聞いたことありますか?夫婦間における清算的財産分与の請求権

婚姻関係においては、家事や子育てを主に担当する一方の配偶者は、就労して収入を得る他方の配偶者に対して、家事関連費を請求することができます。

婚姻関係のあるなしに関わらず、未成年の子供を監護し、養育する一方の配偶者は他方の配偶者に対して、養育費を請求できます。

ほぼ常識的になっている家事関連費や養育費とは別に、清算的財産分与の請求はあまり馴染まれていないように感じます。

「清算」と聞いたら、「婚姻関係が解消してから」というイメージが強いかもしれませんが、実は、婚姻関係が継続していても、清算的財産分与を請求できるケースもあります。

なお、「清算」といっても、夫婦間における清算的財産分与は会社清算のように、帳簿上にあった一切の財産と債務を一度に整理するのではなく、特定の要件を満たした財産は、分与の対象にされないルールとなっています。

夫婦ともに台湾人の方、又は台湾人の配偶者を持っている日本人の方、もしくは前二者の知人を持っている日本人の方は、是非とも相続税対策においても大いに活用可能で、なじみの薄い「清算的財産分与の請求権」について解説する今回のマサレポをご参考いただければと思います。

清算的財産分与の請求とはどういう権利?

台湾においては、夫婦が婚姻前又は婚姻後において契約を締結し、夫婦間の財産に関する取扱いを約定した場合を除き、原則として「法定財産制」が適用されます。台湾人同士又は片方が日本人の国際結婚を問わず、法定財産制が適用されるカップルが圧倒的に多いです。

夫婦の片方が他界したり、夫婦が離婚したり、婚姻関係が無効であると裁判所に認定されたり、もしくは夫婦が婚姻関係継続中に夫婦財産契約を締結し、能動的に法定財産制を解消したりしたら、法定財産制が消滅する形になります。その場合、財産の少ない夫婦の一方は他方に対して、名義上、当該他方が保有する資産から債務を差し引いた残高のうち、自らの財産を超過した部分の半分を請求可能となります民法第1030-1条)。このような権利は、「夫婦間における清算的財産分与の請求権」になります。

以下、清算的財産分与の例を見てみましょう。

清算的財産分与の設例

  • マサ雄とヒロ子が離婚するとします。
  • マサ雄が離婚時に保有する純資産が100万NTD(総資産―債務=純資産)
  • ヒロ子が離婚時に保有する純資産が50万NTD(総資産―債務=純資産)
  • 100万―50万=50万NTD(夫婦が保有する純資産の差額)
  • 50万÷1/2=25万NTD(ヒロ子が離婚によってマサ雄に請求可能な金額)

清算的財産分与の対象にされない財産

原則として、夫婦が結婚後に稼いだ所得や登記した不動産、購入した車・有価証券・保険などは、清算的財産分与の対象にカウントされます。そして、結婚前に既に保有した株式で、婚姻期間中に保有し続けることで配られる配当金、及び結婚前に貸し出しているマンションで、婚姻期間中に借主から受け取る賃料も財産分与の対象になるのです(民法第1017条)。

一方、夫婦の片方が結婚後に取得したにもかかわらず、清算的財産分与の対象にされない、いわゆる取得した側の特有財産になるものもあります(民法第1130-1条)。

清算的財産分与の対象にされない財産

  • 贈与又は相続など無償で取得した財産
  • 精神的苦痛などで取得した慰謝料

ちなみに、とある財産の取得時点が結婚前か結婚後のどちらであるかはっきりしない場合、結婚後の財産に推定され、分与の対象にされます(民法第1017条)。なお、結婚後の財産がマイナス(負債が財産を上回ったなどの場合)であれば、分与時は0NTDとみなし請求可能な金額を計算する必要があります。

清算的財産分与の消滅時効

他方の配偶者に対する清算的財産分与を請求する権利は、その他金銭的請求権と一緒で、台湾の法律上、何時でも無制限に行使できるものではありません。以下いずれかの期間が経過したら、本件の請求権が消滅時効によりできなくなります(民法第1030-1条)。

清算的財産分与の時効

  • 請求権者が分与可能な余剰財産に差額があったことを知って2年が経過した場合
  • 配偶者が死亡、又は配偶者と離婚などの事由により、法定財産制が解消して5年が経過した場合

清算的財産分与に関する例外的な取り扱い

法定財産制が解消したら、時効になっていない限り、結婚後の純資産が少ない配偶者の一方は、原則として他方に財産の分与を要求可能というルールは、以上の説明で分かりました。かといって、いかなる条件を守らずとも、この請求権を発動できるわけではありません。

