運転したのは社員でもないのに、何故当社は賠償しなければならないのか?―「社用車の交通事故における会社の連帯責任」

当社と非常に仲のよい下請けは、先月社用トラックを修理に出しており、移動手段がないからちょっと困っている様子。そこで、あまり使用していない当社の社用車を貸しました。
先日バイクとの衝突事故があったが、責任をもって車を修理する、と下請けから報告を受け、しっかり車を直せよ、と軽く叱り、特に気にしていませんでした。
そして昨日、裁判所から呼出状が当社に届き、交通事故による損害賠償の件で出廷しろ、との通知でした。損害賠償!?なにそれ!


従業員が会社の命令を受け、勤務時間中に社用車を使って外出作業を行おうとするところ交通事故に遭ったら、会社は法律に基づき何かしらの賠償責任を負うなら、まだ納得がいきやすいですが、社用車を運転したのは、会社の従業員ではなく下請け業者であり、かつ会社から直接命令を受け社用車を利用したわけでもないから、何故会社は事故の賠償責任を追及されなければならないのか、との疑問が持たれてしまいましょう。

社用車を外部の第三者へ貸し出すにあたり、不幸にも貸出期間中に交通事故が発生したら、貸す側である会社にどういった法的責任が問われるか、それを回避する方策等ないかについて、マサヒロスタイルで、以下分かりやすく解説していきます!

社用車の交通事故における会社の損害賠償責任

会社の損害賠償責任を考察する前に、ひとまず関連法律が文面上どういう風に定めたかをチェックしてみましょう。

使用人が業務の遂行により、第三者の権利を不法に侵害した場合には、使用者は使用人とともに当該第三者に対して損害賠償の責任を負う。

民法第188条第1項

上記の文面からしては、社用車による交通事故の当事者が外部の人間ではなく、会社の従業員であった場合のみ、会社は被害者に対しての損害賠償責任を連帯で負う形になる、と解釈されがちですが、裁判実務においては、第三者の立場から見て、社用車を運転する人が、見た目的に従業員っぽく見えるなら、実際会社とは契約関係があるかどうか、会社から報酬の支払いを受けるかどうかは関係なく、法律的には「使用人」と見なされる可能性があります。(台湾高等裁判所109年度上字第10号民事判決)

例えば、社用車に会社のロゴが入ったり、運転する人が会社のユニフォームを着用していたり、会社が取り扱う商品を社用車の荷台に乗せたりするなど、「その会社の従業員が社用車を運転している」ことを簡単に連想しやすい状況特徴があった場合、たとえ社用車を運転しているのは客先や下請け等の第三者であっても、法律的には、事故時の損害賠償責任を会社が負わされるリスクがあります。

2番目の要件は、交通事故を起こしたときは、運転する人は会社から与えられる業務を遂行する期間中であるかとの点です。

会社の従業員又は取引先が連休中に、家族旅行等で当該会社の社用車を使用することによって起きた交通事故であれば、事故時は明かに勤務期間外なので、原則として会社側に被害者への損害賠償責任は発生しません。ただし、事故が起きたタイミングは、一見、直接的に業務の遂行とは無関係な出社や帰宅の間であっても、実務的には「業務の遂行と切り離せない勤務期間」と見なされる事例があるため、会社は連帯責任を免れないかもしれません。

会社は連帯責任の追及を回避可能な方策

会社の連帯責任を定める民法第188条第1項の後半では、

使用人の選定、及び選定された使用人による業務遂行への監督に、使用者は既に相当な注意を払ったか、もしくは相当な注意を払ったにもかかわらず、第三者に損害を与えた場合には、使用者は損害賠償責任から免除される。

という風に、会社の免責要件が定められています。従って、会社側では社用車の使用に関する規程が作成され、それに関する講習や注意喚起も定期的になされており、なおかつ社用車を運転しようとする社員又は社外の第三者に対して、事前にアルコール検査などを実施し記録に残される等、比較的厳しい管理措置が講じられれば、免責の主張は可能となります。

一方、形だけの社用車管理規程を作っておいて、存在すらあまり知られておらず、必要最低限な教育訓練も施されず、使いたければほぼ何時でも社用車を借りられる、といった手抜き管理のみやっているならば、会社が免責の抗弁を行っても実務的には認められない傾向です。

