ややこしいな、ややこしいな~【台湾の年次有給休暇よくあるNG事例9選】
台湾の労使トラブルにおいて、給与支払いの問題と休暇取り扱いの問題が常に一二を争っている状況です。勤め先から定期的に当初約束した給料をもらわなければ、日常生活を維持できなくなる可能性があって、勤め先から妥当な休暇を取れなかったら、連続勤務で溜まった疲れが取れず健康に支障が生じたりするなど、いずれも死活にかかわる問題であるため、トラブルの火種になりがちなのも頷けます。
一方、本体は「休暇」なんですが、賞味期限が切れたら「換金」もできる、炎上しやすい2種の体質を兼ね備える「年次有給休暇」は、どれほど丁寧に取り扱ったとしても、細かい設定をやはり間違ったりするという、まさにトラブルの権化と言っても過言ではありません。
会社が一方的に社員に有給休暇を与え、社員がそれを使用しなければ別途お金がもらえるから、何故トラブルに?
以下、台湾の労働部が近日まとめた年次有給休暇に関するNG事例を紹介させていただき、それらの事例を参考に、自社の有給休暇の取り扱いについて軽く健康診断していただければ幸いです。
目次
NG事例①―1年目の付与日数の計算間違い
自社特有の福利厚生として、入社時にすぐ有給休暇を付与するケースを別として、台湾の年次有給休暇は入社して満〇年に〇日の休暇を支給するという仕組みを取っています。満1年に7日、満2年に10日、満3年に14日を…という具合で、会社は原則として労働法に定められた日数をその通りに社員に支給したら問題ないという、分かりやすいと言えばわかりやすいだが、問題は2016年に登場した、「満6ヶ月に3日」のルールです。
一部の事業主は、新入社員が入社して6ヶ月経過したとき、法に基づき3日の有給を与えたが、さらに6ヶ月経過した時点、つまり勤続満1年のときに、4日の有給のみ当該社員に与えているようです。
満1年の7日は、満6ヶ月の3日を「含んでいる」から、入社して1年目のとき、追加で4日の有給を社員に与えれば問題ないのだ!
というように考えることが主な理由だそうです。ただし、1年目の7日は、満6ヶ月時の3日を控除してよい、という一言は労働法のどこでも書いていません。会社にとって有利な方向で法律を過剰に解釈するのは危ないので、留意しておきましょう(労働基準法第38条第1項)。
NG事例②―有給休暇の使用を強制できると思い込む
有給は会社が社員に与える福利厚生なので、いつ使用するかは会社が決定できる!
というように認識する事業主は、会社の閑散期に社員に有給休暇の使用を強制したり、店を開いても顧客が来ない台風又は豪雨の日に、社員に休暇を命じて有給休暇を差し引いたりする場合があります。法律の規定では、有給休暇をいつ使用するか社員は自らの意志で決定できるとされているため、事業主は経営上の都合により、社員に有給休暇を使用させようとしても、それを「奨励」するしかできず、一方的に命令することができません(労働基準法第38条第2項)。
NG事例③―パートタイマーに有給休暇は不要
有給休暇は正社員に与える福利厚生なんだから、パートタイマーは適用しない!
という誤解もよくあります。労働法にある有給休暇の付与に関する規定は、正社員とパートタイマーを区別するような文言は一切記載されておらず、無期雇用か、有期雇用、又はパートタイマーを問わず、労働者であれば会社から有給休暇をもらう権利が与えられています。
また、パートタイム社員は勤務する時間が正社員より短いので、全く同じ日数の有給休暇を与えると、不公平が生じてしまう、という問題点に対して、パートタイム社員の正味勤務時間が正社員の通常勤務時間に占める割合をもって、法律に定めた日数に乗じて計算した有給休暇を、パートタイム社員に与えればOKだ、と労働当局が別途公式ルールを作って、パートタイム社員に付与する有給休暇の計算に関する見解を示しています(パートタイム労働者を雇用するための要注意事項)。それを参考に、パイとタイム社員への有給休暇を正しく計算することがおすすめです。
NG事例④―使用可能な有給休暇を能動的に通知しない
社員は自らの有給休暇を管理する義務があり、聞いてきたら教えてあげるが、会社はいちいちそれを社員に報告する義務はない!
