定年後の再雇用に、労工保険と退職金の積立対象になる?

エスカレートしていく少子高齢化の関係で、若年層社員の募集が以前より厳しくなっており、人手不足状態を何とか解消しようと、再就職意欲があって、なおかつかけがえのない専門分野での経験やプロフェッショナルを合わせて持っている定年後の方々の力を借りたくなるものです。そのため、一旦自社又は他社から定年退職したベテラン社員を雇い入れる傾向が顕著になりつつあります。定年後の方々を雇用するには、通常雇用とは違って、労工保険と退職金の積み立てなど法定義務がなく、雇用コストが非常に低いであると、都市伝説のように一部ではささやかれています。正しい姿が果たしてなんなのかについて、マサヒロとともに検証していきましょう!

労工保険の種類について

定年後社員に労工保険を掛ける必要性があるかどうかを検証する前に、まず労工保険の種類について簡単に紹介しましょう。

一口「労工保険」といっても、そもそも性質的に労工保険と異なる「就業保険」があって、 労工保険自体も「普通事故保険」と「職業災害保険」に分けられます。定年でもらえる老齢年金は「普通事故保険」の加入によるもので、最近結構話題に上がる育児休業時にもらえる公的給付金は「就業保険」の加入による効果です。こちら三つの保険が合わせたら一般的に認識される「労工保険」になります。

労工保険加入可能な範囲とは?

保険関連のルールでは、老齢年金又は一時金を受領済みであったり、65才超でその他保険基金からの老齢給付を受けたご年配の方を、社員として雇用しようとする場合には、原則として前述した労工保険と就業保険を加入させてはいけないとされています。しかしながら、高齢者従業員はその他社員と同じく労災リスクに晒されることを考慮し、職場安全において分け隔てなく全従業員を平等に守るべしとの観点で、当局からは特別に、保険料が会社持ちで、対象者となる高齢者従業員を、労工保険のうちの職業災害保険に加入させることを可能にしました。会社は低額な労災保険料を月次払うことによって、不幸にも労災事故に遭った高齢者従業員が出てきましたら、政府からは労災給付が出るわけなので、会社側の労災補償責任が一定程度軽くなるという大きなメリットを享受することができます。ここで一つ要留意なのは、定年後社員を加入させることができる公的保険の種類は、あくまでも職業災害保険のみで、老齢年金がもらえる普通事故保険や失業給付が出る就業保険は今まで同様、加入不可となっている点です。

2022年5月1日からの変更点に要注目!

上記にて話しのありました職業災害保険の加入は、あくまでも「任意」という類のもので、労災補償の効果が得られるその他民間保険を用意したり、一切保険を加入させず有事の際にだけ会社が全額補償したりする体制をとっても違法にはなりません。しかし、来年、2022年5月1日になってからはルール変更となります。

今年、2021年4月23日に台湾の立法院に三読可決され、同月30日総統によって公布された「労工職業災害保険及び保護法」は、翌年の2022年5月1日にて正式に施行されます。同法においては、雇用者数要件及び加入年齢の制限が緩和され、従業員が65才超であるかどうか、老齢年金又は一時金の給付を受けたかどうかは関係なく、社員として法人格を有する会社又は個人事業主に雇用されたら、職業災害保険の強制加入対象とされています。

また、従業員を職業災害保険に加入させるタイミングは、入社日当日と定められ、たとえ会社がうっかり加入手続を忘れ加入日が遅くなったり、故意に保険加入させなかったりとしても、まだ保険に入っていない期間中に従業員が労災事故に遭ったら、当局に対して引き続き労災給付の申請が可能であるという、従業員への補償は一層パワーアップとなる恰好です!ただし、ルール通り入社日にて、対象社員を職業災害保険に加入させない会社に対しては、重たいペナルティと損害賠償責任の追及は当局からなされてしまいますので、しっかりと気を付けておきましょう。

退職金の積み立てを忘れずに!

定年後の再雇用を実施しようとする場合には、職業災害保険の加入のほか、もう1点留意しなければならないのは退職金の積み立てです。こちら、退職金の積み立てルールは、以上話しました労工保険についての加入制限、つまり老齢年金又は一時金を受領済みであったり、65才超でその他保険基金からの老齢給付を受けたりするかどうかにかかわらず、雇用先が労働基準法が規定する会社又は個人事業主であれば、退職金の積み立てが義務付けられる形となります。また、積み立て率はその他社員と一緒で、月次賃金(※基本給ではない点に要注意!)の6%を下回らない前提で会社が任意に決定できるものとし(労工退職金条例第14条第1項)、一度退職金を受領したら勿論のこと、今までの積立金がリセットされ定年後の再雇用に伴い0元からの積み立てとなります。1点のみ相違点がありまして、定年後再就職した従業員には、その他従業員とは違い、退職金を受領可能な定年要件は既に関係なくなるため、規定上は年に1回会社が積み立てしてくれる退職金を受領できる権利を有するという、配当金と同じように年に1回もらえる嬉しい特典が用意されています。(労工退職金条例第24-1条)

退職金積み立てしないことへの罰則

一方、定年後再就職した従業員からの申し入れがあって、再雇用さえしてくれて月次ベースで給料がもらえたら、退職金は要らない、という風なお願いを受け入れて、そのとおり実施する会社さんが少なからずあります。地方労工局から何も労働検査をされることなく、社員からのタレコミも一切なかったりする場合には、もしかしてそのままやり過ごせていくなのではと思いきや、法人税の確定申告等(対象者の給与科目があったが退職金科目が未見)で問題が発覚されたり、地方労工局が行う無作為調査でそれが見つかったりすれば、当局から延滞金が課されるほか(労工退職金条例第53条)、2~10万台湾ドルの過料と社名公表といった行政罰が下される可能性もあり(労工退職金条例第49条&第53-1条)、「従業員同意のもとで行った」との抗弁を主張しても、違法な約束はそもそも無効であると一蹴されます。

「2~10万台湾ドル」と聞いたら、大したインパクトのある金額ではないと思われがちかもしれませんが、実務上では、「1退職金積立用口座当たり2~10万台湾ドルの過料」との計算なので、もし複数名の定年後再就職した従業員を雇用しているにもかかわらず、一切退職金の積み立てをしていないとすれば、一度に2~10万台湾ドル×人数の過料を処せられてしまいます。積み立てしないことで経費の節約をしようと思う会社にとって非常に大きなダメージとなりましょう。

さらに、主務機関からのペナルティとは別に、会社から退職金の積み立てをされなかった対象従業員も予告せずに、会社に対して労働契約を解約することができるともに、解雇手当も請求できるとされており(労働基準法第14条)、解約日から5年を超えない間であったら、積み立てがなされていことで受領できない退職金をいつでも会社に対して損害賠償を請求できる形とされています。(労工退職金条例第31条)

終わりに

事業内容の関係でなかなか社員募集が捗らず、少子高齢化の影響で労働市場が縮小気味であるわけなので、定年後社員の力をお借りする傾向はますます顕著になるでしょう。このような考え方が非常に歓迎されるものですが、関連法規定が不慣れな原因で、保険や退職金関係でしくじってしまったら大変もったいないなので、初めて定年後社員の雇用制度を導入しようとする場合には、丁寧に情報を収集したり、専門家に意見提供をしてもらったりすることが望ましく、お勧めいたします。

Attention!

※本稿は2021年9月27日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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