またもや停電!それによってダメになった商品の税務処理、及び一時休業における賃金支払いの要注意点

会社に着いて、同僚に軽く挨拶して、パソコンを立ち上げて、今日一日も頑張るぞと気合を入れて、そして指がキーボードに着地しようとする瞬間に、オフィスの照明とパソコンの画面がいきなり真っ暗。そう、容赦なくかかってきました、2022年初めての停電事故。

停電の影響を受けた製造業は、生産ラインの稼働停止を余儀なくされ、一部の原材料や仕掛品が台無しになってしまいました。飲食業のほうは、冷蔵庫や調理設備が使用できないため、一時休業を強いられ、その間の売上を手放すしかありませんでした。

マサ君

台無しになった分は損失計上しよう

一時休業の間は社員への給与支払いをその分減額しよう

と考えたりする事業者は少なくないでしょう。ただし、キチンと正しい手順を踏んで損失計上をしなければ、法人税の確定申告時に国税に突っ込まれるリスクがあって、一時休業のみを理由に当日分の社員給与を減額支給したりすれば、労工局からペナルティが科されてしまう恐れが伴います。

ただでさえ停電のせいで、納得のいかない損失が出たのに、わけのわからない理由で国税にいちゃもんを付けられたり、行政過料を払わされたりするのは、たまったもんじゃありませんよ!のような思いをしないよう、是非今週のマサヒロリーガルレポートを軽くお目通しください!

ダメになった商品等の経費計上の法的手続

事業者の商品、原材料又は仕掛品等が期限切れとなったり、品質が劣化したり、破損したり、又は不良在庫となったりすることで、販売又は加工できなくなって、廃棄処理を行うしかない場合には、会計士報酬がかかる監査手続きを会計事務所にお願いする方法がある一方で、対象となる商品、原材料又は仕掛品に前述の状況が発生してから30日以内に、証拠書類を提出のうえ、台湾の税務当局へ報告し、廃棄処理の立会人を派遣するよう要請する、という別途費用がかからない方法も用意されています。(営利事業所得税監査準則第101-1条)

留意していただきたいのは、費用がかからない対応方法には30日ルールが存在する点です。今回の停電事故が3月3日に起きたため、タイムリミットまでは少し余裕がありますので、覚えているうちに実施しておきましょう!

国税報告用の申請書のダウンロードはこちら

出典:台湾国税局HP

立会不要な簡易手続きないか?

廃棄処理の対象となる商品、原材料又は仕掛品等の価値が500万新台湾ドルを超えないとの要件を満たせば、廃棄対象物の一覧表を含めた関連書類を事前に税務当局へ提出し、書類査定も通ったら、廃棄処理の実施が分かる、日付情報を入れての一連の写真を事後提出することで、立ち合いが不要になる簡易手続きが利用可能です。

留意点としましては、500万新台湾ドルの計算は、月次や年間の累計額ではなく、一度に行う廃棄処理の商品価値になります。

商品廃棄損に伴う収益も計上必要?

商品、原材料又は仕掛品等をただ捨てる、という単純な廃棄処理ではなく、スクラップとして売却することで、少し「行き掛けの駄賃」を得ている、或いは保険金をもらっているようであれば、もらった分を廃棄損失から差し引かなければならないとされています。

停電による一時休業における賃金支払い義務の有無

2022年3月3日に起きた停電事故は、事業者の責任でもなければ、社員の責任でもない事実は明らかです。

停電期間中は、事業者側に収入が得られなかったから、痛み分けの観点で、その分、社員側への賃金支払い義務もないのでは、という風に安易に考えるのは危ないです。台湾の労基法の考え方は以下2パターンとなります。

「皆帰ってよし」と発令する事業主

停電事故が起きた後、社員から役務の提供がなされておらず、個人の意思で事業所を離れるかを決定できるため、事業主は原則として、当該期間中は無給扱いにすることができるが、社員に対して一時休業期間中の追加出勤を求めることができません。

「電気が復旧するまで現場待機」と発令する事業主

停電が起きたからと言って、10分、1時間又は2時間後復旧する可能性を考慮し、当日の売上を諦めていない事業主は、社員に現場待機を命じることは考えられます。

現場待機のみで、仕事はしていないからと言って、社員には帰宅したり、私用で事業所を離れたりする自由がなく、相変わらず事業主の指揮命令下に置かれている状態なので、その間は引き続き出勤扱いとなり、その間の賃金を支払賃金の総額から差し引くことができないとされています。

停電による国家賠償請求を求めることができるか?

3月3日に起きた停電事故は、国有企業である台湾電力会社(TPC)にほぼ100%責任を負わなければならないので、自社が被った損失をもって、国家賠償請求を求めることができるかというと、結論から言えば難しいのです。

理由としては、会社組織で営む公的事業について、国有財産に該当するのはその株式のみであり、会社名義で保有する財産は当該国有企業に所有権があるとされています。

従って、発電施設等国有企業の有する財産に誤作動があって、停電が引き起こされることによる損失は、国家賠償請求の対象外とされるわけです。(法務部1983年10月19日法律字第12892号通達)

かといって、全く責任のない損失を、被害を受けた法人又は個人は、ただ黙って被るしかないわけではありません。

国家賠償請求とは別に、民法に定めのある損害賠償を請求する権利を利用したり、消費者保護法に基づいて損害賠償請求を行ったりする法的手段を講じて、今回の停電による損失をTPCに請求することは理論上可能です。

一方、TPCの営業規則及び電力消費サービス契約においては、法律、天災その他不可抗力、発電施設の故障、電力供給不足又は設備点検その他電力供給の安全性を確保する必要があった場合には、電力供給を停止したり、電力の使用を制限したりすることができるとされており(営業規則第38条第1項、電力消費サービス契約第19条)、顧客の責に帰すべき事由があった場合を除き、電力供給の停止又は電力使用の制限によって、顧客に損害が発生した場合には、所定の計算式をもって賠償額を計算し、顧客の支払電気料金から差し引くとする(営業規則第39条、電力消費サービス契約第20条)、といった定めがあります。

ただし、TPCが契約に定めた支払い電気料金から控除する賠償金の額は、大体電気料金の○○%ぐらいであり、停電によって、機械装置やエレベーターが使い物にならないほどの損失を到底カバーすることができません。その場合、TPCとの一方的な契約は、明らかに公平を欠くものであったため、賠償金の計算に関する条項を無効にする訴えは(民法第247条の1)、原則として行うことは可能ですが、かかる時間と弁護士報酬を考えたら、予め停電保険に加入するほうが効率よく賠償が受けられるかもしれません。

出典:台湾電力会社HP

Attention!

※本稿は2022年3月14日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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