会社はどう対応すべきか!?【社員に教育召集の令状が来たらよくあるモヤモヤ8選】

台湾籍を有する男性は、満18歳の翌年1月1日から、満36歳の年の12月31日までの間は徴兵対象期間とされ(兵役法第3条)、その間に入隊令状が届いたら、免除又は一時停止の要件を満たす場合を除き、原則として指定される軍事キャンプで4ヵ月間の軍事訓練を受ける必要があります(兵役法第16条)。

また、上記とは別に、4ヵ月間の軍事訓練を受けて8年以内、4回を限度に、1回当たり5~7日又は14日間の教育召集が義務付けられています(兵役法施行法第27条)。

教育召集の義務は台湾の憲法に定められているため、会社にとって非常に重要な社員又は管理職であったとしても、国の命令を優先し、令状を受けた社員に、指定された期間に軍事キャンプへ行かせるしかなく、給料を差し引かない「公用休暇」を与える必要がある、といった基本ルールは既に公知となっている労務知識かと思われます。

「給料を引き続き支給する」、「公用休暇を付与する」、との2点のほか、例えば教育召集の期間が会社の所定休日若しくは法定休日、はたまた社員が予め申請した結婚休暇と重なった場合、別途公用休暇を付与する必要があるか?軍事キャンプへの往復時間も公用休暇として扱う必要があるか?パートタイム社員へも通常通りの時給を支払う必要か?TSMCの社員であれば教育召集を受けなくてよいって本当か?などなど、一見単純そうに見える兵役がらみの労務管理なんですが、実務の世界においては、モヤモヤ感たっぷりと言えなくもありません。

今回のマサレポは、教育召集を受ける社員が出た場合における労務管理上よくあるモヤモヤ8選を紹介させていただき、似たようなシチュエーションが発生したら、この一本でモヤモヤを徹底解消していただけたら幸いです。

モヤモヤその1―教育召集には公用休暇、法的根拠ある?

台湾の労基法においては、教育召集の令状が届いたら、対象社員に公用休暇を付与せよ、というストレートな指示は確かにありません。しかし、関連規定は労働法ではなく、別の法律に定められています。

教育召集を受けた学生及び労働者に対しては、公用休暇を与えなければならない。

兵役法施行法第43条

教育召集を受たる学生及び労働者に公用休暇を与える必要があるほか、かかる往復時間も公用休暇として扱わなければならない。

国防部86年6月26日鍊銪字第860007606号通達

上記、教育召集を受けるための往復時間も公用休暇としてカウントされるルールについては、労働部もそれを再度強調する意味合いで、自ら通達をリリースしました(労委会第026844号通達)。

高速鉄路を利用し、1時間半もあれば高雄から台北に行けるので、教育召集が始まる当日に適宜な交通手段さえ選べたら、公用休暇の支給に往復時間を考える必要がないのでは、と思われるかもしれませんが、普段は台湾本島に住んでいる社員に、教育召集の集合場として澎湖島や金門島等の離島が指定され、召集開始日に台湾から船又は小型ジェット機で駆けつけては間に合わない事例を考えたら、教育召集の実施期間とは別に、往復時間に対しても公用休暇を与える必要性が生じるわけです。

モヤモヤその2―教育召集の期間に休日が含まれたら、休暇を追加付与必要?

土曜日曜などはもともと休日なんで、教育召集でパーになってしまった。過労にならないよう、会社はその分の公用休暇もくれるべきだ!

という風な主張をたまに従業員の方から聞かされます。法律上正しい対応方法は果たしてなんでしょうか。

台湾の労働部の公式見解によると、教育召集は国民が果たす義務であり、仕事より優先させなければならないから、会社に公用休暇の付与義務を課すわけだが、会社が定めた休日に実施する教育召集について、対象従業員は会社の指揮命令下におらず、自らの意志で教育召集を受ける形なので、会社はその分追加で公用休暇を対象従業員に付与する必要はない、とのことです。

また、従業員が予め会社に申請した結婚休暇の期間に、たまたま教育召集の実施期間と重なったら、重なった分別途結婚休暇を付与必要かと言えば、法律上そのような定めがなく、労使間の協議でそのやり方を決めたらよい、とされており(台内労字第470133号通達)、有給休暇期間中に実施される教育召集も原則として同じ取り扱いにされています。

以上のように、ルール上は会社側にとって比較的有利な設定とされていますが、社員の気持ちやモチベーションを大事にする観点で、教育召集でなくなった結婚休暇又は有給休暇を追加で社員に付与する、という労基法の定めより労働者側に有利な条件を取る会社もあります。

モヤモヤその3―教育召集を受けるパート社員は無給でよいか?

