「日本人も台湾の相続税を納める必要があるの?!」「台湾の相続税を払わないと台湾の財産を受け取れないの?!」マサレポで台湾相続税の基本設定を攻略しましょう!

この間、以下のような相談を受けました。

「父が昔、台湾に派遣されていた時、台湾現地法人の株を10株日本本社からもらった。父が亡くなった後、日本本社がその10株を回収したいとの話しを持ち掛けてきた。どうすれば良いか。僕がその10株を相続できるのか?」

台湾の会社法によると、株式会社の株式は基本的に自由に譲渡できるとされます。そのため、相談者のお父さんと日本本社と合意すれば、日本本社はその10株をスムーズに回収できます。しかし、相談者のお父さんは既に他界したため、日本本社が一方的に株式を回収することはできません。この問題を解決する鍵は、台湾の相続税を申告して台湾での相続手続きを行うことです。

日本人が日本の相続税を申告するのはイメージしやすいだが、台湾の相続税は全くチンプンカンプンだ!

今回のマサレポは、「台湾での駐在期間中に現地法人によって積み立てられた労工保険年金や退職金を相続する際、台湾の相続税がかかるのか?」というよくある質問を含め、日本人の方が台湾相続税の関連手続きを行うに当たり、知っておかなければならない基礎知識を解説しているので、興味がある方は是非ご覧あれ!

一般的な考えでは、日本人は日本の相続税を申告し、台湾人は台湾の相続税を申告するという仕組みになっていると思われがちです。このような分け方をすれば、同じ財産が二重に課税されることはありません。しかし、相続税法の規定はそれほど単純ではないんです。

  • 台湾国内に常住する台湾国民が死亡し、財産を遺した場合、国内外すべての遺産に対して本法に基づき相続税を課す。
  • 台湾国外に常住する台湾国民、または非台湾国民が死亡し、台湾国内に財産を遺した場合、その国内財産に対して本法に基づき相続税を課す。

この規定によれば、台湾国籍を持たない日本人でも、死亡時に台湾国内に財産を持っている場合は、その相続人などは台湾の相続税を申告して納付しなければならず、日本国内で既に相続税を支払ったかどうかに関係なく適用されます

ちなみに、法律の抜け穴を意図的に利用して遺産税を回避することを防ぐため、台湾の税法には「死亡日から2年以内に台湾国籍を放棄した者については、台湾国民と同様に相続税を課す」という規定も設けられています。

被相続人が、死亡事実が発生する前2年以内に自ら台湾国籍を喪失した場合でも、本法における台湾国民に関する規定に基づき相続税が課される。

前述の説明から、日本国籍であっても、台湾に財産を所有していれば、その相続人などは台湾の相続税を申告し納税する義務があることが分かります。それでは、ここでいう課税対象となる「財産」には具体的にどのようなものが含まれるのかを見てみましょう。

本法でいう財産とは、動産、不動産、その他すべて財産価値のある権利を指す。

「財産価値のある権利」であれば課税されるとは・・・それじゃ何でもかんでも課税されるじゃん、参考にならない法律だな。

と感じるかもしれません。実際、課税されないものも定められています。

ハンターハンターの漫画?まだ完結していないので価値がない、よって課税の必要なし!アニメ呪術廻戦のブルーレイ?漫画の展開が微妙で、価値が今一つ分からないから、これも税金かからないはず。

もちろん、相続税が課税されるかはこのような基準では判断されません。こんな感じで判断されると、台湾政府は破産してしまうでしょう。法律ではどのように定められているかを直接チェックしてみましょう。

(相続税がかからない財産)