例えば、配偶者の一方はろくに仕事をせず、ギャンブルにどっぷりはまっていて、子守りや家事なども一切分担しようとしないにもかかわらず、他方の配偶者から三下り半を突き付けられたら、清算的財産分与の請求を行うとして、もしルール通りに当該請求を許すと、子守りや家事を担当し、かつ仕事にも励んで財産を築いた側にとって、極めて不公平な状況が生じてきます。

上記のような、明らかに公平性が欠ける状況を作り出さないよう、台湾の民法では、夫婦の一方が婚姻生活に貢献又は協力していない、もしくは財産を夫婦間で均等分配すると公平性が損なわれるその他事情があったと認められたら、台湾の裁判所は、家事や子守りの担当状況、家庭全体への貢献具合、共同生活と別居期間の長さ、結婚後財産の取得時点、夫婦それぞれの経済事情等の要素を総合的に考慮のうえ、財産分配の割合を適宜調整したり、無配にしたりすることができるとされます(民法第1030-1条)。

従って、婚姻関係の維持に大変消極的な態度を見せているが、財産を分配するタイミングが来たら、50対50でないとフェアじゃないといきなり主張しだす、というタイプの人がいれば、上記の法律が有効な対抗手段として機能してくるでしょう。

相続税対策としての清算的財産分与

台湾の相続税の仕組みを分かりやすく言うと、相続財産から各種法定控除額を引き切って算出した課税純額に、所定の税率に乗じて納税額を求めるという、所得税と根本的に通じる制度です。ただし、相続税には所得税の計算方法と大きく違う特徴があって、それが「清算的財産分与」のコンセプトが適用される点です。

納付すべき相続税の計算の第一歩は、相続財産から課税純額を算出するステップであると考えられがちですが、実は、この誰でも知っている第一歩の前段階に該当する第ゼロ歩も存在するのです。

被相続人の方にもし生存する配偶者がいて、かつ被相続人が結婚後に取得した財産が生存する配偶者のを上回った場合、上回った分の半分を超えない範囲で、清算的財産分与として課税される相続財産から差し引くことができるとされます(遺産及び贈与税法第17-1条。何故このような節税方法が許容されるのかというと、被相続人が持っている相続財産のうち、結婚後で形成した部分には、生存する配偶者も何らかの形でそれに貢献していたという、いわゆる「配偶者源泉所得」に該当しており、生存する配偶者は当該一部の財産に対して所有権を主張しても何らおかしくないわけなので、そのような財産を課税される相続財産から取り除いてしかるべきである、との考え方によるものです。

前述の第ゼロ歩を相続税の計算に利用したら、相当インパクトのある節税効果が期待できます。例えば、被相続人のマサ雄に7,000万NTDの相続財産(全額結婚後財産と仮定)、生存配偶者のヒロ子に100万NTDの預貯金があるとして、相続税の申告に清算的財産分与の請求権を発動したら、3,450万NTD((7,000万―100万)÷2)の控除額を税金の計算時に利用可能となります。最低税率の10%で考えたら、約345万NTDの節税ができる計算となっており、非常に効果抜群であることが分かります。

また、相続税の納税証明書又は免税証明書が台湾の税務当局から発行されて1年以内に、申告時に控除を受けた清算的財産分与の金額に基づき、相続財産から一部の財産を生存配偶者に移さないと、控除が受けた分だけの税金が追徴されるとともに、遅延利息も支払わされるので、留意が必要です(遺産及び贈与税法第17-1条

今週の学び

以上の内容によって、「夫婦間における清算的財産分与の請求権」というコンセプトについて、少し理解を深めていただきましたのでしょうか。もともと世間に浸透していない知識なだけに、初見の方にとってやや理解に苦しむところもあるかと思います。金額の計算に関してご不明な点があれば、是非何時でもマサヒロへご相談いただけましたら幸甚です。

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マサレポ、今週の学び

  • 配偶者が死亡又は配偶者と離婚した場合、財産の少ない一方は他方に対して、財産の差額の1/2を請求できるが、結婚前の財産や無償で取得した財産などは対象外とされます。
  • 財産分与の請求権には2年と5年の消滅時効が適用される点は要注意。
  • 家庭に貢献していない者に、財産分与の権利は与えられません。
  • 相続税の節税対策には、清算的財産分与の請求は有効だが、請求したとおりの財産を所定期間内に生存配偶者へ移さなければ、税金が追徴されます。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年6月27日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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