台湾の労働法では、使用可能な有給日数を定期的に社員に通知することを会社に義務付けており(労働基準法第38条第5項)、入社して満〇年になった社員に対しては、会社はただ黙々と有給台帳を更新するのではなく、「あなたは、これから〇日の有給休暇を使えるよ、いつ取るか自分で考えなさい」という説明を、書面、電子データ、または社内アプリその他労働者が何時でも取得可能な方法で通知してあげなければなりません(労働基準法施行細則第24-2条)。なお、この書面通知は、対象社員が満〇年の日から30日以内に行う必要がある点も留意しておきましょう(労働基準法施行細則第24条)。
NG事例⑤―退職社員の未消化有給を没収する
退職願を当社に出した社員は自らの意志で未消化有給を使用する権利を放棄したわけなので、業務が忙しすぎて有給を使う時間がないその他在職中の社員とは事情が明らかに違う。だから当社はわざわざ退職した人間の未使用有給を買い取る義務はない!
労基法の規定では、社員との雇用関係が解消したとき、会社は当該社員の未使用有給休暇を買い取らなければならないとされます(労働基準法第38条第4項)。そのため、社員が自ら退職の申し出を行ったのか、もしくは会社から解雇されたのかに関わらず、もし当該社員が最終出勤日の時点に未使用有給休暇を持っているのであれば、たとえ当初約定した有給休暇の使用期限がまだ満了していなくても、会社はそれらを買い取る義務があり、使用権を放棄したとみなし対象社員の未使用有給休暇を没収してはなりません。
NG事例⑥―買取賃金の支払い遅延
未使用有給の買取賃金は給料じゃないから、急いで支払う必要はないはず。年度ボーナスを支払う月か、売掛金を8割ぐらい回収できたときに支払おう。
未使用有給休暇の買取賃金は、通常の給料とは違い、毎月決まった日時に支払われるものではないとはいえ、法律上ちゃんとした支払期限が定められています。台湾の労働法によると、未使用有給休暇の買取賃金は、使用期限を過ぎた直近1回の給料日に、遅くとも使用期限を過ぎた30日以内に対象社員に支払わなければならないとされます(労働基準法施行細則第24-1条)。
買取賃金を支払うタイミングが遅すぎて、その間にもし立ち入り検査に入られたら、「買取賃金の未払い」として過料処分を下されるリスクが伴うので、しっかり守っておきましょう。
NG事例⑦―買取賃金の計算間違い
会社に協力して残業したことで得られる超過勤務手当とは違い、未使用有給の買取賃金は別に仕事をしなくても支給されるのだから、各種手当を外して基本給で計算すべきだ!
実は、未使用有給休暇の買取賃金の計算には、基本給に加え、労働対価性を有する手当、例えば食事手当、皆勤手当、役職手当などもひっくるめて考えなければならないとされます(労働基準法施行細則第24-1条)。
年度ボーナスは、労災補償金など支払義務が明確に定められたものとは違い、会社が社員に感謝の気持ちを込めて支払うという、いわゆる「謝礼」の性質を有するものなので、基本給の〇カ月分的な計算方法を取られても別に問題ないのに対して、未使用有給休暇の買取賃金の支払いはきちんとした法的根拠が存在し、それに則って行わなければペナルティが伴います。年度ボーナスの考え方と混同し、基本給のみで未使用有給休暇の買取賃金を計算しないことを留意することが重要です。
NG事例⑧―年度ボーナスには買取賃金が入ってるよ!
年度ボーナスを支払うか、支払うなら金額をいくらにするか、に関する基準がないから、当社が支払う年度ボーナスに、有給の買取賃金が含まれるよ、と主張したら、買取賃金を別途計算し支給する面倒さがなくなるぜ!
年度ボーナスは年度ボーナス、未消化有給休暇の買取賃金は未消化有給休暇の買取賃金。計算方法や支払う時期を含め、両方は労働法上における性質が全く異なるため、根拠もないのに「一方が他方に含まれる」との主張は法的に認められる可能性が極めて低いのです。
NG事例⑨―買取賃金の支払いを事前に約束しておく
大口注文が入ったから、これからの一年は有給を使用しないでほしい。その分買取賃金を多めにあげるから。
年次有給休暇制度を設ける主旨は、通常の休暇とは別に、一定の勤続期間に達した労働者に休憩を取ることを促し、それによって健康的かつ長続きする職場生活を送ってもらうためにあります。そのため、会社が予めお金で「休憩を取る」ためのツールを取り上げたりすることは法的にNGとされます。
今週の学び
煩雑で極めて間違いやすい残業代計算や、落とし穴だらかの休暇制度だけでもしょっちゅう頭を悩まされているのに、一見手軽の有給休暇でも面倒くさいサイドルールが少なくないです。マサレポで毎週精進する社員に突っ込まれる前に、先に今回紹介したNG事例でヘルスチェックを行い、難解な状況に出くわしたら、是非気軽にマサヒロに相談してください。