労働者を両方同時に担当者として起用したら、「継続性のない業務」とみなされる可能性がある。
  • 繁忙期と閑散期の調整だけを理由に、有期雇用契約を導入するのはNG。
  • 従業員が育児休業中を申請したら、同従業員の代理人として有期労働者を起用可能。
  • 期間が1年超の有期雇用契約は当局への届け出義務あり。
  • 特定の要件を満たした場合を除き、契約と契約の間の空白期間が90日を超えたら、無期雇用契約とみなされる。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年11月13日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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