そのため、社用車の使用に関して、日頃から適正な管理を行い、こまめに書面による記録を取得することが望ましいでしょう。

一つ要留意なのは、会社は自ら行った監督責任を完璧に立証できて、免責を勝ち取った後においても、もし事故の被害者は社用車を運転した人から妥当な賠償金をもらえなかったら、裁判所は自らの判断で、免責と判断されてもおかしくない会社に全部又は一部の損害賠償責任を負うよう命じることができるとされている点です。(民法第188条第2項

交通事項を起こした者に請求する権利

社用車を運転したのは従業員又は取引先かを問わず、会社は交通事故の被害者から連帯責任を求められ、損害賠償を行う義務が発生した場合には、当該会社は、社用車を運転した者に対しても損害賠償の責任を追及する権利が付与されます。(民法第188条第3項

会社側にこういった連帯責任を課す理由について、会社の命を受け業務を遂行する人は、必ずしも被害者の損失を補填できるほどの十分な収入をもらっているとも限らず、莫大な損害賠償金に怖気づいて裁判の途中で夜逃げしたりする可能性も無きにしも非ずなので、被害者への賠償責任をできるだけ迅速に、経済的合理性のある形で全うさせるには、当事者の業務遂行によって経済的便益を享受する会社にもそれなりの責任を持ってもらおう、との考え方が働いた結果と思われます。

一方、連帯責任を負わされたとはいえ、会社は直接に交通事故につながる行為を行ったわけではないため、会社は被害者への損害賠償を済ませたら、当事者である社用車を使用した従業員又は取引先に対して、自ら出した賠償金を請求できる権利も与えられています。

また、社用車を運転した人に対して、会社が賠償金を請求するとき、全額請求できるか、それとも何らかの比率に基づいて請求すべきかに関して、もし運転した人は会社の従業員であれば、当該従業員との雇用契約書に、こういった事件が発生したら、互いの賠償金負担割合はいくらかについての約定事項をチェックしたり(雇用契約書の要記載事項について、こちらのマサレポをご参考いただけます)、雇用契約書に負担割合に関する約定がなされなかったら、代わりに社用車の管理規程に当該約定事項の有無を確認したりする形で、請求額を決める必要があります。

ただし、賠償金の負担割合について一切書面による記録がなかった場合には、労使間の話し合いで決めなければならず、手間暇がかかるため、雇用契約書か社用車管理規程に予め負担割合を決めておくのがよいでしょう。

ちなみに、交通事故が発生した主な原因は運転した者の過失によるもので、かつ社用車がそれによって破損した場合、会社はかかる修理代を社用車を運転した者に請求可能とされています。

終わりに

社用車を持っている会社と比べたら、社用車を持っていない下請け業者又は従業員が経済的に不利な立場にあることが多いです。そのため、交通事故の被害者が受けた損失を可能な限り守ろうと、会社の連帯責任を定める民法第188条の適用要件を緩く解釈する傾向が強いです。

例えば社用車を運転する人は、明らかに社用車を保有する会社とは雇用関係が存在していないにもかかわらず、何らかの取引関係があるだけで、裁判所が会社の連帯責任を認定したり、社用車の利用者が退勤後、知人との会食を終え帰宅の途中事故を起こしたのに、事故の発生時間帯が勤務時間内だと判断し、裁判所が会社に連帯して賠償せよと命じたりするなど、こういった社用車による交通事故は、会社側では連帯責任が成立する可能性は実務的に結構高いものです。責任を負わされるリスクを最小限に抑える方法として、前述したとおり、監督義務をきちんと果たしたよ!と立証できるよう、社用車の管理をしっかり行うことが有効です。

ただし、事故の被害者が被った損失はあまりにも大きく、社用車を運転した人は全財産を差し出しても、10%の損害補填にもならない場合には、監督義務を十分に果たした会社であっても連帯責任が問われてしまう可能性が生じてまいります。それに備える形で、第三者賠償責任保険等の効果を有する任意保険を加入したりする方法も取られています。

留意が必要なのは、社用車を運転した人は、見た目的に従業員と思しき人物だけで会社に連帯責任があると判断するなど、適用要件を緩く解釈する裁判所の立場とは違い、保険会社では比較的厳しい見方を取っており、会社と雇用関係を有する従業員でなければ、社用車による交通事故の損害賠償を保険ではカバーしない、との条件設定を行う可能性が十分あり得ます。従って、社用車保険の内容をしっかり見極めるうえ、加入の検討を行うことがお勧めです。社用車による交通事故が起きて、そして訴訟沙汰になってしまったら、それに対応するための弁護士費用も出してくれる保険なら、なおさら魅力的ですね。

ATTENTION!

※本マサレポは2022年7月28日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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