期間の定めのない契約は一方的に解約できるものか?「万年契約」の解約方法を解説!

契約書本文に、有効期間に関する定めが一切記載されていない契約書は、台湾において、俗に「万年契約」と呼ばれます。このような契約書には、期間満了日がなく、「期間満了日の1か月前までにいずれの当事者から何らの意思表示なき場合」的な文言もないため、当事者が存続する限り、双方が契約条件に従い取引を継続し続けなくてはなりません。

一方、台湾百貨店大手の遠東そごうは今年の6月15日に、百貨店系クレジットカードの発行などで、万年契約のもとに20年間提携関係を続けてきたキャセイ・バンク(国泰世華銀行)とは、8月16日付けにてコラボ解消、との発表を行いました。

20年もやってきたのに、今更何故?

との疑問が脳裏をよぎたりするかもしれませんが、それより気になるのは、「期間の定めのない契約は一方的に解約できるものか」との点です。

今週のマサレポは、台湾法に基づき、法律に抵触しない形で、一方的に万年契約を解除・解約できる可能性を秘める方法について、解説してみたいと思います。

一方的に契約を解除できるケース

取引契約によくある自動更新の条項においては、「期間満了の1か月前までに、甲又は乙が相手方に対して、期間満了による本契約の終了の意思表示を行わないときは、本契約はさらに1年間更新され、以降も同様…」といった文言が記載されるのが普通です。このような条項が盛り込まれた契約書には、契約期間に関する定めがほぼ設けられているので、万年契約になる心配は特にありません。

また、たとえ契約期間や自動更新などの条項が定められておらず、「万年契約」と目されても仕方のない契約書であったとしても、「甲又は乙が〇〇条件を満たせば、契約を解除できる」のような記載があれば、当該合意された条件を満たした当事者には、やはり一方的に契約を解除する権利を有するとされています。

一方、自動更新や、条件付きで一方的に契約を解除できる権利の付与される条項が記載されていない契約書を取り交わした当事者が、どうしても一方的に同契約書を解除しようとする意思があった場合、台湾の民法に定めた以下の要件を満たしたかをチェックし、契約の条件によらない形で、合法的に契約を解除する方法を探ることが可能です。

①債務不履行に基づく解除―催告必要

当事者の一方が、契約書に定めた義務をなかなか果たさなかった場合には、他方は合理的な期限を指定し、当該一方に対してそれまでに義務を果たすよう通知したにもかかわらず、当該一方は指定された期限までに果たすべき義務をなお果たそうとしなかったら、他方は契約を解除することができます(民法第254条)。

例えば、桜木氏にパスしなければならない契約を取り交わしたが、それでもパスしようとしない流川氏に、20秒以内にボールをよこせ、と桜木氏が催促しました。もし流川氏がそれに応じなかったら、桜木氏は流川氏との契約を破棄可能です。

②協力義務不履行に基づく解除―催告必要

発注者の協力なしでは完成できない工程であるにもかかわらず、発注者が協力を拒んだ場合には、請負者は妥当性のある期間を設けて発注者に協力義務を果たすよう促すことができます。それでも発注者が協力しようとしなかったら、請負者は請負契約を解除することが可能とされます(民法第507条)。

例えば、湘北高校から体育館の清掃工程を請け負った桜木氏は、絶対滑らない洗剤を同高校に支給を求めたが、同高校が桜木氏の指定した期限までに洗剤を提供しなかったため、桜木氏は湘北高校との請負契約を解除することができます。

③債務不履行に基づく解除―催告不要

当事者の一方が、特定のタイミングにとある義務を果たさなければならない、という契約において、当該一方がそのタイミングが来ても結局何もしませんでした。タイミングを逸すると契約の目的が達成できないため、他方は催促なしで契約を解除できるとされます(民法第255条)。

例えば、桜木氏にブザービーターを打たせようと、流川氏が秒読みが0になる直前に同氏にパス必要との契約において、もし流川氏がそのときパスしそこなった場合、桜木氏は催促無しでただちに流川氏との契約を破棄できます。