  • 遺贈者、受遺者または相続人が各級政府や公立の教育、文化、公益、慈善機関に寄付した財産。
  • 遺贈者、受遺者または相続人が公共事業機関または100%政府が出資する国営企業に寄付した財産。
  • 遺贈者、受遺者または相続人が被相続人の死亡時に既に法律に基づいて設立登記され、行政院の基準を満たす教育、文化、公益、慈善、宗教団体、または祭祀団体に寄付した財産。
  • 遺産のうち文化、歴史、美術に関する書籍や物品で、相続人が主務機関に対して申告・登録したもの。ただし、これらの書籍や物品を相続人が譲渡する場合、追加で税金を申告して支払う必要がある。
  • 被相続人が自ら創作した著作権、発明特許権、および芸術作品。
  • 被相続人の日常生活に必要な器具や用品で、総額がNT$100万元以下のもの(2024年より適用)。
  • 被相続人の職業に関連する道具で、総額がNT$56万元以下のもの(2024年より適用)。
  • 法律により伐採が禁止または制限されている森林。ただし、伐採の禁止が解除された場合には、追加で相続税を申告して支払う必要がある。
  • 被相続人の死亡時に指定受取人に支払われる生命保険金、及び軍人、公務員、教師、労働者または農民保険の保険金および互助金。
  • 被相続人が死亡する5年前以内に相続した財産で、既に相続税を納付しているもの。
  • 被相続人の配偶者および子女の固有財産または特有財産で、登記済みまたは証明があるもの。
  • 被相続人の遺産のうち、政府の指定を受けて公道として提供された土地、または無償で公共の通行に供された道路用地で、主務機関の証明を得たもの。ただし、建物建設のために法律によって確保すべき空地部分は、遺産総額に含め申告しなければならない。
  • 被相続人の債権やその他の請求権で、回収または行使が不可能であることが確実に証明されているもの。

遺贈者、受遺者または相続人が財産を提供し、被相続人の死亡時に既に設立されている公益信託に寄付または加入し、以下の条件を満たしている場合、その財産は相続税がかからない。

  • 受託者が信託業法で規定される信託業であること。
  • 公益信託がその設立目的に基づき事業を行うために必要な費用を支出する場合を除き、いかなる方法でも特定または特定可能な個人に特別な利益を与えないこと。
  • 信託行為において、信託関係が解除、解約または消滅した際に、信託財産が各級政府、類似の目的を持つ公益法人、または公益信託に移転することが明記されていること。

金額制限がある「日常生活に必要な器具や用品」については、例えば台湾に住んでいた期間に購入したオートバイ、車、自転車などを、日本へ運送する費用が高すぎるため、長年台湾の友人宅に預けていた場合、将来、子孫がこれら台湾の財産を相続する際には、これらの財産を精算して価値がNT$100万台湾元を超えれば、台湾相続税の申告対象となります。

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注意すべき点として、台湾政府は物価指数に基づいてこれらの金額制限を調整する可能性があります。ですので、2025年以降にこのような調整がなされるかは念のため確認しておくことがおすすめです。

上記の法律で挙げられた相続税の申告が不要な財産以外、台湾に所在して価値がある財産は原則として台湾の相続税がかかる、というのはまだまだ理解しやすいルールです。相続税申告の実務において最も見落としがちなのは、一見被相続人の財産ではないように見えるものの、申告時には例外として一緒に加算しなければならないケースです。

被相続人が死亡前2年以内に以下の個人に贈与した財産は、被相続人の遺産としてみなされ、相続税が課税される。

  • 被相続人の配偶者。
  • 台湾の民法第1138条および第1140条に規定される法定相続人。
  • 上記相続人の配偶者。

遺産の相続人は、配偶者を除き、以下の順序で定められる。

  • 直系卑属。
  • 父母。
  • 兄弟姉妹。
  • 祖父母。

民法第1138条における第1順位の相続人が相続開始前に死亡または相続権を喪失した場合、その直系卑属が代位相続する。

思いつきましたか?まさかの「被相続人死亡前2年以内の生前贈与」のことです!

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法律が「被相続人死亡前2年以内の生前贈与」についても相続税の申告を義務付けている理由は、幽遊白書の幻海師匠のように、自分の死期を予測して亡くなる直前に霊光玉を幽助に譲ることで相続税を回避し、政府の税収が失われるのような事態を防ぐためです。ただし、よく考えてみると、幽助はそもそも幻海師匠の法定相続人ではないため、相続税の課税対象外ですけどね(笑)。

台湾企業に勤める日本籍の社員及び日本からの駐在員に対して、当該台湾企業または日本企業の台湾現地法人は労工保険を掛け、退職金を積み立てる必要があります。もし対象者がこれらの退職金や労工保険年金を受け取る前に死亡した場合、相続人には代理で受け取る権利が生じます。

年金と退職金には価値があり、相続税がかからない項目には該当しないから、これらの財産はどちらも台湾の相続税がかかるね!

