新生ジェンダー平等促進法が国会を通過!会社にとっての要注意点を一度にアップデート!

6月初頭から相次いで起きているMeToo事件がきっかけで、現状の性別就業平等法、性別平等教育法、セクシャルハラスメント防止法、いわゆるジェンダー平等三本の法律は、被害者を守る観点においては、若干物足りないことが明らかとなりました。被害事実を告発してくれた人たちの勇気へのエールとともに、少しでも類似事件を無くそうと、前述した三本の法律は信じられないほどの速さで見直されています。

そして、7月31日の月曜日に、新生・ジェンダー平等促進法の三本の法律が台湾の立法院(国会に相当)を通過し可決されました。今回の法改正において、過料を100万NTDに引き上げられたのと、加害者に対する刑事罰を懲役3年に処せるほか、行政の介入権の拡大、及び雇用者数30名未満の中小企業に対するコンプライアンス強化の要求など、規制強化の方向でだいぶパワーアップされたイメージです。

会社の規模が小さいので、今までセクハラ防止義務は特に気にしていない、もしくは社内で被害の報告が一度もなく、関連事件への対応手続を全く用意していない事業者にとっては、今回の法改正の影響はそこそこ大きいものかと思います。いざ事件が起きてしまうとき、最新の法律が不明瞭のせいで、何もかも後手後手に回ってしまわないよう、新生ジェンダー平等促進法のなかで、会社にとって比較的重要性の高い「性別平等就業法」にフォーカスして、知っておくべき注意点を以下解説します。お手すきの際にでも、軽くアップデートしていただけたら幸甚です。

法律名が一新

職場におけるジェンダー平等の意識を高める目的で、「両性就業平等法」という法律が、2002年初に華麗なるデビューを飾りました。その後、両性という用語だけでは、全てのジェンダーを網羅しきれない事実が判明し、2008年に「性別就業平等法」にトランスフォーメーションして、現在に至っています。

そして、今回の法改正で、なんか翻訳間違ってない?と突っ込みたい気持ちを抑えるだけで精一杯の「性別就業平等」という表現を、「性別平等」の意識を思い切り前面に出せる「性別平等就業」に改めました。なので、これからは「性別平等就業法」で称してあげてくださいね。

優越的な関係を背景としたセクハラ行為

改正前の法律は、セクハラ加害者が上司である状況を取り上げて定義づけることはなかったが、加害者が同僚又は部下のケースと比べたら、職務上の地位が上位の者によるセクハラは、被害者が抵抗又は拒絶できない可能性が明らかに高いため、それを法律において可視化にすることで、関連被害を抑える効果を高めようとする意思表示として、改正後の法律において、「優越的な関係を背景としたセクハラ」についての定義づけはなされました(性別平等就業法第12条)。

就業時間外のセクハラ行為

今までの法律だと、労働者が定時後にセクハラ被害を受けたら、それが「職場におけるセクシャルハラスメント」に該当するかどうかの認定はあやふやで、会社がそれに対して能動的に必要な措置を取る必要があるかの法的根拠が乏しかったです。

上記の不備を補う形で、以下いずれかの条件に合致したら、「職場におけるセクシャルハラスメント」に該当し、会社は責任をもって、迅速かつ適切な対応を取らなくてはならない、との規定を法改正に盛り込まれました。

職場におけるセクシャルハラスメント該当する就業時間外のセクハラ行為

  • 労働者は就業時間外に、勤め先の同一人物から継続的にセクハラを受け続けた場合
  • 労働者は就業時間外に、取引先の同一人物から継続的にセクハラを受け続けた場合
  • 労働者は就業時間外に、勤め先の最高責任者又は使用者からセクハラを受けた場合

上記によって、仕事と強い因果関係が認められるセクハラ事件であれば、会社はそれらを事前に防止し、事後対応を取る義務が生じたる形となります(性別平等就業法第12条)。

最高責任者の定義と罰則

改正性別平等就業法において、「優越的な関係を背景としたセクハラ行為」に対する取り締まりが強化されたことは前述のとおりでした。そして、会社で一番優越的な地位を有する最高責任者に関する定義も、以下のように新たに付け加えられました(性別平等就業法第12条)。

最高責任者に該当する者

  • 機関の長
  • 学校の校長
  • 軍隊における大佐以上の階級の者
  • 行政法人の董事長(代表取締役)
  • 公的法人の董事長(代表取締役)又は理事主席その他地位が相当な者
  • 法人などの代表者その他地位が相当な者