④債務不履行に基づく解除―債務者に非がある場合

当事者の一方が、自己に起因する理由で、契約に基づき他方に商品を出荷したり、金銭を支払ったりする義務を果たせなかった場合、他方は契約を解除できるとされます(民法第226条民法第256条)。

例えば、流川氏は自分の手が滑ったせいで、桜木氏にパスできなかった場合、桜木氏は一方的に流川氏との契約を破棄できます。

⑤事情変更の原則に基づく解除

契約が成立した後、外的事情が予想を超えるほど大きく変化し、そのまま契約を続行させたら、当事者の一方にとって明らかに不公平が生じた場合、当該一方は裁判所に対して、契約内容を一部変更したり、解除したりする申し立てを行うことが可能とされます(民法第227-2条)。

コロナ等の影響を理由に、契約条件の一部見直しを取引先と相談することで、台湾において法的に問題ないか?

説得力をパワーアップさせる効果を得るよう、法に基づき正しく、合理的に主張するスキームとして、台湾の民法に定めのあった「事情変更の原則」について、専門用語を極力…

例えば、流川氏は、桜木氏とパスに関する契約を交わした後にコロナを発症し、桜木氏がブザービーターを打つためのパスを出すところか、出場することもままなりませんでした。その場合、流川氏は裁判所に対して、桜木氏との契約を解除する申し立てを行えます。

留意が必要なのは、事情変更の原則を主張するためには、「裁判所への申し立て」という手続きが必須との点です。

一方的に契約を取り消すことができるケース

もし取引先が双方の合意したタイミングで商品をきちんと出荷してくれたり、金銭を支払ってくれたりすれば、上記①~④の契約解除方法は利用できなくなる可能性があります。その場合、「契約の取り消し」を実施可能かを検討できます。

当事者の一方が、詐欺又は脅迫を受けて契約書にサインさせられた場合、当該一方は契約を取り消すことができます。また、前述した詐欺行為は第三者によって行われ、かつ他方の当事者もそれが分かっていれば、詐欺を受けた一方は契約を取り消す権利が付与されます(民法第92条)。ただし、契約の取り消しは、詐欺もしくは脅迫に気づいた1年以内、又は契約が成立して10年以内に行わなかったら、取り消しの権利がなくなるとされます(民法第93条)。

例えば、桜木氏は、安西先生から「ブザービーターを打たないと次の試合に出場させない」と命じられたり、ゴリラから「ブザービーターを打たないと晴子との交際を認めない(実際ははなから認めないつもり)」と煙をまかれたりして、流川氏とブザービーターを打つためのパス契約を締結した場合、安西先生やゴリラの話に違和感を覚えた1年以内に、桜木氏は原則としてパス契約を取り消すことができます。

一方的に契約を解約できるケース

もし契約を解除できる要件が満たされなければ、契約を取り消す要件もクリアできなかった場合、「契約を解約できるか」を検討できるかもしれません。

えっ?!解除と解約って違うのか?

契約が解除されたら、その効力が最初から存在しなかったことになるのに対して、解約された契約は、成立した日から解約された日までの間は引き続き有効であるが、解約された日以降の効力が消滅する、というような違いがあります。

①賃貸借契約の場合

契約の解約がよく利用されるのは、不動産の賃貸借関係です。賃貸借関係が継続する間において、不動産に修繕の必要性が出て、かつそれにかかる費用は貸し手が負担する契約条件であれば、借り手は合理的な期間を指定し貸し手に修繕の対応を促すことができます。もし貸し手が当該期間に何も動きがなかったら、借り手は契約を解約可能とされます(民法第430条)。

例えば、桜木氏が湘北高校と契約し体育館の賃借を受けており、ある日ゴリラが急に体育館に現れ、現場を荒らしまくってから風のように消え去りました。その後、桜木氏は契約に基づき、1ヶ月以内に体育館の修繕を行うよう湘北高校に要求したが、学校側では、野生のゴリラがいきなり出てきて、しかもバナナのない体育館を荒らすわけがないと主張し、桜木氏の話を信じようとしませんでした。この場合、桜木氏は同高校との賃貸借契約を解約可能となります。