正社員が教育召集を受けた場合、その間は公用休暇を付与し、皆勤手当てを含め、月次賃金を通常通りに支払わなければならない(労働者休暇規則第8条同法第9条)、との点に疑問を感じる方はほとんどいないと思います。

一方、働いてもらう時間の分だけ、時給で計算した賃金を支払ったらよいパートタイム社員が教育召集を受けたら、その間は会社に出勤していないため、賃金の支給義務はない、と考えるのが普通です。通常のケースならば、無給で問題ありませんが、一つ例外があります。

パートタイム社員と「一週間の最低労働時間」的な約定を入社時に交わしたり、若しくは予め将来1ヵ月分の勤務時間を決めておいたりするルールを採択する会社で、パートタイム社員に教育召集の令状が届いたら、たとえ招集の実施期間中に一切出勤していないとしても、会社は事前に約定した通りの時給を同パートタイム社員に支払わなければならないとされています。ただし、会社とパートタイム社員と協議した結果で、教育召集期間中の勤務時間を後倒しにする合意がなされたら、この限りではありません。

この辺の話しは、やはりコミュニケーションによるところが大きいかと思います。

モヤモヤその4―社員が召集されて会社が損する分は何か救済措置ないか?

従業員が軍事キャンプに駆り出されることで、会社に出勤できないにもかかわらず、その間の賃金を通常通り支払わなければならない点も痛いんですが、従業員を1名か2名のみ配置する飲食店だと、それはもう経費的損失のレベルではなく、店を営業できるかどうかの死活問題です。

かといって、政府はピンチヒッターを急遽派遣してくれるわけないので、自力で解決策を何とか見つけ出すしかないようです(※実は対応方法があることを、これからのモヤモヤで紹介します)。でも、そのままだと、やはり会社さんは可哀そうなので、少なくとも補助金的なものをあげましょう、という風に、ようやく企業のやるせなさに気付いた政府は、なんとかしろ!と財務大臣に命じた結果、以下の補償制度が出来上がりました。

教育召集を受ける従業員が居たら、会社が負担する召集期間中の賃金を1.5倍にして費用計上することは可能で、それによって法人税の負担が減る、との減税措置です。(例えば、召集期間中会社によって支払われた賃金額を100NTDだとしたら、税務上は150NTDで費用処理できて、それによって課税所得が50NTD余分に減少し、法人税も減る、との考え方です)

留意が必要なのは、本件減税措置はただ会計帳簿において上記のような費用処理を行ったらよいというわけではなく、賃金が支払われた証明、対象となる従業員の休暇申請書、教育召集の令状その他エビデンスを用意のうえ、法人税の確定申告書においても決まった要記載事項を逐一書き込まなければならない、というひと手間かかる作業が要求されます(現在、本件節税の優遇が受けられる期間は2022年1月1日~2030年12月31日とされています)。

また、こちらの減税措置は、その他税金に関する優遇策と同時に採択できないルールとされるため、例えば研究開発奨励措置を利用し、従業員への支払い賃金による節税を行ったら、同じ従業員が教育召集を受けた場合、一度節税に使われた賃金をリサイクルして節税の二度漬けにしてはなりません

モヤモヤその5-うちの社員が今回3人も召集され、店は一時休業しかないから大ピンチ!何か方法ない?

人手不足はサービス業の致命傷です。いくら減税ができても、そもそも営業できなければ課税される売上すらないから、減税の意味がありません。そこで、中小企業特例措置が登場します。

平均従業員数が20人以下の中小企業で、同時に2人以上の従業員が教育召集を受け、かつ会社の事業運営に影響が及ぶ場合には、当該影響を証明可能な資料その他エビデンスを添付し、予備役サービスセンターに申請を行い、そして許可が下りれば、教育召集を受ける予定の従業員のうち、半数以下が召集免除になる、との救済措置です。

少々悩ましい問題点は、本件申請で取れる免除枠は召集対象者の半数のみなので、従業員の間に不公平感を生じさせないにしつつ、どういった基準をもって免除対象者を決めるかを社内でしっかり検討を重ねる必要があるかもしれません。

モヤモヤその6―従業員が召集期間中にコロナを発症したら、休暇関係はどうなるか?

従業員が新型コロナを発症した場合、ルール的には病気休暇、有給休暇、自己都合休暇(無給休暇)を取得可能とされています。(マサレポ「5月5日に公告!4月8日に遡及適用されるコロナバージョンの労働者病気休暇制度」を合わせてご参考ください)

では、会社から公用休暇をもらい教育召集を受け、そして軍事キャンプでコロナにかかったら、その後の隔離期間は、会社から引き続き公用休暇を取得できるかどうかについて、原則として答えはNOです。

教育召集のルールによれば、召集実施期間中に感染が確認されたら、感染した日から召集解除となり、対象者はその翌日から召集前の状態に戻り、つまり会社との雇用契約に従って、今まで通り出勤するか休暇を取らなければなりません。その場合、コロナを発症した従業員は、先に述べた病気休暇、有給休暇、自己都合休暇からどれかを選んで、会社に休暇申請を行う必要があります。

また、感染したわけではないが、従業員が召集実施期間中にコロナ感染者の濃厚接触者となったら、同じく召集解除扱いとなり、その翌日は一般市民として社会復帰できます。この場合、感染症状が出るかどうか、ワクチンの接種済み回数によって、同従業員が通常通り出勤できるかを判断する形となります。

モヤモヤその7―求人条件に「除隊済み」を入れてもよいか?

一生懸命社員募集を行って、だいぶ時間が経ってようやく適切な人材に出会え、早速雇用したら、入社して1年未満のタイミングで入隊通知書が届き、業務に大変支障を来す恐れがあるものの、4ヵ月間も休業させなければならない、とのリスクを避ける観点で、一部の会社は求人条件に「除隊済み」や「兵役経験者」的な内容を入れたりしています。このような条件付けは就職差別に該当し、違法行為にされるかは悩ましい問題です。(※4ヵ月間の軍事訓練を経て除隊し、その後の8年間で最大4回ほど教育召集を受ける義務があります)

労働部の見解では、求人条件に「除隊済み」を要求したら、年齢的には徴兵対象期間に近い15~18歳の求職者にとって不利な影響が及び、年齢による就職差別に該当するから、違法であると認定しています(102年労職業字第1020054279号通達)。

一方、裁判所の考えでは、「除隊済み」という求人条件が就職差別に該当するかについて、行政側にはっきりとした禁止措置がなされていない以上、個別の事案でケースバイケース的に検証する必要があるほか、せっかく採用できたにもかかわらず、入社早々に兵隊入りする従業員を抱える会社の気持ちも考慮したら、「除隊済み」という条件付けは比例の原則に反しないのでは、という行政と真逆な見解が示されています(105年度簡字第29号行政判決等)。

「除隊済み」という求人条件が違法になるかどうか、最終的に裁判所の判断によらなければならないので、OKサインが出された判決結果を根拠に、たとえ求人募集で「除隊済み」との内容を入れても問題ない、と結論付けても原則として間違いありませんが、行政と司法の見解がまだ統一されていない現時点においては、どストレートに「除隊済み」を条件付けすると、先に行政指導に入られ、過料も課されてから、弁護士費用を支払って、気が遠くなるほどの裁判をやってようやく過料処分が取り消される、というコスパが極めて悪いプロセスが待ち構えているから、行政に真正面から挑むかを慎重に検討を重ねるほうが望ましいです。

モヤモヤその8―教育召集を跳ね返せる企業って存在する?

マサひろん

なんかTSMCの社員はみんな教育召集が免除されるらしいよ。

とのうわさ話がささやかれて久しいです。実際、その話は都市伝説ではなく、しっかりとした法的根拠を有する事実です。

兵役法第41条の定めによると、指定された6つの要件のうちのいずれかに該当すれば、教育召集の一時停止措置が適用されます。そのなか、「国防工業の専門技術者であること」という要件は、まさにTSMCの社員が教育召集と無縁な法的根拠です。

TSMCとは別に、CSC(中国鋼鉄社)、CPC(台湾中油社)、台プラ(台湾プラスチック社)...等も兵役法に定めた国防工業に該当するとされたため、同社の社員らは何時見舞われるかわからない教育召集を気にせず、仕事に専念できるのです。これは、国が許した大手さんならではの福利厚生かもしれませんね。

今週の学び

社員から令状が届いたとの報告を受けたら、無機質的に有給の公用休暇を与え、そして社員が軍事キャンプから無事帰還するのをただひたすら待っていたらよいはずの教育召集なんですが、ふたを開けたら、よもやこれほど細かいモヤモヤが出てきますね。5~7日間の招集ならそんなに気にも留めないかもしれませんが、「屈指の厳しさ」と言われている14日間の教育召集が導入された昨今においては、さすがに今までのように無頓着ではいかないかもしれません。

以下はまとめです。

ATTENTION!

※本マサレポは2023年11月13日までの法律や司法見解をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。

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