被害者は、優越的な関係を背景としたセクハラ行為を行った者に対して、損害賠償額の3倍に相当する懲罰的賠償金を請求できるが、前述の加害者が最高責任者であったら、被害者が請求可能な懲罰的賠償金は損害賠償額の5倍にされます(性別平等就業法第27条)。

なお、以上の定義に当てはまる最高責任者に、セクハラ行為があったと主務機関に認められたとき、加害の程度が軽微で、かつ被害者に謝罪して許しを得られた場合を除き、1~100万NTDの過料処分が下されます(性別平等就業法第38条の2)。

雇用者数が10~29名の会社

改正前の法律は、雇用者数が30名以上の会社のみセクハラ防止措置を取る義務があるとされていました。よくよく考えれば、セクハラは雇用者数が30名未満の会社で起きないわけでもないのに、何故法律は30名以上の会社だけターゲットにしてきたのかは理解に苦しみます。

台湾#MeToo事件相次ぐ!貴社が築いたセクハラ防壁は大丈夫?!

社員をセクハラ被害から守り、会社を当局のペナルティから守る観点で、本マサレポを参考に、自社内のセクハラ防止に関するセーフティネットを強化していきましょう!

このバグを補完する形で、今回の法改正で、雇用者数が10~29名の会社に対して、社内のセクハラ相談窓口を開設し、事業所の見えやすい場所にそれを掲示することを義務付けました(性別平等就業法第13条)。もし雇用者数が10~29名の会社は前述の義務を守らず、主務機関からの勧告も無視したら、1~10万NTDの過料処分が下されます(性別平等就業法第38条の1)。

事業者が取るべき対応措置

今までの法律では、社内でセクハラが起きたことを事業者が知っていたら、ただちに適宜な対処措置を講じなければならない、という大雑把なルールしか定められていないが、改正後の法律は、事業者が具体的に何をどうすればよいのかを、以下のような、比較的分かりやすい形で示されており、それらに違反した過料は2~100万NTDとされます(性別平等就業法第38条の1)。

セクハラ防止措置!?なにそれ?

会社側ではセクハラ防止措置を定め、それを可視化にしたうえ社内掲示する義務があるほか、自社内に相談ホットラインを設置し相談役を指定する、セクハラ事件の当事者から…

性別平等就業法第13条

  • 事業者は、被害相談を受けてセクハラが起きたことを知ったとき、以下のように対処しなければならない。
    • 二次被害防止措置をとること
    • 相談者に心理カウンセリングや治療その他必要とされるメディカルサービスを提供すること
    • セクハラの事実関係を調査すること
    • 加害者に適切な懲戒処分を下すこと
  • 事業者は、被害相談を受けずしてセクハラが起きたことを知ったとき、以下のように対処しなければならない。
    • セクハラの事実関係を調査すること
    • 関連者の仕事内容又は就労場所を適宜変更すること
    • 被害者の希望により、心理カウンセリングや治療その他必要とされるメディカルサービスを提供すること

なお、セクハラ事件を対処する間においては、事業者は以下の定めを遵守しなければならないともされています。

性別平等就業法第13条

  • 事実関係を調査するとき、当事者に自分の意見を述べるのに十分な時間を与えるとともに、事件調査の担当者にジェンダー意識を持つプロフェッショナルを置かなければならない。
  • 被害相談を受けた後、ただちに現地の主務機関に報告し、事件が一段落したら結果を主務機関に報告しなければならない。

一時職務停止又は解雇処分を下す権利

改正後の法律では、会社はセクハラの加害者にどういった懲戒処分を下せるかについて、以下のルールが追加されました。

性別平等就業法第13条の1

  • 加害疑惑が持たれるのは、職務上の地位がそこそこ高い人物で、かつセクハラ被害の程度が重大であれば、事業者は一時的に当人の職務を停止することができるが、調査の結果、セクハラがあったとは認められなかった場合は、職務停止期間の給料を追加で当人に支給しなければならない。
  • 事業者又は主務機関の調査で、セクハラが成立し、かつ被害の程度が重大であることが分かれば、事業者は調査結果が出た日から30日以内に、加害者を懲戒解雇することができる。