上記は、半分が正解で、半分は間違いです。

社員本人の退職金専用口座に積み立てられた新制度の退職金は、会社が毎月拠出した金額やその利息を含み、社員個人の財産と見なされます。そのため、社員が死亡した場合、この退職金は相続税の申告対象となります台財税字第09404571910号)。

一方、社員が労工保険年金を受け取る前に死亡した場合、社員の相続人は関連法規に基づいて台湾の主務機関から遺族年金を請求できます(労工保険条例第63条)。この年金は相続手続きではなく、申請によって受け取れるので、社員の遺産には該当せず、相続税の申告対象にはなりません

台湾で相続税がかかる財産のイメージをある程度掴んだところで、次に税額を確認してみましょう。

台湾の相続税は、個人所得税と同様に超過累進税率が採用されているが、最高税率は20%にとどまります。

  • 課税遺産純額NT$5,000万以下:10%
  • 課税遺産純額5,000万超~1億:15%
  • 課税遺産純額1億超:20%

「課税遺産純額」とは、課税対象となる台湾国内財産の総額から、免税額および各種控除額を差し引いた後の金額を指します。2022年以降の免税額NT$1,333万元が外国人にも適用されるが(遺産及び贈与税法第18条)、外国人にも適用される控除項目は以下の4項目のみとされます。

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670万免税のルールは果たして都市伝説なのか、それとも最強レベルの節税方法になるのかについて、確定申告のシーズンが近づいてきたタイミングで考察してみたいと思います…

  • 被相続人が死亡する前に法に基づいて納付すべき各種税金、過料および罰金。
  • 被相続人が死亡する前に未払いで、確かな証拠がある債務。
  • 被相続人の葬儀費用。
  • 遺言の執行および遺産管理に直接必要な費用。

注意すべき点として、台湾の相続税が課されるのは台湾に残された財産に限られるため、上記の控除項目も台湾国内のものに限られます。つまり、台湾の相続税を申告する際には、被相続人が日本での未払いの交通反則金や未払い家賃などを控除に充てることはできません

冒頭の事例に戻りましょう。ある日本人が若いころ日本本社から台湾に派遣され、相当な実績をあげたため、ご褒美として日本本社から台湾企業の株式を一部譲ってもらいました。しかし、帰任とともに定年退職したその日本人は、この事実をきれいさっぱり忘れてしまいました。20年後、その株式を回収しようとする日本本社が連絡を取ったところ、その日本人はすでに他界しており、電話に出た遺族が株式の譲渡に同意したが、具体的な手続きが分からないとのことでした。

外国籍の相続人が被相続人の台湾株式を売却しようとする場合、ただ、「はい、売ってあげるよ」とだけ買い手と合意すれば完結するものではなく、時間をかけて台湾の株式を相続するための書類を漏れなく用意し、台湾の主務機関から許可をとって、会社に株主名簿の名義書き換えを要請しなければなりません。用意必要な書類のうち、比較的時間がかかるのは、台湾相続税の納税証明書または免税証明書です。

前述の証明書を取得するためには、まず相続対象となる台湾株式の価値を算出し、それをもとに相続税の申告書を作成して台湾の税務当局に提出し、納税書が届いたら決まった期間内に納税してはじめてゲットできる形です。

実務的には、会社は台湾相続税の納税証明書または免税証明書を相続人から取得しておく必要があることを知らずに、所有権が元社員である被相続人にある株式をそのまま相続人にあげたりする事例が少なくありません。証明書なしの状態で株式を相続させると、会社側にNT$1.5万元の過料がかかるので、気を付けておきましょう(遺産及び贈与税法第52条)。

外国人でも台湾の相続税を申告する必要があるんだなんて、どうしてこんなに面倒なんだろう?

確かに、日本で一度申告した相続税を、台湾でも繰り返しやらなければだめだとは、本当に大変で手間がかかります。でも、台湾の相続税の申告手続きを無事終えると、追加で台湾の遺産も受け取れるので、通常の所得税より抵抗感が薄いかもしれませんね。

マサレポ、今週の学び

  • 日本人が台湾国内に財産を持っている場合、その相続人などは台湾の相続税を申告し納税しなければならず、日本で既に相続税を支払っていても関係なく適用されます。
  • 台湾で相続税がかかる財産には動産、不動産、価値がある権利が含まれ、特定の条件を満たす財産(例えば、公益寄付や特定の文化財など)は課税されません。
  • 被相続人が死亡前2年以内に法定相続人などに贈与した財産は、相続税の申告対象となります。
  • 台湾企業の退職金や労工保険年金は、相続税の対象となる場合があり、相続人がそれらを受け取る際に税金がかかることがあります。
  • 台湾企業の株式などを相続する場合、相続税の申告が必要であり、納税証明書または免税証明書を取得しなければ株式の名義変更ができないことに注意。

ATTENTION!

※本マサレポは2024年12月14日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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