今までの年末賞与は、10万台湾ドル前後の額をずっともらってきたのに、今年になって何ら通知もなしに1万台湾ドルに減額されました。それって違法じゃない?

年末賞与の支払いは義務なの?

タイトルの質問について、結論をズバリ申し上げますと、違法と言えば違法で​あり、違法でないと言えば違法でない、という一言に尽きます。

言っている意味が分かりません!そもそも、社員の同意が得られない限り、会社が一方的に年末賞与の支払額を調整したりしてはいけないのではありませんか。

台湾の労働基準法によると、会社が一方的に支払額を調整できないのは「賃金」であると定められています。一方、タイトルの年末賞与は、必ずしも「賃金」に該当するとは限らず、会社が任意に調整できる「恩恵的給付」に該当する可能性もあります。

賃金の定義

賃金について、労働基準法では次のように定義しています。

「労働の対価として、労働者に支払われる報酬を言い、賃金、給料又は1時間、1日、1ヵ月単位若しくは出来高によって算定される現金若しくは現物等でもって支給される賞与、手当その他名称に関わらず、経常的に支払われるすべてのものを含む。」

労働基準法第2条第3号

賃金を定義づけるには、支払名目は重要でなく、「労働の対価として支払われる」及び「経常的に支払われる」であるかどうかを、事実に基づき判断する必要があります。「労働の対価として支払われる」及び「経常的に支払われる」の性質をともに有するのであれば、原則として賃金に該当します。

上記の原則に基づき、とある給付が賃金に該当すると判断した場合は、社員の同意を得ない限り、会社が一方的に支払額を任意に調整したり、決算成績が芳しい等を理由に、支払いを止めたり減額したりすることができません。社員には、会社に対して当該支払いを請求する権利を有しています。

恩恵的給付の定義

恩恵的給付には、どういった類のものが含まれるかについて、労働基準法施行細則の関連内容をチェックしてみましょう。

本法第2条第3号に定めのあった「その他名称に関わらず、経常的に支払われるすべてのもの」とは、次の各号以外のものを指す。
 1.特別配当金。
 2.賞与。年末賞与、各種競技の賞金、研究発明賞与、特別功労賞与、永年勤続賞与、燃料消耗品節約賞与及びその他非経常性の賞与を指す。(以下略)

労働基準法施行細則第10条

「経常的に支払われていない」特別配当金や賞与等はまさに恩恵的給付に該当し、会社は一方的に当該支払額を調整する権利を有しており、社員はそれの支払請求ができません。

社員が会社に対して、特定金額の年末賞与の支払いを請求できる法的根拠

では、会社に対して年末賞与の支払請求を絶対できないかというと、もし会社が労働契約書、就業規則にて、特定金額の年末賞与の支払いを保証したら、会社側に支払義務が生じる形となります。

ただし、上記の支払保証がなされたとは言え、会社は無条件に支払わなければならないというわけではなく、保証の内容を総合的に吟味し、年末賞与が有する性質を判断する必要があります。もし保証した内容で、年末賞与に「労働の対価として支払われる」及び「経常的に支払われる」といった性質が付与された場合は、当該年末賞与は「賃金」に該当したため、会社側には支払義務が発生してきます。それに引き換え、保証した内容で、年末賞与に「労働の対価として支払われる」及び「経常的に支払われる」といった性質が付与されておらず、「恩恵的給付」に該当すると判断できた場合は、会社側には支払義務が発生しません。つまり、支払名目が年末賞与であっても、支払条件、支払基準といった設定の違いによって、年末賞与が「賃金」に該当したり(会社側に支払義務あり)、「恩恵的給付」に該当したり(会社側に支払義務なし)する場合があります。以下事例を取り上げて分析を行います。

ケースその1

会社は社員との労働契約書にて、毎年14か月分の給料を支払うことを約束し、そのうちの2か月分を年末賞与の名目で、毎年固定して旧正月の前に支払います。当該年末賞与は、「労働の対価として支払われる」及び「経常的に支払われる」といった性質が付与され、「賃金」に該当するため、社員は会社に対して支払い請求を行うことができます。(台湾台北地方裁判所92年度労簡上字16号民事判決)

ケースその2

会社は社員に対して、決まった年末賞与の支払額を約束しておらず、年末賞与支払いの有無及び支払い額は、会社年次決算の結果をもって決定する方法をとっています。つまり、年末賞与は毎年、会社の利益状況、マネジメント層の個人的判断によって支払額が変動し(労働の対価と無関係)、支払う主な目的は社員への奨励、優れた人材を定着させるためにあります。当該年末賞与には、「労働の対価として支払われる」及び「経常的に支払われる」といった性質を認められにくく、「恩恵的給付」の類に属します。「賃金」に該当しないため、社員は会社に対して、年末賞与の支払い請求を行う権利がありません。(台北市政府労働局労働基準科2012年12月28日付発行したニューズレター)

ケースその3

会社は、年末賞与を支払うかは、社員が与えられた業績、ノルマを達成したかをもって決定する場合、当該年末賞与に「労働の対価として支払われる」の性質を有するものと認められます。(行政院労工委員会87年8月20日台87労働2字第035198号通達)ただし、特別な要因が突然起きたことによって、特定な1年のみ、過年度になかった業績又はノルマ設定を年末賞与の支払基準に導入した場合は、「経常に」との性質を有さないため、当該年末賞与が「賃金」に該当せず、社員は会社に対して支払請求を行ってはいけない形となっています。

以上のケースからは、会社から支払を受ける年末賞与が、賃金又は恩恵的給付のどちらに該当するかのおおよその見当がつきましたか。やはり判断が難しいようでしたら、以下の設問をもって検証を試みてください。

Check!

  • 会社は社員との労働契約書にて、年末賞与の支払額を約束しましたか。
  • 会社は就業規則にて、年末賞与の支払基準を定めましたか。
  • 会社は如何なる場面において、決まった(又は過年度通りの)基準で年末賞与を支払うと口頭約束しましたか。
  • 会社が作成した、年末賞与への言及があった人事規程は、今まで社員へ周知されたことありますか。

上記はYesかNoではっきりと答えられる設問であり、それによって対象年末賞与が有する性質を大体把握できたかもしれませんが、実務上、労働契約書や就業規則等の文書に年末賞与への言及があったものの、実際の書き方によって、いざ賃金か恩恵的給付かを定義づけようと思ったら結構迷ったりする場合も少なくありません。年末賞与の過少支払による労使紛争又は労働裁判を効率よく回避するよう、予め外部の専門家と相談なさることがお勧めです。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年11月13日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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