会社を飛ばして行政に通報できる権利

セクハラの被害を受けたら、被害者は先に社内の相談窓口に相談することが原則とされたが、改正後の法律では、加害疑惑が持たれるのは会社の最高責任者であれば、セクハラの被害者は社内の相談窓口を飛ばして、所在地の主務機関に直接相談できるようになり、事業者の調査結果に不服の場合でも主務機関に不服申し立てを行うことも可能であるとされます。

なお、主務機関への通報には、以下の消滅時効の期間が適用されます。

性別平等就業法第32条の1

  • 加害疑惑が持たれる者は職務上の地位が上位の者に該当しない場合、被害者がセクハラ行為を知ってから2年が経過し、もしくはセクハラ行為が終了して5年が経過したら、主務機関は当該セクハラ相談を受理しない。
  • 加害疑惑が持たれる者は職務上の地位が上位の者に該当する場合、被害者がセクハラ行為を知ってから3年が経過し、もしくはセクハラ行為が終了して7年が経過したら、主務機関は当該セクハラ相談を受理しない。
  • セクハラ事件が起きたときに被害者が未成年者の場合、成年して3年が経過したら、主務機関は当該セクハラ相談を受理しない。
  • 加害疑惑が持たれる者は会社の最高責任者又は使用者であった場合、被害者が退職して1年が経過し、もしくはセクハラ行為が終了して10年が経過したら、主務機関は当該セクハラ相談を受理しない。

事業者の調査協力義務

これも今回の法改正で新たに追加されたルールです。セクハラの被害者が主務機関に直訴したら、会社は以下の協力義務を果たさなければならないとされます。

性別平等就業法第32条の2

  • 主務機関がセクハラ事件を調査するのに必要とされる情報又は資料を、事業者が提供しなければならず、理由なく当該協力義務を果たさなかった事業者に1~5万NTDの過料処分が下される(性別平等就業法第38条の2)。
  • 調査の結果で、セクハラが成立し、もしくは事業者が行った対応が不適切だと認められたら、主務機関は所定期間内に必要な対処措置を取るよう事業者に命じるとともに、2~100万の過料処分を下すことができる(性別平等就業法第38条の1)。
  • 主務機関が調査手続を行う期間において、被害者は事業者に対して、会社が調査結果の通知を受けて30日が経過するまでの間における配置転換又は一時休業を申請することができる。セクハラの事実があったと調査で分かった場合、事業者は一時休業期間中の給料を追加で被害者に支給しなければならない。もし事業者が前述の定めを守らなければ、1~5万NTDの過料処分が下される(性別平等就業法第38条の1)。

被害者の個人情報の保護

改正前の性別平等就業法は、被害者の個人情報への配慮が欠けていたが、改正後のバージョンは、当該ウィークポイントがしっかりとケアされています。

例えば、二次被害を避ける目的で、マスメディアその他業務上の関係で被害者を特定可能な資料を閲覧できる者は、被害者の個人情報を厳重に保管しなければならず、それを漏洩したりする場合は、高額の過料が用意されている、という改正セクシャルハラスメント防止法に追加された秘密厳守義務は、性別平等就業法にもそのまま適用されます(性別平等就業法第38条の4)。

今週の学び

MeToo事件の噴出に伴い、ジェンダー平等三本の法律は怒涛の勢いで改正されました。一部の条項を除き、改正後の新規ルールは2024年3月8日に施行するため、この過渡期を活用し、新規ルールに合わせる形で、丁寧に社内規程を改定することがおすすめです。どこをどのように改定したらよいか迷うとき、是非気軽にマサヒロへお声掛けください。

マサレポ、今週の学び

  • 優越的な関係を背景としたセクハラ行為への厳罰化がなされ、特に加害者が最高責任者に該当する場合の罰則が厳しいです。
  • 会社は就業時間外のセクハラ行為に対しても防止義務があると定められるため、社内のセクハラ防止措置がカバーできる範囲を取引先に拡大する必要があります。
  • 関係者の仕事内容又は就労場所を適宜変更することや、被害者の希望により、心理カウンセリングや治療その他必要とされるメディカルサービスを提供するなど、事業者が取るべき対応措置は以前よりはっきりとされました。
  • セクハラを受けた社員は、会社を飛ばして行政に通報する権利が付与されるので、確実に社員を被害から守れるセクハラ防止措置を作り直す検討が必要です。
  • 会社に、加害者に対する一時職務停止又は解雇処分を下す権利が与えられるので、必要に応じて行使しましょう。
  • 二次被害を発生させないよう、会社は被害者の個人情報を守ることに努めなければなりません。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年8月4日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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