②請負契約の場合

工程が完成するまで、発注者は何時でも請負者との請負契約を解約可能だが、請負者がそれによって被った損害を賠償しなければならないとされます(民法第511条)。

例えば、湘北高校が桜木氏に体育館の清掃工程を頼んだが、清掃が終わる前に、三井氏の企みにはまった同校が、一方的に桜木氏との請負契約を解約しました。と同時に、同校は桜木氏が受けた損失を補填する義務が発生してきます。

③委任契約の場合

委任契約を締結した当事者いずれかの一方は、原則として何時でも解約することができるが、他方がそれによって損害を被った場合、当該一方は賠償の責任を負わなければなりません。ただし、解約した一方の責任によらない理由で、委任契約を解約せざるを得ない場合は、当該一方は損害賠償の責任を負わなくて済むとされます(民法第549条)。

例えば、流川氏は桜木氏から、ブザービーターが打てるタイミングで同氏にパスする、との委託を受けました。しかし、試合終了1分前、流川氏は、お前にパスしたらそこで試合終了なのだ、と桜木氏に言い放ち、一方的に同氏との委任契約を打ち切りました。従って、ラストシュートを打ち、チームを勝利へ導くことができなかった桜木氏は、流川氏に損害賠償を請求することが可能となります。

遠東そごうVSキャセイバンクのケース

冒頭の解約騒動に戻りますが、契約時に双方の代表者は歓談に夢中になりすぎて、契約期間を入れるのを忘れたと報じられている遠東そごうとキャセイバンクとの契約関係について、何故遠東そごうは一方的に解約できるかというと、提携期限なし、キャセイバンク以外の銀行との提携ができないなど、通常の百貨店系クレジットカードの発行に関する契約と比較するとおかしな点が散見されるのを理由に、遠東そごうが仲裁を申し立てた結果、同社に解約する権利がある、との仲裁判断が出たからです。

一方、キャセイバンクはどうやら当該仲裁判断の結果を認めたわけではなさそうで、それを覆すための訴訟を既に提起したとも報じられています。この万年契約に関する勝敗の行方は、これからも注目に値するものです。

仲裁判断を履行しなくても大丈夫!?上場企業が放った渾身の一手、勝負の行方は!

仲裁判断に納得がいかないある台湾の上場企業は、いかにも合法そうに見える方法を利用し、少額とは言い難い経費を顧みず、仲裁の結果に違反しない形で、自社にとって望ま…

今週の学び

以上、期間の定めのない契約を合法的に解除、取り消し、又は解約する方法をいくつか見てまいりました。留意が必要な点として、法律に定めた要件を踏まえ、契約関係を解消しようとしても、必ずしもそのとおりになるとは限りません。何故なら、契約書に見え隠れする、それらの法的要件を完全に又は一部的に無効にできたりする条項が存在する可能性があるからです。

こういった不安要素を徹底的に無くし、かつ万年契約にならないよう、調印する前に、一度専門家の意見を聞いたりすることがおすすめです。

マサレポ、今週の学び

  • 契約期間がなく、契約関係を解消できる条件も一切盛り込まれていなくても、一定の法的要件を満たしたら、契約を解除、取り消し、又は解約することは可能です。
  • 法律に基づき契約を解除するためには、他方の当事者への催告もしくは裁判所に対する申し立てが必要となる場合があるため、どういった契約関係に属するか見極めなければなりません。
  • 契約の解除は契約そのものを最初からなかったことにするのに対して、解約は将来に向かって契約をなかったことにする行為です。
  • 裁判所にも認められる形で、法律に基づき契約関係を解消できるかについて、事前に専門家の意見を聞くことが有効です。
  • 万年契約にならないよう、予め契約期間を入れておきましょう。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年6月21日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA