台湾の残業代には、隠しルールが多いって本当?
台湾の残業代(超過勤務手当)について、隠しルールが多いというより、労働法の内容や改正のポイントを把握しきれず、会社内部で、時間が経つにつれて何となく成立した暗黙の了解をもって、残業代の計算と支払を行っているにもかかわらず、ある日急に、社員から未払い残業代の話しを突き付けられ、若しくは地方労働局の抜き打ち検査で残業代の計算について指摘をされた、といった出来事がしょっちゅう起きたりしています。やられた会社さんからは、「隠しルールが多い」との感慨深い発言がなされるわけなのではと考えられますね。以下、残業代についての基礎知識をいくつかシェアさせていただき、「隠しルール」の可視化に少し貢献できたらと思います。
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残業代は、1時間以上の超過勤務があってはじめて支払うものでしょう?
会社は、分単位で残業時間を記録し(労基法第30条第6項)、そして記録した分だけ、原則として残業代を支払う義務を有しています。(労働事件法第38条)それでありえなさすぎないか!?退社する際に、机を片付けたり、トイレへ行ったり、同僚と世間話をしたりすることで、所定の退勤時間より数分遅れてタイムカードを打刻するのが一般的だから、その分も残業代を支払わなければならないのかい?っと考えていらっしゃる事業主が多いと思います。法律本文には全く書いていませんが、タイムカードにあった超過時間を残業として認めないのであれば、会社側では労働契約書、就業規則その他証拠資料をもって反対の主張を行うことは可能であると、まるで「隠しルール」のように、「立法理由」にて記載されています。(労働事件法第38条の立法理由)本件についての立証責任はほとんど会社にあるので、こういった人事管理に必要不可欠の書類の作成を怠らずに、整備しておきましょう!
残業代の精算はまだ終わっていないけど、対象社員はもう退職したので、支払いようがありませんね?
台湾の労働法では、残業代の請求権はいつ時効になるかを明記していません。ただし、実務的には、残業代は民法第126条にあった、「その他1年又は1年未満の定期給付債権」との性質を有するため、5年で時効が成立するとの観点が一番有力視されています。そのため、「元社員」であっても、残業代の支払い義務が発生して5年内の間においては、何時でも会社に対して未払い残業代の請求を行う権利があるものです。
未払い残業代の支払いを要求されたら、主張者に対してのみ支払えば結構、その他社員は無関係でしょう?
残業が確実に行われていたら、会社には残業代の支払い義務が生じ、残業を行った全ての社員は、会社に対して残業代の請求権を有する形となります。たしかに、未払い残業代の支払いを、対象社員からは何時までも要求されておらず、発生時から5年が経つと、時効が成立し請求権がなくなります。しかし、未払い残業代が存在すること自体、労基法の定めに抵触する行為として、行政からのペナルティ対象になってしまい、ましてや提訴したら時効が中断するので、未払い残業代の課題があったら早期に解決することが望ましいですね。
ややこしい残業について、台湾では一般的に、どのように運営、管理しているのか?
こと残業代に関しては、立証責任はほとんど会社側にあったとの法律設定なので、いろいろ対応方法が工夫されています。
実務上よく見られるのは、残業実施の事前申請制度です。所定の時間帯に社員からの残業実施申請がない限り、残業の実施を認めないとの合法的措置です。(行政院労工委員会96年3月2日労働2字第0960062674号解釈通達)
ただし、社員には残業事実があったのに、事前申請が行われなかったのみを理由に、残業代の支給を拒んではいけない、という労働部からの公的見解もなされています。(労働部103年11月28日労働条2字第1030132525号解釈通達)
そして、会社が一番見落としやすい法的ルールとして、社員が所定の退勤時間後に、会社に対して予め残業申請をせず自らの判断で残業を行った場合、会社が即座に反対の意思表示若しくはそれを防止可能な措置を取らなければ、当該残業行為も残業代の支払い対象となってしまいます。(労働部103年05月08日労働条2字第1030061187号解釈通達)
こういった非常~~~~~に細かい法律を遵守しながら、会社の権益が損なわれない人事管理を行うためには、以下のような対策が取られています。
まず、所定の退勤時間になったら、すぐ消灯したり冷房を止めたり、若しくは「退勤時間になったので会社に滞留せず早く帰宅してください」との社内放送を流したりすることで、「会社が即座に反対の意思表示若しくはそれを防止可能な措置を取る」、という要件をクリアできる対策が講じられています。
そして、1週間に一回、又は月次ベースで、全社員のタイムカード記録をチェックし、所定退勤時間を超過した記録があった社員と個別面談のうえ、超過時間における活動の詳細を把握します。それが私事だと判明したら、当人に私事の大まかな内容をカードに書いて、その隣にサインしてもらい、証拠品としてしっかりと社内に保管。
そのほか、上記のような、いちいち個別面談を行うのは効率が悪いと思う会社は、タイムカード制度を廃除し、代わりに勤怠管理用のオンラインソフトを導入。全社員に自分の出退勤時間及び1時間ごとの仕事内容をオンラインで登録してもらい、それを根拠に残業代を支払います。ただし、でたらめな申告をし残業代を過剰にもらおうとする社員がたまに居たりしますので、 対抗策として、会社が一方的に(労働契約書や就業規則等の書類に定期昇給や固定賞与を書かないことが前提)決定できる年次昇給の額や年度賞与額をもって、過剰に申告された残業代だけ減額したりする方法で調整しています。
台湾の残業代は、以上共有させていただきました通り、隠しルールが多いほか、金額の計算も非常に間違いやすく、落とし穴が大変多いものです。そのため、”うちの残業代、計算間違い100%ない!”と胸を張ってどや顔で話したりする会社はそれほど多くないかもしれなせん。(分単位で残業代を支払うルールだけでも相当厄介...)自社の残業代計算について、少しでもうやむやな点があったら、早期に専門家と相談してみることがお勧めです。
Attention!
※こちらの文章は2021年7月14日までの法規定をもとに作成したものであり、ご覧いただくタイミングによって、細かい規定に若干法改正がなされる可能性がございますので、予めご了承くださいませ。気になる点がおありでしたら、直接マサヒロへお問合せいただきますようお勧めいたします。